貝に耳を当てると海の音が聞こえる

俺は、貝に耳を当てると海の音が聞こえるという話を高く評価している。この世にはロマンティックでファンタジックでアイコニックでキックな仕草というものがたくさんあるが、人間が砂浜に座って耳に貝を当てている姿というのはまさにそんな仕草のひとつである。それは貝に耳を当てると海の音が聞こえてくるというウソが浸透しているからに他ならないのだが、しかしみんな、そんなのはウソだと分かったうえで無邪気にも耳に貝を当てているに過ぎないわけで、それが美しいのである。「ウソだと分かったうえで興じるもの」の「本当さ」というのは計り知れない。加えて、海も貝も音も、自然の産物であるというのが素晴らしい。ウソだと分かったうえで興じるものとしての代表格が「おみくじ」であろうが、おみくじのように、貝を耳に当てるのに100円かかるとしたらと考えた途端、すっかりばかばかしくなる。そのばかばかしさこそが、本当さなのである。
計り知れない本当さをまといながらも、興じる姿がRでありFでありIでありKであるという点において、私は貝に耳を当てると海の音が聞こえるという話、そしてその提唱者を、高く評価しているのである。

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