Blue&Red~相反するもの~1
「ごめんね!」
「あいつ」から送られてきた「最後」のラインは、この4文字「だけ」だった。
時は、2年前に遡る。
当時のリュウは、バカみたいなやさぐれで、仕事も遊びも、やりたい放題ばかりの生き方をしていた。
つい3ヶ月前、それまで付き合っていた女をフったばかりだったからだ。男なんてのは「ゾンザイ」な生き物で、フったことを、リュウは心底後悔していた。
「やってられっかよ!。あのクソアマ!」
そう、言葉に出すことで相手を否定し、自分だけが傷付いていたつもりでいた。
当時の俺は、見習いとして現場で働いていたが、仕事中は大いに荒れ、仕事が休みになる度に、夜の繁華街へ消えていくこともしばしばだった。
その割にはこの男、アルコールを全く受け付けない体質なのだ。キャバクラに行き、紫煙をくゆらせ、無理してアルコールを強引に体内に引きずり込み、バッカみたいに高い金を払っているばかり。
「なーにやってんだかオレぁ…」
全く飲めないアルコールに手をつけベロベロになりながら、財布の中身が空同然になってるのを目の当たりにして、やっと己の哀れさに気付く。
「本当の」バカもやった。
いつもの様に休み前日、夜の繁華街へ足を運ぶ。すると、如何にも「ぼったくりますよ」という風貌の男共に声をかけられた。最初はシカトを貫いていたが、その日の俺は何故か、異様にムシャクシャしていた。
「いい加減にしろ!、しつけぇよ!」
リュウはかなりキツイ口調で言い放った。当たり前だが「その類い」の連中に、そんなことを言って只で済む筈がない。案の定、人気のない処に連れていかれた。
普段のリュウなら自慢の快足で、撒くこともできただろう。しかし今回は「敢えて」連れていかれたのだ。
「丁度良い。滅茶苦茶イラついてたんだよな。こいつらなら、先に手を出させれば幾らやり返しても正当防衛で済む。ラッキー♪。」
そんなことを考えていたのだ。相手は3人。
俺を連れてきた如何にも下っ端の男が
「お兄さん、あまり調子のっ…」
そこに俺が、わざと遮るように
「うっせーカス、お決まりの御託並べるためじゃねーだろ!。」
案の定、そいつからボディブローが入った。ただそんなものは「計算内」であった為、全く痛くは無い。喰らう瞬間、そこに筋肉を集中させ、尚且つ急所もずらしていたからだ。
リュウが、ほくそ笑みながら言った。
「やりましたね?。したら、こっからは正当防衛なんで。」
リュウは基本的に、ケンカをしても「手は」出さない男だ。手は商売道具である為だ。というよりは、力の加減を知らない為に、普段も口こそかなり悪いが、ケンカすらも中々しない。
出るものは「脚」。
ボディブローを頂いた、相手の溝落ち目掛けてリュウの左ミドルが入る。
「か…?」
「おいおい。マンガなら、か…は。位は言うだろ…それすら言えねぇってか?。話んなんねぇな!。」
残りの二人が目の色を変えて突っ込んできた。しかし、リュウは慌てない。ひらりひらりと難なくかわす。この男、頭こそ良くはないが、身体を動かす俊敏性、筋力を使うバネ、そんなものより特に、動物的勘が天才的に抜群なのだ。
「あーかったりぃ。しゃーねぇ、たまにはいっか!。」
珍しく手も出した。左コークスクリュー。突っ込んできた一人に御見舞いした。一撃必殺とは正にこの事。相手は地面に突っ伏し微動だにしない。
「やべ、もろに入った。そいつ、内臓イッたかもね♪。」
俺は声に出しつつ、最初に左ミドルをくれてやった野郎を蹴り飛ばし続けていた。あと一人。多分こいつがボスキャラだ。
「クソ餓鬼がぁ!。」
案の定、お決まりのセリフだ。面白くも何ともない。多分出るかな?。とは思っていたが、やはり刃物を所持していた。
「そんなもんで殺れるってか?。殺ってみろよ!。」
ナイフを持ち、突っ込んでくる。お約束も程々にしてくれ。俺は全神経を集中し、ナイフ目掛けて蹴りを入れた。
「キイィィーン」
つまんねぇ。そう思った。正にマンガじゃねぇかこんな展開。そうとも思った。
「助けてくれ…とかは言わないよねぇ?。」
俺はあっけらかんと言った。
「うおあぁぁ!」
「バカ」が突っ込んでくる。俺は最早、ため息しかでなかった。
「だから!。マンガみたいなことしてんじゃねぇよ!。」
俺の渾身の一撃。飛び蹴りが炸裂した。
「あースカッとした。相手をよく選んだ方がいいよ?。お兄さんたち。下手すりゃ死ぬぜ?。」
本当はその後、フルボッコにしてやるつもりだったが、珍しく手を出した為か、手がメチャメチャ痛いので、仕方なくその場を後にした。
「痛って!。あーあ…ガラにもないこと、すっからだよなー…。」
歩きながら俺は思った。左コークを入れた際、腕を捻り込み過ぎていたのだ。といっても、家に帰って親に不審がられるのも目に見えていたから、しゃーなくニュークラみたいな店へ入った。
それでも大した面白くもない。割と感じの良い店ではあったが、延長も、特段呑んだりすることもなく、ライン交換のみして店を後にした。
「つまんねぇな。」
俺はその時、初めてそう思った。夜の繁華街というものが。俺はそれからというもの、夜の繁華街へ行くのを止めた。
最も、かなり大立ち回りをやってしまったし、噂になって捕まりたくもなかったからだ。幾ら相手3人の正当防衛とはいえ、流石にやり過ぎた。蹴り飛ばし続けていた野郎に至っては、意識すらなかったからだ。
それから俺は、地元近くにあるカラオケ屋に通い詰めた。歌っている間だけは、全てを無に返すことができるような気がしたからだ。
そんな若気の至りもありつつ、ふとカレンダーを覗くと、クリスマス前になっていた。
「今年は、一人か…。」
その矢先「あいつ」が現れた。
~2話へ続く~