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2021年の推しコンテンツを好き勝手に語る④『ボクのあしあと キミのゆくさき』

もう何回か同様のことを呟いているんだけど、マジでそう思う。


『プロセカ』のキャラクターたちと共に歩める中高生が羨ましい

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』は、2020年9月にリリースされたスマホ向けアプリ。

「初音ミク」がタイトルに入っていることからも察せられるように、おなじみのボーカロイド曲を多数プレイできる音楽リズムゲームだ。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004060.000005397.htmlより

ゲームにはストーリーを読むアドベンチャーパートもあり、そのなかではミクさんをはじめとするボーカロイドたちも登場する。ただしその立ち位置は、少々独特だ。

物語の中心となるのは、5つの音楽ユニットと、それぞれに所属する計20名の高校生。バンドにアイドル、ストリートにミュージカル、そしてネットを通じた音楽サークルと、それぞれに異なる音楽性を持つグループで活動する少年少女たち。彼ら彼女らこそが、本作の「主人公」だ。

ボーカロイド――もとい“バーチャル・シンガー”として登場するミクさんたちは、「セカイ」と呼ばれる空間から彼ら彼女らの背中を押す役割を担っている。

“セカイ”ごとに異なる姿で顕現している、バーチャル・シンガーたちの姿も魅力

そんな『プロセカ』の作品世界で描かれるストーリーは、複数のキャラクターが織りなす群像劇としては極上だ。もちろん昔なじみのボカロ曲でポチポチシャッシャッするのも楽しいのだけれど、自分はそれ以上に「もっと彼ら彼女らの物語に浸らせてくださいお願いします!」という気持ちでプレイしている。

定期的に配信される新しいシナリオで、キャラクターたちはさまざまな出来事や課題に直面する。時にはメンバー同士で衝突し、時にはミクたちから助言をもらいつつ、悩み迷いながらも壁を乗り越えていく。そんな「成長を伴うキャラクターたちの変化を追い続けることができる」のが、『プロセカ』の物語の大きな魅力だ。

ここでは「各ユニットで描かれる『プロセカ』のストーリーがいかに魅力的か」という話をしたかったのだけれど、全部書こうとするとトンデモボリュームになりそうなので……。

今回は、特に好きなユニットである「25時、ナイトコードで。」について、2021年に最も印象深かったシナリオの話をしようかなと。


徐々に変わりゆく関係性と、どうしようもない問題

「プロジェクトセカイ」25時、ナイトコードで。ユニットPV - YouTubeより

「ニーゴ」と略して呼ばれるこのグループは、『プロセカ』に登場する5つのユニットの中では異彩を放つ存在だ。なんてったってリリース前の開発者インタビューで、「全年齢で表現できるギリギリまで“心の闇”に切り込んだ」なんて表現で説明されていたくらいなので。

良い意味で若者向けの、思春期の少年少女の青春模様が描かれることが多い、『プロセカ』のシナリオ。しかしニーゴで紡がれる物語は、そのような作品全体の雰囲気とは若干の“ズレ”がある。

個々のエピソードで示される問題は解消されるが、抜本的な解決にまでは至らない。そもそも「スタートの段階で各々が抱えている問題が重く、簡単に解決できるものではない」のも大きな特徴と言える。もちろん、ニーゴの面々だって物語の中で成長しているし、4人の関係性も徐々に変化しつつはある。……のだけれど、ほかのユニットほどわかりやすくはないのだ。

小さな変化を積み重ねながら、どうにか前に進もうと、各々が自分なりに必死に足掻いている。けれど、求める結果は得られない。というかそれ以前に、「どうなってほしいのか自分でもわからない」場合すらある。ユニットとしては良い方向に働いているはずの変化が、ほかのキャラクターに苦しみを強く自覚させることだってある。

変化せずにはいられない関係性のなかで、救われながらも苦しんでいる。その「徐々に変わりゆく関係性」と「どうしようもない問題」が、ニーゴのシナリオでは本当に事細かく丁寧に描かれていくのだ。


「暁山瑞希」というキャラクターを掘り下げた2021年

そのようなニーゴの物語の、ある意味では現時点での集大成的なシナリオのように感じられたのが、秋に配信された『ボクのあしあと キミのゆくさき』だった。

というか、改めて2021年に配信されたニーゴの物語を振り返ってみると、この年は「暁山瑞希」というキャラクターを徹底して掘り下げてきた1年だったようにも思う。

ユニット内ではムードメーカー的な立ち位置で、過去のエピソードでは率先して仲間に寄り添っていた瑞希。ずっと抱えている「秘密」についてたびたび示唆されつつも、表立って問題視する/されることはなかった。

そんな瑞希が、取り繕えないくらいに追い詰められ、それまで見せていなかった表情を出した、出してしまったのが、このエピソードだった。ここ、「やりやがったなァ!」ポイントです。

過去のトラウマと周囲の反応によって「本当の自分」をうまく見せられず、他人にも未来にも期待せずに振る舞ってきた瑞希。

それまではニーゴのシナリオといえば、主に朝比奈まふゆ――周囲の期待に沿うために優等生を演じ続けることで、「本当の自分」を喪失してしまった――を中心に展開してきた印象があった。

しかし同時に、「まふゆは瑞希と似ている」ことも以前から言及されている。そして、ここに来て瑞希にスポットが当てられたことで、その類似性がくっきりと浮かび上がってきた。それが、今回のエピソードにおけるひとつのポイントとも言えるかもしれない。

ただ、その“類似性”が「似ているけれど真逆である」ことが、なんとも象徴的でやるせない。しかもその比較ができるようになったのも、「それまでのニーゴの物語の積み重ねによって、瑞希の『秘密』が隠しきれない段階に進んでしまった」のが大きな理由と言える。

言うなれば、前向きだったはずの“変化”によって、今まさに追い詰められつつある状況にあるわけだ。つらい。

根本的な解決にまでは至らなくても、少しずつ積み重ねてきた変化によって4人の関係性は進展し、まふゆもまた変わりつつある。ところが、その“変化”が目に見えてわかるようになってしまったことで、「秘密」を抱える瑞希はにっちもさっちもいかない辛い状況に追い込まれていく。もちろん瑞希自身だって、その変化も関係性もかけがえのないものだとわかってはいるのに、だからこそ「言えない」ことに苦悩する。つらたん……。

そんな「悟空ー!!!! はやくきてくれーっ!!!!」状態に陥ってしまったとき、これがほかのユニットのシナリオであれば、バーチャル・シンガーたちが良い感じに助言をくれる場面……なのだけれど。

ニーゴのシナリオにおいては、そこで背中を押す役割を持つはずのバーチャル・シンガーたちの立ち位置が、これまた独特なのだ。

ニーゴのルカ/MEIKOの対立関係も「やりやがったなァ!」ポイントです

今回のエピソードで主に関わってきたのが、ルカとMEIKOの2人。

まふゆに似て感情の起伏が少ないミクとリンと比べると、この2人はそれなりに感情に動きがある……ように見える。特にルカの性格は予想外で、当初は「ニーゴのルカさんは割とよく喋るんだな……」なんて思っていたのだけれど。蓋を開けてみると、なかなかの曲者だった。

ルカは「停滞なんざ揺さぶりをかけてぶっ壊してしまえ」というびっくり急進派であり、言い換えれば「毒をもって毒を制す」タイプ。対するMEIKOは「長い目で遠くから見守る傍観主義」という、ルカとは完全に対局に位置する慎重派。というかルカさん、ギスギスしようが全力で煽りにくるから、一周まわって笑えてきてた。すんごいキャラをぶっこんできやがった……!

このような2人、思想がまったく異なるルカとMEIKOをぶつけてきたのが、2021年のニーゴシナリオの大きな転換点だったようにも思う。

ストーリー上では彼女らによって2つの選択肢が示されるのだけれど、「どっちが正しい」とは言い切らない。そのうえで、作中では「ひとつの選択の結果」が物語として描かれるものの、それによって前進したのか後退したのかもわからない。にもかかわらず、このエピソードの最後には「第一部、完ッ!」と言わんばかりに特殊演出が入る。

どういうことだよ……おい……!(めっちゃ好き)


「綻ぶ前にここを出ていこうか」

胸のすくような大団円はなく、黄昏時の屋上にとどまり続ける瑞希。

でもそこには、それまではなかったくらいに「お互いの気持ちを口に出して対話した」という事実もあり、それはそれでひとつの前進なのかもしれない。一見すると同じ場所にとどまっているようでも、言葉を交わせば、何かが変わる。前に進める。

というか、はっきりとした選択をしようがしまいが、「前に進む」ことは止められない。物語の世界でも、現実の世界でも。

実際、キャラクターたちが抱える苦悩や、正しさを押し付けない選択肢、変わらずにはいられない関係性などを引っくるめたニーゴの物語展開は、現実のあれやこれやにも当てはまるように感じる。自己の在り方について考えさせられる時期があった人は多いだろうし、大人だって自分のことを完全には理解していない。ある選択が正しかったかどうかなんてわからないし、人間関係においては何かがはっきりと「決まる」ことのほうが珍しい。

物語である以上、「ご都合主義」は当然ある。それでもニーゴの物語には、現実の僕らが抱えている感情や体験の近いところに寄り添ってくれているような、そんな読後感もある。これからも小さな変化を丁寧に積み重ねて……でもやっぱり、最後にはみんな笑顔でハッピーになってほしいな、と思う。

ロウワー / 25時、ナイトコードで。 × MEIKO - YouTubeより

というわけで以上、まふゆ&瑞希に感情移入しまくりおじさんのニーゴ語りでした。

シナリオ読了後は『ロウワー』の歌詞とパート分け、MVの「月」の演出に情緒をぶっ壊されたので、無限に聴いて情緒をズタズタにされてきます。


連載「2021年の推しコンテンツを好き勝手に語る」

  1. 『PUI PUI モルカー』『オッドタクシー』『ウマ娘プリティーダービー』

  2. 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

  3. 『ルックバック』

  4. この記事

  5. 『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ』

  6. 『ふたりでみるホロライブ』『SANRIO Virtual Fes』

  7. 『PROJECT: SUMMER FLARE』

元記事:https://blog.gururimichi.com/entry/review/best-contents-2021-3

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