2020年を特徴づけるアート作品10(翻訳)
長期間にわたって世界中の美術館やアートスペースがクローズしていた2020年でしたが、アーティストたちは絵画、彫刻、写真、映画、ビデオなどを通じて世相を表現した作品を制作し続けていました。オンラインで公開された映像作品やアートスペースの外で行われた社会的プロジェクトなど、彼らは新しい領域を開拓し続け、アートとは何かを再定義していきました。アートにおけるこの12ヶ月間を振り返るために、2020年に制作された、あるいは新たな意味を与えられた重要な作品を紹介します。
※この記事は以下の翻訳です。
The Defining Artworks of 2020 - Art News
10.カール・クレイグ「Party/after-party」
Photo : ©Carl Craig/Bill Jacobson Studio, New York
ニューヨーク州北部にあるDia Beaconの広々とした地下室のために構想されたこの作品は、身体性が失われたような電子音楽と明け方の疲れ切ったダンスクラブにいるかのような視覚的要素がミックスされており、エネルギーの消耗や文化的な倦怠感を連想させるものです。しかしこの施設が3月にオープンしたときには、奇しくもそれは特定の音楽文化(デトロイト・テクノ)のためだけではなく、あらゆる種類のパーティーが停止されたことへの鎮魂歌になったかのようでした。
9.アイ・ウェイウェイ「Coronation」
Photo : Courtesy Ai Weiwei Studio
政治的な作品で知られるアイ・ウェイウェイですが、8月に彼の他の作品と同じくらい過激なドキュメンタリーをサプライズでオンライン公開しました。中国の武漢で発生した未知の感染症について2020年1月から4月にかけて撮影されたドキュメンタリーで、コロナウイルスを扱ったこの種の映画としては世界初の作品となりました。アイ・ウェイウェイはパンデミックが郵便物の配達から医療に至るまで武漢の日常生活に変化をもたらしたことを示そうとしています。
8.ジャトヴィア・ゲイリー「The Giverny Suite」
Photo : ©Ja'Tovia Gary/Steven Probert/Courtesy Paula Cooper Gallery
ジャトヴィア・ゲイリーは最もエキサイティングな若手実験映画作家の一人として急成長を遂げていますが、その評価を確実にしたのが3画面のインスタレーション「The Giverny Suite」です。ジョセフィン・ベイカーやニーナ・シモンのパフォーマンス、フィランド・カスティール(※注:2016年に警官に殺害された黒人男性)の死の映像、ゲイリー自身が制作した映像など、複数の映像が緻密にモンタージュされています。LAのアーマンド・ハマー美術館とNYのポーラ・クーパー・ギャラリーでの上映は公開から間もなく終了しましたが、映画バージョンに組み替えた「The Giverny Document」がオンライン公開され、ゲイリーのファン層が広がっていきました。
※日本で唯一ジャトヴィア・ゲイリーを紹介する記事を7月に書きました! 超重要な映像作家だと思うのですが日本で3人くらいしか言及してないよ。。。
7.For Freedoms, "2020 Awakening"
Photo : Rachel Romanski
今年は多くのアーティストが大統領選や地方選の投票率を上げることを目的としたプロジェクトを行いましたが、アーティスト集団「For Freedoms」によるビルボード・プロジェクト「2020 Awakening」ほど印象的なものはありませんでした。このプロジェクトは160年前にエイブラハム・リンカーンを大統領に選出した「Wide Awakes」運動からインスピレーションを得たもので、エドガー・ヒープ・オブ・バーズ、アレクサンドラ・ベル、アメリア・ウィンガー=ベアスキン、ジョン・エドモンズ、クリスティン・サン・キム、クラウディア・ペーニャ、ミゲル・ルチアーノ、カメラー・ジャナン・ラシードを含む85人のアーティストが参加し、有権者に直接短く力強いメッセージを伝える100枚のビルボードを制作しました。その中でも最も強力だったのはムナ・マリクのもので、黒人が拳を振り上げている様子と"How MANY MORE PROTESTS DO WE NEED? "という言葉が描かれていました。
6.ニコラス・ガラニン「Shadow on the Land, an excavation and bush burial」
Photo : Courtesy the artist
ニコラス・ガラニンはアラスカを拠点に先住民文化の問題を見つめ続けてきたアーティストです。シドニー・ビエンナーレで制作された「Shadow on the Land」はまるで犯罪現場のように柵で囲われた草地が墓の形に掘られています。中央に横たわっているのは、クック船長としてお馴染みの18世紀のイギリス海軍大尉ジェームズ・クック。彼はオーストラリアの国民的シンボルでもあります。ガラニンが描いてきたトリンギット族やアレウト族(ネイティヴアメリカンの部族)への暴力は、オーストラリアのアボリジニ文化の簒奪の歴史と共鳴しており、不穏な雰囲気を醸し出しています。
5.エドワード・ホッパー「Nighthawks」
ロックダウン期間中にされた「we are all edward hopper paintings now」というツイートは6.7万回RTされ、突如として80年以上前の絵画に新たな意味が与えられました。ホッパーの作品の不気味な雰囲気が世界中の人に身近に感じられたことは間違いないでしょう。ホッパーの最も有名な作品である「Nighthawks」(1942年)は集団から疎外された一人の男を描いた作品ですが、この絵はある種のsocial distancingを暗示しているようです。
4."In Plain Sight"
Photo : Tina Takemoto's "In Plain Sight" project, NOT FORGOTTEN #XMAP , over Terminal Island. Photo by Mark Von Holden
アーティストのラファ・エスパルサとカシルズによって発案された「In Plain Sight」は、80人のアーティストとアクティビストのバンビー・サルセド、チェイス・ストランジオ、作家のラケル・グティエレスらを集め、7月4日の独立記念日に空中に浮かぶメッセージを制作しました。彼らのメッセージは全国の80の移民留置所、移民法廷、収容所などの上空に出現しました。あらゆる形の強制収容があらゆる場所で起こり、最も疎外され、見向きもされない人々の生活に影響を与えていることについての警告です。これらのフレーズは現れてすぐに空中に消えていきましたが、そのメッセージはそれを見た人の心に残り続けているでしょう。
3.ギャレット・ブラッドリー「Time」
ルイジアナ州のある家族に焦点を当てたドキュメンタリー映画「Time」は、この映画の主人公であるフォックス・リッチが夫の釈放を待つ姿や子供たちが遊んでいる様子を撮影したホームムービーなど多様な映像で構成されています。「Time」は米国の刑務所制度に内在する構造的な人種差別に一般の人々が注目した2020年にふさわしい作品でした。ブラッドリーによる魅惑的なモノクロの撮影は素晴らしく、彼女の確固たるビジョンは2020年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー賞受賞という結果をもたらしました。映画のクライマックスではリッチが予想外の成功を収めますが、これは最高の芸術にしかできないカタルシスを提供していると言っていいでしょう。
※私は「2020年の映画ベスト10」の5位に「Time」を入れました。日本でもAmazon Primeで配信されています。
2.アーティストが描いた雑誌の表紙
Photo : From left to right: Courtesy Vogue (2); Courtesy Vanity Fair
ファッション誌の9月号は毎年重要な特集が組まれますが、2020年の VogueとVanity Fairの2誌はラグジュアリーな服を着たモデルではなく黒人アーティストによる痛烈な絵画を表紙に抜擢しました。Vanity Fairはエイミー・シェラルドによるブレオナ・テイラーの絵を表紙に、Vogueはケリー・ジェームズ・マーシャルとジョーダン・キャスティールの新作にスポットを当てました。カイル・チャイカがARTnewsのエッセイで指摘したように、これらの表紙は雑誌を「収集可能なアート作品」に変える力を持っていました。掲載された絵画はBLMの抗議活動が生活のあらゆる面に影響を与えたという事象の象徴的な例とみなされました。
1.ゼナ・ゴールドマン、カデックス・ヘレラ、グレタ・マクレイン等「ジョージ・フロイドの壁画」
Photo : Brian Peterson/Star Tribune via AP
ミネアポリスでのジョージ・フロイドの死を受けて世界中の都市で抗議デモが勃発しました。アーティストやキュレーターたちはデモと並行してBLMに連帯するためのイニシアチブをいち早く立ち上げ、すぐにフロイドへのオマージュ作品が現れました。作品はナイロビからブリュッセルまで世界中の公共空間を飾り、迅速な社会改革を求める叫びとしての役割を果たしました。中でも最も印象的で広く共有された壁画は、アーティストのゼナ・ゴールドマン、カデックス・ヘレラ、グレタ・マクレイン等がミネアポリスのコミュニティの協力者たちとともに描いた壁画でした。絵の中には過去10年間で警察に殺害されたエリック・ガーナー、フレディ・グレイ、サンドラ・ブランド、ブレオナ・テイラーなどの黒人の名前が記されています。フロイドの頭上にはBLMのスローガンとなったシンプルなフレーズが掲げられています。"Say Our Names"。