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ダークパターン〜騙しのデザインと欺瞞的なオンラインユーザー体験〜

こんにちは、突然ですが、「ダークパターン」と言う言葉を聞いたことがありますか?「ダークモード?」「ダークマター?」「ダースベーダー?」と類似する言葉が色々思い浮かぶかもしれませんが、本日はまぎれもなく「ダークパターン」に関する話を書こうと思います。

ダークパターンとは?

アメリカのUXデザイナー ハリー・ブリグナル(Harry Brignull)氏によって提唱された言葉で『ユーザが無意識に不利な行動を取るように誘導するデザイン』の事を言います。(Deceptive Design<騙しのデザイン>と言う風にも言い換えられていますが、ここではダークパターンと呼びます。)

情報がわかりやすく提示されていれば決して選ばないような選択をユーザにさせる仕組み・設計の事を指します。

例えば…こんな状況経験したことありませんか?

  • 登録(入会)は簡単なのに、登録解除(退会)は難しい

  • メルマガ購読に勝手にチェックが入っている

  • いつの間にか手数料が合計金額に加算されている

  • 勝手に定期購読になっていた

  • カートに商品が勝手に追加されている

  • キャンセルボタンが見つけられない

  • カウントダウン終了後でも購入できる

  • 残り○○個!!(〇〇分!!)と急かす

はい、インターネットで何らかのサービスを使ったことのある方であれば、ほぼほぼ遭遇したことがあるのではないでしょうか?ついうっかり要らないのにメールマガジンを登録してしまった…などの経験もあるかもしれません。このようにダークパターンは、「ユーザーの見落としや誤解、操作時の習慣、誤認知などユーザ心理を逆手にとって不利益を与える手法」、つまり騙しのデザインの事を指します。

なぜ今ダークパターンなのか?

ダークパターンが今、世界のあちこちで問題視されており、特にアメリカでは国レベルでの整備に向かっている。

カリフォルニア州では、2021年3月にCCPA(カリフォルニア州プライバシー憲法)のなかにダークパターンのみを対象とする規制を盛り込んでいます。

2022年1月からCCPAに代わり施行される改正消費者個人情報保護法のCPRAには、「ダークパターンによる一方的な合意は、ユーザーとの合意とはみなされない」と定められており、明確な規制対象となっています。

国(アメリカ)レベルでも、議会にダークパターン関連の法案が提出されています。「欺瞞的なオンラインユーザー体験の防止法(DETOUR)」は、大手プラットフォーマーに対し、ダークパターンで消費者に個人情報へのアクセスを許可させることを禁じる法案です。

GDPR

欧州では、2018年5月に、GDPRが策定され個人情報の収集に関して厳密な整備がなされています。

日本企業のサイトであっても、仮にEUやアメリカの消費者に同様の不利益を与えてしまった場合、GDPRやCCPAの規制の適用を受け、 巨額の罰金や解決金を科されるおそれもゼロではありません。

制裁金2種類のカテゴリー(EU圏外の国も対象‐EU域内で商取引をしている企業が対象)

①最大10,000,000ユーロ or 全世界年間売上高の2%の高い方
②最大20,000,000ユーロ or 全世界年間売上高の4%の高い方

制裁事例(2021年8月)

EUのGDPR違反でAmazonに制裁金約970億円。GDPRに基づく制裁金としては過去最大規模になる。

ダークパターンがきっかけで裁判も起こっています。

事例1

LinkedInは、望ましい結果(例えば、友達を見つけるなど)のために使用すると偽って、あなたの電子メールやソーシャルメディアの許可を求めますが、その後、あなたからのメッセージと主張するメッセージですべての連絡先をスパムにします。 2015年に集団訴訟の一環として1300万ドルの罰金を科される結果となりました。

事例2

ネガティブプション課金とは、顧客が事前に注文していない商品やサービスを提供され、課金前にサービスに対する支払いを継続するか、特に拒否する必要がある商習慣のことである。このダークパターンは、ネガティブオプション課金や惰性販売とも呼ばれる。消費者権利指令により、英国をはじめEU各国では違法となった。

では日本国内では?

ここまでの流れをみると、ダークパターンはアメリカや欧州で騒がれていることで、日本国内ではそんなに影響がないのでは?と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。実は…

日本国内は約6割のサイトがダークパターンを採用。ダークパターン対応が遅れており、越境消費者トラブルの一部でしかない。

日本経済新聞が明治大学とプリンストン大学から助言を受けて行った調査では、調査対象とした100の主要サイト中、62のサイトでダークパターンが確認されました。 ※多く見られたのは「誘導」…日経新聞の調査では100サイト中、58サイトで確認されました。
最初からメルマガ購読にチェックが入っていたサイトは51サイト、商品の定期購入にチェックが入っていたサイトも2サイト確認されました。

消費者は不利益を被ってしまうダークパターンも日本の現行法では合法の範囲内であり、特に罰則などを科す規制はありません。対応は遅れていますが、日本でも消費者庁が、特定商取引法の改正に向けた取り組みを始めています。(21年6月25日:消費者庁消費者基本計画工程表改訂個別施策例より)

つまり、日本だから…ではもうすまされない問題だと思います。なぜならば、今やどこも海外と全く関係のない国内オンリーの特にインターネットビジネスを行う事はほぼないと見ていいからです。裁判や罰金が起こってからでは「知らなかった…」では済まされないのです。

また、最近ではビジネスにおける倫理観が非常に消費者の間でも見る目が厳しくなってきています。生活者は購入と言う行為を通じて社会に貢献するという視点が加わり、ますます「倫理的でないビジネスのやり方」を嫌う傾向にあります。

つまり、ダークパターンを知ることにより知らず知らず内に自分や自分が属する会社が行っているビジネスを守り、生活者から選ばれる存在に近づく事につながっていくと言っても過言ではないのです。

ダークパターンの潮流

①小売業における欺瞞的な慣行

ウェブ以前からの商習慣として、人を騙すような取引が横行していたこと。
例えば100円の商品を98円に設定し「安い」と思わせる。(サイコロジカルプライジングの代表的なケース)いつでも閉店のカウントダウンセールをやっているという虚偽広告や、品質を誇大表示した目玉商品で客を釣り、それとは別の割高な商品を買わせようとするなどの行為が商習慣として常態化し、それを消費者が嫌々ながら受け入れてきた実態が指摘されています。

②公共政策におけるナッジ

有名な事例としては、欧州における臓器提供の意思表明率があります。「臓器提供するならチェックしてください」という記入方法を採用しているイギリスやドイツが十数%なのに対して、「拒否するならチェックしてください」としたフランスやオーストリアは表明率が100%近くに達しています。後者の方が公共の利益に適っていますが、これだけ重大な事柄を大半の人が自覚せず表明している状態が議論を呼んでいます。

③デザインコミュニティでのグロースハック

「グロースハック」とはサービスの成果を改善していく観点から、短期的な収益よりもユーザーの支持や業界におけるシェア獲得によって成長(グロース)を遂げることを重要視する、シリコンバレー発祥の考え方です。一例として、フリーメールとしてシェアを拡大したHotmailはメールの末尾に会員登録リンクを記載することで、使われる程にユーザーを広げていきました。

上記は、講演資料より(出典:Arvind Narayanan, et al., Dark Patterns: Past, Present, and Future 提供:長谷川敦士)2021年6月 抜粋

では騙しのデザインにはどんなパターンがあるか?

この言葉の生みの親であるHarry Brignull氏のWEBサイト「DarkPattern.org」ではダークパターンを以下の12種類に分類しています。詳細は「DarkPattern.org」にてご確認頂ければと思いますが、ここでは簡単に概要のみ紹介します。

①Trick Questions(トリッククエスチョン)

答えをだまし取るような質問を紛れ込ませること。ぱっと見ただけでは、あることを尋ねているように見えますが、よく読むとまったく別のことを尋ねています。「Yes」にチェックを入れるのかと思いきや、「No」にチェックを入れる質問と交互に小さい文字で書いてあったりするアレです。紛らわしいことこの上ないですが、運営者は「確信犯」なのです。。

②Sneak into Basket(バスケットに忍び込む)

何かを購入しようとすると、購入過程のどこかで前のページにあるオプトアウトのラジオボタンなどを使って、追加の商品をこっそり買い物かごに入れてしまう騙しの手口です。気づかなければそのまま購入してしまいますよね。。。人間の認知を悪用した手口です。

これはネガティブオプション課金や惰性販売とも呼ばれます。消費者権利指令により英国をはじめEU各国では違法となりました。

③Roach Motel(ゴキブリほいほい)

登録は簡単。退会は大変。

数回のステップで簡単に登録はできますが、いざ退会・解約する際にはその何倍もの労力が必要。故意に解約方法を分かりにくくしたり、電話だけで解約を受け付ける企業も存在します。

その状態をゴキブリホイホイに例えたダークパターンです。
これはほんと日本でもあるあるですよね、会員登録はとても簡単だけど、解約方法がホントにわかりづらい…、どういうつもり?といいたくなります。

④Privacy Zuckering(プライバシー・ザックリング)

SNSに対する情報へのアクセス許可などの場面で自分が意図した以上の情報が公にされてしまう。FacebookのCEO Mark Zuckerbergへのオマージュとして名付けられました。例えば利用規約の中に隠された小さな文字が、あなたの個人データを誰にでも売る許可を与えるようになっていたりします。

これは診断アプリとかでたまに問題になりますね。Twitterでよくみかけます。

⑤Price Comparison Prevention(価格比較の防止)

お客様がある商品と他の商品の価格を比較することを困難にし、十分な情報を得た上で決断することができないようにするダークパターンです。

僕はAmazonくらいしかECを使わないのですが、離脱することで防げそうだなと思います。

⑥Misdirection(ミスディレクション)

あるものに注意を集中させることで、別のものから注意をそらそうとするデザインです。多くのダークパターンは、何らかの形でこのトリックを使用しています。デザイン心理学のフィッツの法則(ターゲットに至るまでの時間は、ターゲットの大きさと近さで決まる)を悪用したパターンではないかと思います。

⑦Hidden Costs(隠れたコスト)

ECサイトで商品を選び、配送先の名前、住所、電話番号、クレジットカードの詳細、自分の名前、住所、電話番号、クレジットカードの詳細などを入力し、「注文内容の確認」のページにたどり着いたとき、事前告知なしの隠れたコストが表示されるダークパターンです。

②のSneak into Basketに近いものがありますが、決済画面で突如送料が現れるなど、これは国内でも見かけることが多いのではないかと思いますね。

⑧Bait and Switch(おとり商法)

ユーザーはあることをしようとして、その代わりに別の好ましくないことが起こるダークパターンです。

デジタル・ベイト・アンド・スイッチの最も有名な例は、マイクロソフトがパソコンをWindows 10にアップグレードさせるために行った誤ったアプローチです。(×ボタンをウィンドウを閉じると思い込み押すと、アップグレードに同意のコマンドが走る、というかなり困ったダークパターンかと思います。)

これはデザイン心理学のヤコブの法則(ユーザーは他のサイトで多くの時間を費やしているので、あなたのサイトにも同じ挙動を期待している。)、ユーザーのメンタルモデルを悪用した手口ですね。

⑨Confirmshaming(確認シェイミング)

コンファームシェイミングとは、ユーザーをだまして、何かに同意させるダークパターンです。

拒否するオプションは、ユーザーに恥をかかせて(Shaming)承諾させる(Confrm)ような言い方をします(「私は愚かにもこのお得なオプションを拒否する決断をします」など。)最も一般的な使用方法は、ユーザーにメーリングリストに登録させることであり、退出意図モーダルやその他のポップアップでよく見られます。ある種のUXライティングの悪用事例かもしれません。

また最近ではLINEなどではキャラクターを使い情に訴えかけるような手口も確認されています。

⑩Disguised Ads(偽装広告)

他の種類のコンテンツやナビゲーションに見せかけて、クリックさせるために作られた広告のこと。

近年ではローディングの時間差を使い広告をわざと踏ませる手法であったり、スマホの埃を演出した広告を表示してわざと踏ませるような形を取ったり、その手法は複雑化してきています。

これはインターネット黎明期から見かけましたね。フリーソフト配布サイトなどではダウンロードというラベルを使い、クリックすると実は広告だった…というのが…。

⑪Forced Continuity(強制的な継続)

あるサービスの無料体験が終了し、何の前触れもなくクレジットカードに無言で課金され始めたとき。その際、自動更新を簡単にキャンセルする方法がない。

ユーザに無断でサービスを無理やり(Forced)継続させ(Continuity)、課金し続けるダークパターンです。

これは結構ASPやサーバーなどでも見かけたことがありました。利用規約の目立たない条文の真ん中くらいのところに書いてあったり…。

⑫Friend Spam(友達からのスパム)

『この製品は、望ましい結果(例えば、友達を見つけるなど)のために使用する』と偽って、あなたの電子メールやソーシャルメディアの許可を求めますが、その後、あなたからのメッセージと主張するメッセージですべての連絡先をスパムにします。

最も有名な例はLinkedinが使用したもので、2015年に集団訴訟の一環として1300万ドルの罰金を科される結果となりました。

よく見る例だと、友達からくるFacebookページへのいいね!の要求もそれに近いのではないかと思います。

ダークパターンへの対抗策

とにもかくにも、人間の認知や心理を狡猾に刺激するやり口は昔からあったかと思いますが、デバイスや利用状況の多様化により益々気を付けなければならないものとなってきていますが、明確な有効打は今のところ決まっておらず、各所で議論、試行錯誤されている状況です。

このエントリーを持って、仕掛けないのはもちろんですが、利用者にとってもこのような手口があるという事を知るきっかけとなればと思い書きました。

ですが、諸々調べている中で「え!これもひっかかるの!?」と思えるものが多々ありました。例えばタイムセールですね。単なるタイムセールであればセーフで、タイムアップした後もタイムセールと偽りセールを行っているとアウト、確かにどこまでがダークパターンに該当するかと言うのは、ケースバイケースとしか言いようがなかったりもするのかと思います。

実際、大阪の靴屋さんで20数年間閉店セールをやり有名になったケースも上記の流れに当てはめるとダークパターンという事になってしまいますが、金品をだましとっているのでなければ、良いのではないかと思えたりするケースもあります。逆に大阪なのでシャレが効いてていいなぁと思えたりもするのです。

なので、なんでもかんでもダークパターンと位置付けてしまうのも少し違うかなと思います。

より人間的な社会に

これからの時代においては、より倫理観が重要視されることは止められない流れだと思います。仮想社会の中ではアバターが自分の分身として生活を送る事が生活者目線にもかなり落ちてきています。そうなるとある意味中身勝負と言う部分も出てくると思います。

ソーシャルネイティブであるZ世代は不誠実な言動がネットに記録され伝播されてしまう恐ろしさを肌身を以って知っている。

だから消費行動を起こすとき、就職するときに企業の哲学を知り、企業の行動がそれに即しているかを見極めようとしているのだ。この時代において倫理観、社会規範はとても重要なファクターとなる。

斎藤徹「だから僕たちは組織をかえていける」より一部抜粋

あとがき

かなり長くなりました。けして派手なテーマではありませんが、インターネットサービスを使う、または運営する、そのどちらにとっても知らないよりは知っておいて損はない話かと思います。ある意味自衛の意味も込めて。

今後は、仮想空間上におけるダークパターンであったり、AIがダークパターンの流れを加速するような例についても研究していきたいと思います。

久しぶりのエントリーなので7000文字を超えてしまいました…。(上記は社内セミナーの内容を加筆修正しつつエントリーとして取りまとめました。)

ご興味が沸きましたら是非下記のサイトにもアクセスしてみて下さい。

ありがとうございました!

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