MTG公式の読み物はやっぱり面白い
来た。
お国柄観察文章、もとい禁止制限改定告知である。
前回MTG公式の文章にはお国柄が出ていて面白いという主旨の記事を書いたが、今回はもっと分かりやすくて凄まじい内容だ。
私はTwitterをアンインストールしてしまったので確認できないが、このリリースが炎上していないか心配なほどである。
さて本文を確認する前に、(もう見たくもないという方も多いだろうが)まず今回BO1スタンダード、及びアルケミーにて禁止措置となった<残響の力戦>について確認しよう。
4マナ(笑)の赤のエンチャントで、インスタントかソーサリーの効果をコピーしてもう一度唱えられるという効果を持つ。これが赤の軽量クリーチャーを強化効率の良い(+3修正orドロー効果を持った)インスタントで強化し速攻で相手を殴り倒すというコンセプトのデッキと相性抜群すぎた。
ただの4マナダブルシンボルエンチャントだったらパワー不足感は否めないが、問題は力戦共通テキストである「ゲーム開始時に手札にあるなら0マナでプレイできる」という部分だ。
「ゲーム開始時」という一文がMTGのマリガンシステムとシナジーし、それなりの確率で<残響の力戦>を初期手札に入れたうえで、最速2ターン目には勝負を決めきることが出来てしまうのがこの度問題となったわけだ。
少なくともほとんどのプレイヤー側はそう認識していたはずだ。
さて、いよいよ公式によるリリース本文を見ていこう。
まず<運命のきずな>についてだが、詳細はMTGwikiの該当カードのページが詳しい。
過去に自分が負けそうになった途端このカードで意味のない無限ループによる遅延戦術を行ったプレイヤーがおり、その対策としてBO1でのみ禁止措置が取られたそうだ。不快なプレイ体験を与える可能性があるのが原因というわけだ。
これと同じ措置が取られた<残響の力戦>については、「相手に先手を取られたが最後、自分は土地を1枚張っただけで1試合が終了する可能性が高く、さすがにそのゲーム体験は面白くない」から<残響の力戦>は禁止になりますという主旨のことを言っている。
ここまでは全プレイヤーが納得するところだろう。私も異論はない。
が、凄まじいのは次の文章だ。
あまりにもとんでもない文章が飛び出したもので、初めて見た際に思わず膝を打ってしまった。
この辺りの流れを要約すると、
【MTG公式の主張】
①<残響の力戦>は楽しくないゲーム展開を生んでいるよ。
↓
②それ(=楽しくない理由)は<力戦>ユーザーの態度が原因だよ(≒カードパワーの問題じゃないよ)。
↓
③これ(=ユーザーの態度)がBO1では特に顕著な問題になっているよ。
↓
④だから<力戦>はBO1では禁止するよ。
という文章構成となっている。
特に②の主張がかなり危険であることは明白で、例えば「<特定の人種>がいるからこの地区は犯罪率が高いんだ!」などと主張するからには、まずもって明確なエビデンスを示さねばならないはずだ。
それもなしにこのような主張をすれば、ヘイトスピーチまっしぐらである。(※エビデンスがあったとしてもこの主張はかなり怪しいが)
なのでこの続きの文章には必ず「ユーザーの態度に問題があった」というデータが明示されるはずなのだ。
この緊張感を保ったまま、続きを見ていこう。
良かった、データによる裏付けを大切にしていることを二度も強調している。
それがユーザーの態度についてではなくカードパワーの調査に傾いていることは少し心配だが、多少安心してよさそうだ。
……ん?
「3ターンキルor3ターン目までに投了したゲームの数」がダスクモーン(力戦実装)以降倍増したとのことだが、それは本当に<力戦>(ユーザー)が原因なのだろうか?
例えばメタゲームの回転によって1ターン目の強迫が増えたからという線はないか?
<呑気な物漁り>(白オーラ)や<忌まわしき眼魔>(青白コントロール)が影響を与えている可能性は本当にないのか?
そう、もうお分かりのことと思うが、初めから終わりまでユーザー側に問題があるデータなど全く提示されないのだ。
しかも〆にカードパワーの問題ではないことを強調し、<力戦>ユーザーをもう一度殴りに行っている念の入りようである。
そもそもゲームの勝ち筋を失ったと判断したらその時点で投了するのはごく自然なことだと思う(アグロなら当然その判断が早いターンに訪れる)のだが、投了が早いというそれ自体は本当に問題なのだろうか。
疑問は尽きぬまま、真相は闇の中へ葬られた……。
事の真相を推測してみる
……という未解決事件のまま終わると寝覚めが悪いので、もう少し深堀りしてみよう。
本場の直球ヘイトスピーチ論法を浴びてしまった本邦読者の精神状態が心配であるが、これもMTGプレイヤーならきっと慣れたものなのだろう。
しかしながら、この文章を単純に「カードパワー調整不足をユーザーに責任転嫁した」と捉えるのは早計と思えてならない。
なぜならナドゥ禁止の際の名文を読めばわかるが、「謝っている風の雰囲気を醸し出しながら絶対に言質は取らせない(あわよくばバズらせる)」リリースを出すことにかけては達人級の腕前が彼らにはあるのだ。
とすれば、こんなに隙だらけの文章をノーチェックで世に出すわけがないのである。
この文章の真意を知るには発想を転換しなければなるまい。
つまり何か他に伝えたい意図があったはずだと考えてみよう。
ヒントは責任の槍玉に挙げられている「力戦ユーザー」である。
ここで公式が提示した「初期手札に不満があったり、マリガンで勝利条件を満たせなかったり、最初の数ターンで勝利できなかったりすると投了する」のが力戦ユーザーだというのを一度事実としてみる。
これが単なるヘイトスピーチではなく、データは実際に持っている(はず)だが、何らかの事情で表に出せないというパターンだ。
すると即投了癖のある力戦ユーザーは「MTGはやりたいがメタを読んだデッキ構築や往復何ターンもかかるプレイングのやり取りはしたくない」というカジュアル層(≒ログボ勢)であることが推測できる。
世界的にミッドコア、ハードコアゲームが苦戦する中で、本来ミッドコアゲームたるMTGアリーナが取った道は、このカジュアル層を取り込むためのBO1(及びアルケミー)の設置だった。
要はBO1というレギュレーションにおける力戦ユーザーは、メインターゲットのペルソナに非常に近しいことがわかる。運営にとって極力手放したくない存在なのだ。
ここで疑問なのは、「<力戦>実装前のカジュアル層は何をしていたのか」である。
当然だ。<残響の力戦>があろうがなかろうがカジュアル層はそこに存在していて、お手軽に勝てる安いデッキを常に求めていたはずだ。
私の考えでは、彼らは「力戦の入っていない赤単を使っていた(そして初手が悪ければ普通に即投了していた)」のである。
つまりメタゲームの範疇で対処できるデッキを使っていたのだ。
ところが、彼らは<残響の力戦>を手にしてしまった。
それによって何が変わったのか。ここに禁止改定文章の真相がある。
答え:カジュアル層の勝率が上がった。
これが全ての真相だと私は推理する。
例えば本来50%に足りるか足りないか程度で推移するはずの勝率が、<力戦>によって引き上げられたとすればどうだろうか。
この「特に熱心なプレイヤー」というのは、大会で上位に入るようなプレイヤーのことを指すはずだ。
そんなプレイヤーをして力戦のパワーを目の当たりにすれば構築を歪めざるを得ず、歪めたとしてもその先のゲーム体験は「2ターンで焼かれるorすぐに投了される」の2択になる。
これがもし「2ターンで焼かれる」択がもう少し緩やかならどうだろうか。
3~4ターンキルを狙うアグロデッキなんて赤単に限らず存在はするのだから、それは対処していない方が悪いという話になる。
しかし、嚙み合わせが悪ければたまには負ける時もある。
そういう塩梅に落ち着くだろう。
だから「アグロ側にすぐ投了される」こと自体は問題ではないのだ。
それはアグロがゲームの範囲内で負けを認めたということだから。
だが<力戦>によって彼らは本来手にするはずのない勝利を手にした。
どんなデッキ、どんなプレイヤー相手にも勝利と敗北のガチャを引ける権利を手にしてしまった。
これが健全ではないと上位プレイヤーたちが進言したならば、運営はその対処をせざるを得ないだろう。
要は、「貴族しか入れないコミュニティに庶民が足を踏み入れてしまった」ことがこの問題の本質なのではないだろうか。
となれば、運営側の「<力戦>ユーザーの態度が悪い」的な態度にも、それを表に出せないある程度納得がいく。
きっと彼らの言いたかったことを口語調にするとこうだ。
「実力以上の勝利を手にして満足だろう。しばらくは大人しくしておけよ」
さて、私も運営側にこんな屈辱的な態度を取られないよう、今日もデッキ調整に勤しむとしよう。