B級ホラーには夢がある

ピーター・ジャクソンやサム・ライミなど、低予算ホラー畑から出世していく監督は枚挙にいとまがない。現在公開中の『ゴジラVSコング』を4作目とするシネマ・ユニバース『モンスターバース』では、特に若手ホラー監督の抜擢が積極的に行われた。1作目の『GODZILLA ゴジラ』ではギャレス・エドワーズ。彼は2010年にSFホラー『モンスターズ/地球外生命体』をわずか150万円の製作費で完成させたという実績を持つ男。本作は全米でヒットしただけでなく、モンスターバースの始動を待つワーナーへのラブレターとなった。
続く2作目である『キングコング:髑髏島の巨神』は青春ドラマ『キングス・オブ・サマー』を手掛けたジョーダン・ヴォート=ロバーツが起用されたが、3作目の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では『トリック・オア・トリート』や『クランプス 魔物の儀式』など、シネコン向きとも言える良質なホラー映画を制作してきたマイケル・ドハティが起用された。
そして現在公開中の『ゴジラVSコング』では、B級ホラー界隈では名の知れたアダム・ウィンガードの起用が大変な話題となった。2007年にインディーズホラー『Pop Skull』で名を挙げた彼は、『ビューティフル・ダイ』『サプライズ』『ザ・ゲスト』など個性的なホラー映画を多数手がけ、Netflix版『デスノート』などのクソしょうもない駄作も作りつつ、世界中のファンからの期待が集まるゴジラとキングコングの決闘を描くに至った。夢がありますね。


B級ホラー畑に眠る萌芽を見出したのはモンスターバースだけではない。かのマーベル・シネマティック・ユニバースに誕生した新生スパイダーマンにフレッシュなトム・ホランドが息を吹き込んだ『スパイダーマン:ホームカミング』には、『コップ・カー』で知られるジョン・ワッツが起用された。彼のキャリアは凄い。CMやMVのディレクターとして活躍していた彼は、2010年に友人たちと遊びで架空のホラー映画の予告編を制作する。ピエロの仮面が脱げなくなってしまう男を描いたその映像には、『From Master of Horror Eli Roth』という文言が躍っていた。言わずと知れたホラーの寵児イーライ・ロスの名を無断で使用したのである。
遊び心溢れる作品を多数手がけるイーライ・ロスは、彼の度胸とユーモアを気に入った。彼はジョン・ワッツに連絡を取り、その架空の映画を実現させようと持ち掛け、プロデューサーとして制作に携わった。そして2014年に『クラウン』が公開されたのだ。嘘から出たまこととはこのことである。
続く『コップ・カー』を制作、公開した彼は、『クラウン』で味を占めたのか、マーベルにスパイダーマンのオリジナル予告編を送りつけるという暴挙に出る。怖いもの知らずの彼は現在、MCU版『スパイダーマン』3作を完成させ、MCU版『ファンタスティック・フォー』の監督に内定した。夢のような話だ。


そして、何より忘れてはならないのがジェームズ・ガンである。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や新『スーサイド・スクワッド』など、その独創性とポップ・カルチャーに精通したオタク性から現代のヒーロー映画に欠かせない存在として君臨する彼は、とてもマトモな男ではなかった。
低予算エログロムービーばかりを制作・配給した伝説のプロダクション、トロマ・エンターテインメントで下積みをしていた彼は、1995年にある脚本を執筆した。『トロメオ&ジュリエット』である。言わずと知れたシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を近親相姦的に再解釈したこの悪趣味ホラーコメディは多くのボンクラたちを魅了し、サンフランシスコの劇場では1年以上もの間上映された。
トロマの創始者ロイド・カウフマンから多くの低予算映画術を学んだ彼は、古巣を巣立ち、2004年に『ドーン・オブ・ザ・デッド』の脚本を執筆する。ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』をザック・スナイダーがリメイクしたこの作品は高い評価を受け、新旧ホラーファンを納得させた。一躍名を挙げたジェームズ・ガンは、どうしてだかナメクジが町を支配する『スリザー』を監督。変態性をいかんなく発揮し、世界をキモがらせるだけでなく、ホラークリエイターとして実力を証明してみせた。『ガーディアンズ~』シリーズにてヨンドゥを演じたマイケル・ルーカーは、全身をナメクジに寄生され巨大な醜いバケモノと化す役柄で出演し、ジェームズ・ガン監督作の常連となったという経緯もある。
2010年に『スーパー!』というビジランテ・ヒーローものを制作したのち、ついにMCUにスカウトされ撮ったのが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズだ。全世界で爆発的にヒットし、彼は一躍ヒットメーカーとなった。特に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』はおもしろすぎて脳みそが少し溶けてしまった。
そんな変テコな経歴を持ちながらも成功を収めた彼は、2018年にキャリアの”ツケ”を払わされることとなる。
マーベル・スタジオがディズニーの傘下になったばかりの当時、ジェームズ・ガンの10年前のツイートが多数掘り起こされた。それは小児性愛や人種差別などを多数含んだ不謹慎なジョークの数々で、ディズニーの重役は頭を抱えた。時代は変わり、人々の価値観もアップデートされた現代に、ディズニーは彼を解雇するという決断に至った。ジェームズ・ガンはやはり、トロマに仕込まれた男だったのだ。彼は誠心誠意謝罪したが、ディズニーは許さなかった。正直当然だとは思う。
しかし、彼の解雇に反対する俳優や大勢の映画ファンが立ち上がった。『ガーディアンズ』シリーズでドラックス役を演じたデイヴ・バウティスタは、彼が降りるなら3作目には出演しないと明言した。同じくシリーズに出演したメインキャストたちも、彼の不謹慎なジョークを批判し、許容できるものではないとしたうえで、彼の降板に反対した。また、彼の降板に反対するオンライン署名は35万票を超えた。
それを受けてかそうでないかは定かでないが、ジェームズ・ガンは無事MCUに復帰することがアナウンスされ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3』や『ザ・スーサイド・スクワッド』の制作に着手することとなった。この件でディズニーを批判する声も多かったが、マジで結構ひどいジョークばかりだったので、さすがに仕方がないとも思う。完全にこの男が悪い。
ともあれ、彼はこの件で自身の培ってきた信頼の強さを証明した。贖えない罪はないのである。このまま、これから活躍しそうなB級ホラー監督たちを列挙して紹介しようと思っていたのですが、めちゃくちゃ疲れたのでやめます。ありがとうございました。

ここから先は

0字
月100円で読めるものの中で一番おもしろいです。

日記やアイデアや見た映画や告知など、忘れないほうが良さそうなことを記録しておきます。頑張ります。

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?