帰国子女の中学受験(2022年) その④ロードマップ
何か目標を達成しようとするときには、ロードマップが欲しい。目標と現状の乖離を把握し、その差異を埋めるための道筋や方法を明らかにしたいところだが、我が家にとって受験は初めてのことでもあり、受験本番までの道筋やタイムラインが見えないまま、いつの間にか受験本番が到来してしまったという感じだった。受験を終えた今、振り返ってロードマップらしきものを描くと以下のようになるだろう。
Term1. 小学5年4月~1月 「自走」準備
この期間、娘は帰国子女アカデミー(以下、KA)、早稲田アカデミー(以下、早稲アカ)のカリキュラムについていくことに精一杯であったが、親としてはまず、勉強について「自走」できるようになってほしいと考えていた。ただ、5年生にとって容易なことではない。勉強の中身は塾に任せ、家では「時間管理」や「To Do List」といった勉強の習慣づけを徹底していた。
この時期の悩みは、娘の「立ち位置」がよくわからなかったことだ。特に、英語に関しては、5年生でKAに通う生徒はそれなりにいるものの、まだ現地(海外)にいる生徒もいれば、他の塾やインターに通っている生徒もいるはず。本番でライバルとなる帰国子女の全体像がつかめなかった。KAに相談したときも、「今は授業と宿題をしっかりやってください」「6年になれば、志望校に応じた対策をやって仕上げていきます。今は、どういう学校がいいのかを考えておくといいですよ」と鷹揚な感じだった。
もやもやしているうちに、やがてその「立ち位置」を知る機会が到来する。1月に行われるKAAT テストだ。
Term2. 小学5年2月~6年5月 立ち位置を知る
塾の6年生プログラムは、入試が終わる2月が起点となる。KAも早稲アカも、2月から新しいカリキュラムになり、ぐっと強度が上がった。その6年生プログラムをどのクラスで受けるのか、その「クラス分け」の試験が1つの節目となる。
早稲アカでは、入塾からすぐに4段階のクラス分けがされる。その後、毎月の組分けテストの結果により、クラス変動も随時行われる。一方KAでは、5年生の間にはレベル別のクラス分けはなく、6年生プログラムからレベル別の指導が始まる。そのレベルを判定するのが、KAAT テストだ。このテストはリスニング、リーディング、ボキャブラリー、グラマー、ライティングで構成され、実際の入試のスタイルを多く組み込んだ試験とされている。
KAAT テスト(第1回目)は1/14に行われ、KA生530人が受験した。順位等の結果が発表された後、2月以降の6年生プログラムに向け、4つのレベルに応じたクラス分けが実施された。シビアな現実に直面することになるが、これでようやく、娘が今どういう「立ち位置」にいるのかを知ることになる。
娘のテスト結果は、期待よりは上々であり、帰国生のなかでも英語で勝負できる目算が立った。一方、早稲アカでは、国語はまずまずであったが、算数にかなり苦しんでいた。KAと早稲アカで6年生プログラムをこなすうちに、徐々に娘の得意・不得意が明らかとなった。
ゴールデンウィーク明けの5/22には、KAAT Test(第2回目)が行われ、KA生563人が受験した。帰国組が続々と加わってくるため、第1回目の順位をキープするのも難しくなる。ここで順位を上げることができれば、大きな自信になるだろう。
Term3. 小学6年6月~9月 戦略を固める
6年生になり、夏が近づくにつれ、我が家では、「英語と国語で勝負する。但し、算数は厳しい。難しいことはせず、計算や簡単な基本問題を落とさないようにし、最低ラインをクリアする。」といった戦い方が浮かび上がってきた。
得意・不得意が見えてきたとして、そこからどうするかが大事となる。得意を伸ばすのか、弱点を克服するのか。娘の考えを尊重したいと思うものの、高度な判断になるため、ここでの親の役割は大きい。特に、夏休みをどう過ごすのか。KAと早稲アカの夏期講習を受けるだけ受けて、3教科を底上げするというのは高望みだと考えていた。何度も家族会議を行い、我が家では、「英語を伸ばすことを最優先。国語・算数は基礎固めに集中」という方針のもと、時間配分にメリハリをつけるようにした。最も時間をかけた英語では、弱点であったグラマーを強化すべく、以下のテキストを2週間かけてやりあげるという妻と娘の二人三脚のプロジェクトも実施した。
娘はここまで根気よく勉強を続け、朝勉も定着する等、前述した「自走」が見られるようになっていた。親としては、娘のこれまでの努力が報われるよう、導いてあげたいとの思いが日増しに強くなる。残された時間と本人の強み・弱みを分析し、受験本番にどう向かっていくのか、受験本番に向けた戦略を策定し、遂行していくことが重要だと感じた。
夏休みが終わると間もなく、最後のKAAT Test(第3回目)が行われる。このテストにて、夏休み期間を含むこれまでの勉強の成果が明らかになる。第3回目のテストは9/4に行われ、KA生599人が受験した。当日、KA指定のリュックを担いだ生徒たちが、続々と試験会場に入っていく。受験本番を彷彿させる雰囲気であり、娘もこの日は口数が少なく、緊張していた様子であった。
最後のクラス分けの結果は、KAでAdvansed クラス、早稲アカでSBクラス(4段階中3番目)となった。英語力は帰国時よりも上がっていることを実感でき、国語の読解力や漢字の知識、算数の計算力もある程度身についている。我が家としては十分な成果だと思い、家族でささやかな慰労会を催し、ここまで頑張ってきた娘を労った。夏休み明けの9月頃に、何か具体的な中間目標(我が家の場合は、KA・早稲アカのクラスレベルの維持)を設定するといい。受験は長い戦いであるため、節目で何か達成感を得られないと本番までに疲れてしまう。
Term4. 小学6年10月~11月 仕上げ時期
KAでは10月から志望校別対策コースが始まる。これまではKAに行くことを楽しみにしていた娘も、この頃から弱音を吐くことも見られるようになった。KAの志望校別対策コースを受講すると、通常クラスもあわせ、週5~6回、KAに通うことになり、早稲アカとの両立は不可能となったきた。一気にプログラムの強度が上がった格好となった。
志望校別対策コースは、難易度や試験特性により、以下のコースが設定されていた。国語・算数との兼ね合いも考えながら、何をいくつ受講するか、後戻りができない重要な判断が必要となる。
渋渋・渋幕コース(全14回)
広尾・広尾小石川コース(全10回)
頌栄コース(全7回)
洗足コース(全3回)
攻玉社コース(全3回)
一般コース(三田国際、SFC、市川、都市大、かえつ等)(全15回)
この時期は毎日のようにKAに通い、ほとんど休みがない日々が続いていた。娘の顔つきも、より真剣さを増しており、たくましさを感じるようになったが、時折、疲労困憊の様子も見られた。今振り返ると、10月・11月は帰国生の受験にとって天王山となる最も重要な月だと思う。この時期、親が勉強面で役に立てることはほとんどない。私と妻は、娘の表情を注意深く観察し、休息が必要と思えば、しっかり休ませるよう、体調管理に気をつけていた。しかし、娘は、同じ志望校別対策コースに通うKAの仲間に刺激を受けており、ほとんど休まずにKAに通っていた。この過酷な日々を経るにつれ、娘は志望校に対する思いを徐々に強めていくことになる。