通貨になれないままシェアが増えるPORKER WEB COINの悲しい末路
賭博、税務、どっちを向いても地獄という様相を呈してきているPORKER WEB COIN経済圏ですが、法規制回避スキームの一環として採用されている構造が、将来自らの経済圏を破壊する致命的な欠陥を抱えている、チキンレース経済圏である点に言及している人がいなかったので今回はそれに言及したいと思います。
2024年8月22日
書きっぱなしにしてたのですがdarvvvさんのシェアに寄り読む人が増えたので、考えが進んでいる部分を追記しました。具体的にはコインの市場流通総量の誤認についてで、マクロな考え方に影響を与えます。
しかしこの誤認は、終末までのチキンレース桟橋が伸びるだけじゃないかというのが筆者の考え方であり、流通総量の飽和による構造の問題点そのものを否定するわけではないので記事の大部分はそのまま残しています。
PORKER WEB COINの法規制回避スキーム
PORKER WEB COIN(以降はCOINと表記)は、前払い決済手段の適用を、対価性要件を満たさないことによって回避しようとしていると考えられ、その実現のために以下の制約条件を採用していると考えられます。
プレイヤーが現金でCOINを直接購入することはできない
加盟店は、自店が購入したポイントを超えてPORKER WEBに売却することはできない = COINを集めることで収益を得ることはできない
同時に加盟店の主張は、
ユーザーがトーナメント参加に支払っている費用は、施設利用料、トーナメント開催にかかる経費に充当される参加費であり、プライズの根源となるものではない
付与されるポイントはあくまで無償で発行されているポイントである
という要件によって構成されていると考えられます。
(PORKER WEBそのものは、あくまでCOINのイシュアーなので、賭博性について直接的な関与を持つものではないという主張が可能そうなのも上手くやってるなという印象です)
そもそもこういう主張をしているのか、そしてその主張が適法かどうかという問題については、現在X上で様々な議論がなされていたり、考慮範囲が極めて広範囲に及ぶため、ここでは言及せず、「多分そう」という前提で以下を続けます。
適法性主張のために犠牲になった、COIN流通構造上の欠陥
さて、資金決済法の適用を回避し、賭博に当たらないという主張のために課された制約の一つである「加盟店は、自店が購入したCOINを超えてPORKER WEBに売却(返却)することはできない」が、COIN流通に対してどのような影響を及ぼすか検討してみましょう。
COIN加盟店に発生する、COIN放出インセンティブ
COIN加盟店は、支払手段としてCOINを受け入れなければなりません。(ドラッグストアのポイントで薬を買えるようなもの)
しかし、加盟店はこのCOINを自店の購入金額を超えて現金にすることはできないので、COINの保有残高が増えることは嬉しくありません。つまり、何らかの方法で売上を得て、COINをユーザーに放出する必要があります。自社のCOIN残高を低く保つ、強いインセンティブが発生するということです。
一方、ポーカーブームにより、大型大会の開催回数と参加人数は増え、市場には自店が購入した以上の大量のCOINが供給され続けます。※ 2024年8月22日追記
大型大会の還元率の低さを考慮すると、大型大会はむしろCOIN吸収装置として機能する可能性があります。実際にどういう働きをしているかは売上構成比が不明なので言及不可能ですが、仮に吸収装置として機能しているとすると、大型大会そのものがCOINを余らせないための急激な成長を強いられることになります。
対価性を回避したがゆえに制約を受ける、COIN流通規模
通常、通貨の価値は相対的であり、該当通過を取り扱う経済圏の規模と、通貨の総流通量によってその相対的価値が決定されます。
通貨を取り扱う集合体のトータルの経済価値が変わらないまま、通貨の流通量が増え続けると、変動為替相場において通貨の価値が下がります。
Bitcoinなどは、コインのマイニングにかかる計算量を増やすことでその流通量をコントロールし、過度な通貨流通を防いでいたり、USDCなどのStable Coinは、根拠資産を準備することでその貨幣価値の安定を図ると同時に、変動為替相場に参加することでコンセンサスによる価値の適正化が図られています。
一方で、COINの価値は1COIN=1円相当で固定されているため、ある時点でCOINが大量に市場に供給されたとしても、その見かけ上の相対的価値が下がることはありません。同時に、COINは気軽に現金化することができないため、対価性によってその流通規模を自走的に拡大できないという制約を抱えています。
閉じられた経済圏に、過度なCOIN供給が行われるリスク
このような経済圏において最も恐れるべきことは、COIN加盟店の経済規模に対してCOIN流通量が飽和することです。
昨今のようにポーカー市場が成長の一途をたどっている場合においては、COINを十分な量所有していないユーザーの比率が高いため、現金でポーカーをプレイするユーザーの比率はまだ高いと言えますが、COINを保有しているユーザーの比率が上がったり、COINを使い切れないレベルで保有しているユーザーの比率が上がってくると、個人間取引による割安なCOINの譲渡を伴いながら、店舗の現金収入源が枯渇していくことになります。
POEKR WEBは5%の利用手数料と3%のユーザー間送付手数料を課すことである程度のCOINを市場から取り除いていますが、大型大会を通して際限なく供給されるCOINの量を鑑みるとCOINの流通量抑制効果には疑問が残りますし、大型大会においては手数料5%分が上乗せされたCOINが配布されるようになってしまったため、ほとんど意味がないのが実態です。
換金不可能かつ固定レートで閉じられた経済圏の中で、COIN流通量が増えると何が起こるかは明確で、当該経済圏の急速なインフレが発生します。
冒頭に書いたように、店舗はCOINを収益に変えることができないため、放出に対する強いインセンティブが働きます。
その結果発生するのは、
・保有COINを一掃できる大型プライズマッチ
・負け組が現金を払い(現金収入)、勝ち組に大量のCOINを付与(COIN放出)できるCOINリング
といったハイレートなイベントやテーブルです。
皆さん心当たりがあるように、こういったイベントやテーブルが最近激増しています。つまり、COINのインフレはすでに始まって、手が付けられない入口に立っているのではないでしょうか。
2024年8月22日追記
これはマクロなインフレというよりも、店舗におけるコインのダブつきと、高プライズの集客力という、よりミクロな力学の話ではないかと思い至っています。それもまたインフレを起こす一端になり得るという点は否定できません。
店舗がCOIN発行元から現金を得られず、なおかつ大型大会によってCOINが市場供給され続けるという制約の中、インフレを防ぐためにはポーカープレイヤー人口がCOIN供給量を大きく上回って増加する必要があります。
しかし、ポーカールームに訪れているメンツを目にする限り、そのような速度で人口が増えているとは思えないというのが感想です。
続編では、大型大会から供給されるコインの量と、加盟店数とその経済規模から、現在のCOIN流通量がどれくらいヤバいのかを検討したいと思います。もしかしたら意外とヤバくないかもしれないし。
奇跡的な規制緩和が起きて、店舗が保有しているCOINが現金化できる未来が来るのか、IRがオープンしてCOINをプレイバウチャーに買えることができる未来が来るのか、COIN加盟店が次々と倒産して経済圏が破綻する未来が来るのか、はたまた別のソリューションが見つかるのか一人のポーカープレイヤーとして、日本のポーカー市場が成長することを祈って止みませんが、同時にそれが健全な形でもたらされることを願っています。
追記パート 過剰供給は生まれないんじないか編
2024年8月22日 17時追記
この記事を出したものの、国内大型大会における還元率の低さを考慮するとJOPT自体はコイン輪転機よりもコイン吸収装置をになっているという考え方のほうが妥当かもしれません。(JOPTが吸収したコインはいずこへ?疑問は残りますが、JOPTの規模が大きくなり続ければそれも問題にはなりませんし、実際JOPTは成長し続けています)
この記事執筆時点では、COINを持っているだけで、その出所にかかわらず30,000円から日本ポーカー連盟と選手契約を締結可能である(https://pokerjapan.jp/sponsored_coin/)ことを知らなかったので、コインの流通総量はもっと簡単に抑制できそう(実際にされていそう)です。このことについてはdarvvvさんが極めて重要な示唆を出しています。
踏まえると、COINの構造上の問題は潜在的には存在しているが、チキンレースの桟橋は実際にはかなり長く、すぐに顕在化するような種別の問題ではなさそうに思えます。前提誤認があったので、この記事の妥当性自体に疑義が生じることをここで謝罪して訂正します。
とはいえ、マクロに発生することの速度感は、店舗にCOINがダブつくという現象は、皆さんの大好きな分散を考慮すると当然に起こり得るので、店舗が自転の借受総額を超えて現金化できないCOINが、店舗経営を圧迫するリスクを孕んでいるという事実は動かないものに思えます。