未来人・木曽真平(25)


俺は未来から来た木曽。木曽真平。2020年の東京を生きているが、実際は西暦4545年からやってきた。なぜだか知らないが、モンテローザがタイムマシンの開発に成功した4339年以来、タイムマシンは手軽な娯楽として人々に定着した。誕生当初は、3LDKくらいあるバカでかい据え置きのタイプが主流、というよりその1台しか存在しなかったのだが、飛躍的な進化を遂げ、現在の4545年では携帯型タイムマシンが一部の富裕層に普及するまでに至った。最近ではさらにその姿を変え、タイムマシンアプリとして、人々の持つスマートフォン、もといスマートチップに導入、全人類の右けつに埋め込まれたスマートチップは、宿主の両手に連動し、片手をひょいと動かすだけで簡単に時間旅行を楽しめるようになった。とは言っても値段はバカ高いし、庶民の持てるアプリで戻れる時間はたったの1時間。しかも1日に1度しか使うことができない。開発から100年以上が経っても、まだまだタイムマシンは金持ちの娯楽だった。

タイムマシンによる弊害も多い。時間を自由に行き来できる富裕層は、過去で過ごす時間が増えるようになり、人類の平均寿命を大幅に縮ませる結果となった。健康な成人であっても、過去で50年ほど費やし、現代で30歳で死ぬなんてことはザラである。見た目は80でも年齢は20代、なんて人間も少なくない。

犯罪も増えた。理由は言わずもがな、「やり直せるから」。司法は面影も無いほど変容し、すべてタイムスリップを念頭に置いた法整備が求められた。当初は『タイムコップ』なんて呼ばれた時間監査、及び時空パトロールも、今では警察官全体の責務として浸透している。

モンテローザは世界の王として君臨した。インド洋のど真ん中に建設された本社は、世界各地70000にも及ぶ支部を総括する最重要拠点として、およそ150年以上もの間、人類の象徴として崇められた。もはや、モンテローザに敵も味方もいない。金や権力すらも超越した存在、いうなれば海そのものだ。海に敵意を抱くものはいないのと同じで、モンテローザをどうこうしようなどと考える者はひとりもいない。モンテローザは、魚民から、海になったのだ。

かく言う俺も、2020年にやってきて初めて、モンテローザがかつてふざけた居酒屋を経営していたことを知った。試しに『笑笑』という店舗に入ってみると、酒を置くコースターとして出てきたものを見て仰天した。これは、4545年における世界共通の通貨である。しかも、1枚で1万円。まさか通貨がコースターとして使われているなんて。これです↓

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ちなみに今、俺の生きる時代では、4545(シコシコ)年ということで、人類史上もっとも盛り上がりを見せている年である。4545(シコシコ)年は、1919(イクイク)年に旅行しよう!なんてキャンペーンを旅行代理店が打ちまくってくれたおかげで、他の便はかなり空いていた。特に2020年は人気が無く、便も貸し切りだったので、昔の情弱どもを見るくらいしか楽しみのない俺はすぐに予約を決めた。


と、まあそんな感じで2020年にやってきたわけだが、やはり特に見るものが無い。2020年が不人気である理由として、新型ウイルスが流行し人々が外出を自粛しているという歴史があるから、というのは承知していたが、それにしても暗い。せっかくだからと渋谷に行ってみると(ちなみに4545年の渋谷は犬が支配している)、大型スクリーンに『広末涼子』を名乗る女が映っていた。この女は4545年に伝説の神として君臨している。人間ではない。東の神として崇められる存在だ。広末は人間ではない。ちなみに西の神は間寛平である。そのまま、間寛平である。


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