酒の後

酒が好きじゃない好きじゃないと言いながら酒の話ばかりしてしまうのは、結局平坦な人生をぐらぐらと揺らす装置としてそれはまったく優れているからである。アルコールはそのままゲロへと変わり、孤独へと変わり、性欲へと変わってしまう劇薬であるが、結局のところ人生とはその3つだけなのであって、ゲロ、孤独、性欲・・・その重大な3要素へふっと足を乗せるとき、俺はなんだかロックンロールなのである。footとふっとをかけています

俺は酒に強いほうではないし、味も好きでないし、そもそも酒を飲む場自体があまり好きではない。酒を飲んで酔っ払っている状態の人間があまり好きじゃないというか、俺は酒が弱いからセーブしつつ飲むようにしていて大して酔っぱらうこともないのだけど、そのように俺だけ素面に近いものだから、素面の目に写る酔っぱらっている人は怖い。小さいころ酔っぱらったやくざをいっぱい見てきたからかもしれないが、やくざもかたぎも酔っぱらうと同じような目になるから、酒、アルコールそのものが邪悪なのだと、本気で思っている。

とはいえ3ヶ月に1回くらいは酔っぱらいたいなと思うような夜もあって、この週末がそうで、金曜の夜から土曜日の夜まで酒を飲み続けた。コンビニの安い焼酎を西友の2リットルの緑茶で割るのが一番なさけなくて楽しい。酒は全部これでいい。俺はもう25歳の大人だから、そもそも酒・煙草が解禁されてから5年しか経っていないのに全然おじさんじゃないよな。とにかく悪酔いしない方法というのはいくつか身体で学んできたおかげで、片手に西友緑茶ハイ、片手に水を持った体勢に持ち込むことができた。飲んだ酒と同じ分の水を飲めば絶対に大丈夫である。俺はとにかく吐きたくないので、飲んでは水を飲み、飲んでは水を飲みを繰り返した。そうすれば丸一日飲み続けることができる。吐くことも、体調を崩すこともない。小便がはてしなく出るから、近くに自由なトイレがある場所でなら絶対にこう飲んだほうがいい。

人生で初めて丸一日飲み続け終えた土曜の夜、すさまじい虚無感に襲われた。俺は虚無という言葉はなんだかうさん臭いエモーショナルがまぶされている気がして嫌いだから使いたくないのだが、しかしあれは虚無感であった。別におもしろいことがあれば笑うし、うれしいことがあれば喜ぶし、体調にも一切問題が無いのだが、なんだかアルコールと一緒に身体のコアの一部分も分解されてしまったかのようだった。すべてのことが途端にしっかり分かって、つまらなくなってしまった。おそろしい状態だ。どれだけ考えても、こんな沈んだ気持ちになる直接的な原因が思い当たらない。常にうっすら色々なことで悩み続けているが、その内の何を考えてみても胸のギュウとなる感覚がなかった。こうして文章にすると途端に軽くなるからそれが悔しいのだが、本当に恐ろしいくらいつらい気持ちだったのだ。仮にこの状態がずっと続くのがうつ病なのだとしたら、それほど恐ろしい病気はない。

もう俺はとにかく酒が合っていないというのが今度こそハッキリと分かったので、もう一生飲みません。何回もこの状態を味わってたら本当にいつかはずみで死んでしまう。絶対に死にたくない。俺は絶対に死にたくないし、絶対に死なないから、残念ながらあなたたちのほうが先に死ぬけれども、まあでも死について自覚して対策するほかないから、そうこうなんですよ、酒を飲むとゲロ、孤独、性欲を味わったあと、最後に死の匂いがするんだよ。『アニー・ホール』の、カップルの価値観の相違を端的に示す会話として、「あなたがくれたのは死の本ばかり」「重大な事だ」というのがある。別にこれはただクールな会話だというので引用しただけで特に何もないが、結局何を考えているにしても、それは死を考えている状態に他ならないのである。

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