実の兄に恋している柔道部のFカップ女子・サユコ(17)


私の胸がでかいことはこの話にまったく関係がないけど、読んでもらうためにはしょうがない。それに、実は関係があるかもしれない。世の中は、一見関係のないように思える事柄が複雑な糸で結ばれあって、結局、今みたいなややこしいことになっている。

兄、だけじゃなく、家族に恋をしてしまうのは、不自然なこと、それ以上に、気持ちの悪いことだとされている。同性愛は最近、徐々に偏見が無くなって、ちゃんと受け入れられる世の中になっている。でも、家族への恋だとか、ロリ・ペドとか、特殊性癖とか、そういうものへの偏見はまだまだ強い。ていうか、誰も偏見をやめようとしていない。私からすれば、同性を好きになってしまうことはよくて、家族を好きになってしまうことや、小児を好きになってしまうことは気持ち悪い、とされてしまうのが少し苦しい。同性愛はいいけど、お前らは病気だ、と言われているみたいに感じる。まあ、病気なのは間違いないかもしれないけれど。

まあ、とにもかくにも、私はお兄ちゃんが好きである。血もしっかり繋がっているし、家庭環境もまったく複雑ではない。めちゃくちゃ単純な4人家族で、めちゃくちゃ単純に生きている。それなのに、兄のことを好きになってしまった。

兄は19歳の浪人生。たまにものすごく大声で叫びながら部屋から出てくることがある。理由を聞いたら「アルファベットが怖い」との事。Eが特に怖いらしい。わからなくもない。またある日は、食事中に勉強の進み具合を聞いてみると、「分数って便利だな」と言っていた。大学どころか、この先ちゃんと生きていけるかどうかも不安である。私の部屋にある8×4を指さして、「かけ算」と言ったこともあった。せめて答えを出してくれ。

私は兄の隣の部屋で、兄の勉強音や発狂音を聞く。幸い私の受験はまだまだ先だし、部活も特に忙しくはない。帯を巻くのに苦戦していればだいたい夜の6時になっている。兄は基本的に部屋にこもっているから、会えるのは食事のときと、気まぐれで出てくるときだけ。だから、その気まぐれを聞き逃さないように、私は部屋で静寂を保っている。そのせいで音の出る娯楽に触れることができない。学校でみんなが話してる、髭なんとかってバンドとか、どうぶつの森ってバンドとか、まったく聴いたことがない。みんなと話したいけど、でも兄の動向を追うことを最優先しなくてはいけないので、若者文化を追いかけている暇など無いのだ。

愛してくれるけど、恋はしてくれない。兄を好きになってしまうのは、誰を好きになってしまうよりもつらい。だって、実の兄だよ。脈がある?堤真一くらい脈が無い。そんなことわかりきっているのに、私は兄を求めてしまう。昔、兄を忘れようと告白した仲良しのタクヤからこう言われたことがある。「気持ちは嬉しいけど、俺にとってサユコちゃんって妹みたいなんだよね」。タクヤに振られたとき、兄にも同時に振られたような気がした。いや、その時だって既にわかってはいたけれど、それでも、いやあ…、こういうときってどうすればいいんだろう。

人に相談したって、言われることは簡単に予想できる。「他の男の子とデートしてみなさい」とか、「きっと、お兄ちゃんへの愛情を恋だと錯覚してるのよ」とか、きっとそんなことを言われる。もしかしたら私の人格を否定する人だっているかもしれない。私にはきっぱりと私の答えがある。兄に恋をしていて、それ以外は何も無いと。

だから苦しい。本当にとても苦しい。今夜も、向こうに兄がいる壁に向かって頬を当てている。もうこの気持ちも長いし、今さら泣くこともないけれど、それでも、色々な感情がせめぎあって止まらない。私の身体の3分の2は兄への想いでできている。残りの3分の1で何とか戦っているけれど、一度も勝てた試しは無い。私のすべてを語るには、分数で事足りる。壁に頬を当てながら、分数は便利だな、と思った。

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