ウッドベースの音
我々コントラバス奏者が普段聴いている音は生音だ。クラシックの世界では、コンサートホールのステージの上で弾き、大きなホールの空間に響いた音が、いわゆる「コントラバスの音」になる。家や学校の狭い練習室で聴く音は実は完成形ではなくて、オケやアンサンブルの中に混じって初めて自分の音となる。
デカイ会場では音は響きを纏う為、まろやかでふくよかに、エッジの部分が少なくなる。包み込むような低音だったり、ある程度のパンチだったり、奏者、場面によって欲しい音色は様々だが、いずれにしても『楽器を鳴らす』ということに意識のリソースを割いている。綺麗、整っている、小回りが効くといったあたりも蔑ろには出来ないが、最低限「聞こえて」来なければ何にもならない。
勿論常にデカい音で弾くんじゃい。って事ではなく適正な音色音量ってのはあるが、レンジを出来るだけ広くしたいわけだ。
滅多にない事だが、ソリストとしてオケバックで弾くなんて場面があったとする。基本的にローポジション(コントラバスの中でも低い方の音域)が良く鳴るようにできているコントラバスは高音域に行くと音量としては下がってしまうし、ホールで他の楽器の伴奏を貫いて、ハイポジションを弾くとなると、ゲイリーカーのように特別エッジィに弾かないと埋もれてしまう。
またヴァイオリン等を含め弦楽器には『ヴォルフ(ウルフトーン)』というのがあって、エレキ楽器でいう「デッドポイント」の逆で、その音だけ妙に共振して鳴ってしまうという現象がある。調整などで軽減することはできるが、クラシック現場では割と「ありき」でやっていることが多い。(アンプリファイする現場との比較で語弊があるかもですが後述します)
つまり、コントラバス奏者がローポジションをいい感じで鳴らしたとして、そのままハイポジションを弾くと、ローに比べて音量は下がり、その間にある特定のポイントで少し鳴りすぎちゃう場合があるよ。というのがデフォルトなわけ。
さてこのコントラバスをスタジオ録音や、バンドの中でアンプで増幅して使いましょうって時にどうするか。
コントラバスは他の楽器と比べてマイクの入力をかなり上げる為、「鳴っちゃう」音の出過ぎ具合もとても目立ってしまう。クラシックなどの生音現場で「この程度のヴォルフなら大丈夫だね」っていうヴォルフが致命傷レベルで録音されます。
これらを是正しようとすると、1番小さいのが普段あまり使わないハイポジション。ここは無理矢理でっかく弾いて、ローポジションは控えめに、ヴォルフの音は更に小さく弾くと、打ち込み音源みたいに全ての音域で音量が揃うよ良かったね。って話になるわけ。
楽器の調整でヴォルフをどうにかすべきなのはわかるけれども、主戦場であるローポジションをちっちゃく弾けってのはね…嫌なもんですよ。そもそも音域上上から下まで満遍なく使うって人が少ないけどね。使いたいなら知っといて欲しい部分ではあるよね。
で今度はラインの話。例外はあるけど、ベースアンプでウッドベースを鳴らす場合、何らかのピエゾピックアップを使います。このピエゾの音、どうやってもコントラバスの音はしません。「生っぽい生っぽい!」と評判のピックアップがあったとしても、クラシック奏者からすれば「エレベ?」ってなもんです。
じゃあマイクを使えば?という意見もあるかと思いますが、先述の通り、ウッドベースはマイクの入力をかなり上げる必要があるため、周りのよりデカい音の楽器の音ばっかり拾うしハウるしで、大音量現場ではまず使えません。
「ウッドベースのラインの音」として割り切るか、「なんとかギリギリまで生感を出す」かの二極化してるかなと思います。
この「生感」という部分をどう見るか。結局その人の聞いたことある音でしかないです。ホールの客席で聴いた音なのか、CDやレコードで聴いたスタープレーヤーの音なのか、はたまた自分が練習室で弾いた自分の音なのか。それを再現しようと機材を選んだりツマミを弄ったりするわけですが、どの時点の音を正解とするか、これがまた問題です。ホールの客席で聴いた事のある音をステージ上のアンプから出した場合、実際の会場の客席ではもうモヤモヤで芯の無い音になってしまうでしょう。自分のアンプで完結する規模のジャズクラブなどでは自分の耳で正解を作ればいいですが、外音担当PAさんがいる場合は相談しながら作りましょう。
語弊暴論上等で言い切りますが、クラシック奏者の弾き方が一番低音が鳴る弾き方です。そうやって弾かれた楽器はそういう音になってしまうんです。一方ジャズ奏者の奏法はピッチカートで十分なサスティーンを得る方法はあるにしても、クラシックと比べて、乾いた音、締まった音になる傾向があります。ジャズで弾き込まれたいい楽器はジャズでいい感じの音になります。そんな楽器も、クラシック奏者にクラシック弾きされたらそういう音に育ってしまうってわけ。
録音業界でもしかしたら「ウッドベースを録るならコレ!」みたいなテンプレマイクチョイスがあるのかもしれません。「とりあえず1番低い音録れるやつ」みたいなのはあんまりいい結果になりませんよ。クラシック奏者なのか、ジャズ奏者なのか、はたまたエレベ弾きがちょびっと弾くウッドなのか…そのあたり実際に生音を聞いてもらってマイキングしてもらえたら嬉しいです。
冒頭で長々書いた「コントラバスの癖」的な事だけど、ぶっちゃけ楽器をそんなに鳴らせない人が弾いたらそんなに気にならないかも。弦高下げまくってエレベタッチでアンプで音量上げるとかね。まーそれだと芯が無ぇ!って事になりそうだなとは思う。鳴らせたら鳴らせたで弊害もあるっちゃあるし、なんとも言えない部分ではあるか。。
昔のアナログレコードのウッドベースが凄いいい音してて、楽器のすぐ近くにマイク立ててるだけだと思うけど、その頃より技術も発展してて、現代の超高額な機材で録音したとしても、あの音にはならないってのは、なんだかなぁと思うのでした。。
こんな事言っといて余談ですが私の場合、スタジオでコントラバスを弾く時も、コンサートホールで生音で弾く時も、オーケストラピットで弾く時も、同じように目一杯全力で弾いてます。何か問題あるならPAさんお願いよ。って感じで。クラシック鳴りする楽器とジャズ鳴りしてる楽器で選んだり、2ピックアップブレンドに指弾きと弓弾きでEQ変えるぐらい。
波形の上ではムラがあったり、劣悪なリハスタでモニタースピーカーから聞こえるベースの音が癖っぽいとか、それって本番の音に関係なく無い?なんでそれに合わせて低音削ったりしなきゃいけないわけ?自分の耳で邪魔だなと思ったら調整するし、足りなかったら足すし、とりあえず全体としていい感じになるように目一杯楽器鳴らすからそれでダメな部分はエンジニアさんお願いよって感じ。事前にPAに送る前に打ち込み音源のように音量揃えたり、控えめに弾くとかはしません。
とりあえずまずは自分のいいと思うコントラバスの音を出して、様々な要因によって「もうちょい低音抑えて」とか「ちょっとヴォルフきついから抑えて」って言われたら勿論対応します。
スタジオの弾き方、ポップスの弾き方とかもありません。クラシックのオケで上手に弾ければそれと一緒です。(リズムの取り方はスイッチする必要があると思います)
「スタジオやPA環境ではクラシックみたいには楽器を鳴らさず全ての音をムラなく均一に弾くべき」って意見の方はベロシティ固定でシンベとかオススメです。
とはいえ色んな経験を経ての今の奏法環境なんで、そんなに方々に迷惑かけるような事にはなってないと思うんですけどね私の音。最終的には自分の耳で判断してやってるんで。
先日録った某アルバムはかなりワガママ効いたので完成期待大なのですが、最後に私の理想の録られ方したウッドベースの音貼っときます。
https://open.spotify.com/track/4WsbIjkGlqAImzSwYrXbSW?si=DK_6q3miQR2kfFtgsSrhLg