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下って上って下ってエキレ エキゾースト視聴会

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2024/06/13 初稿
2024/10/06 追記修正
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 2024/05/05(日) こどもの日
 早苗月、二十四節気「立夏」を迎えたのこの日、私は愛車ニャンスタ丸と共に岡崎市の山道を走っていた。田んぼは水張り。泥の上に空を写し地上に雲。初夏を迎えた風景は旺盛に成長する予感に満ち、目に青葉。緑黄は粘性を思わす色濃さに変わり始めた青い春という絵面。適度に曲がりくねる道路は私からシリアスを抜き、好い顔にさせる。
 山麓の谷間に入り山肌に映す色濃くなった影は憂色ゆうしょく。山影ればこの先を思い渋っ面。ここから一ヶ月もすれば不快な梅雨が始まり、人から優しさや理性を欠乏させる真夏に傾いて行くわけだ。草木薫るとろみつく匂いは不快感に加勢し、「ぐったりとするわ。アホ……」ぐにゅりと愚衷ぐちゅうを口にすると、間髪入れず背後から私を抜き去る自動二輪車。沈床する我が頬を打つかのように直列四気筒の甲高い音を浴びせる。
「てめえ!」突然前に割り込まれた用の大根台詞を唱え、アクセルをベタ踏むが、解っちゃいるが追いつけず「カラカラカラっ」とした乾いた笑い声を溢す。谷間に木霊する排気音は駆け足で遠のき、二つ、三つカーブを曲がるともう居ない。「あいつも行くのかな」と、この先の自分を重ね一人山道を走って行く。
 道中電波障害から地図案内サービスが止まることもあったが、こんなこともあろうかと、助手席背後に忍ばせた杖を取り出す。森で貰った棕櫚しゅろが巻きつく木の枝。これを交差点毎に転がし、示す方へ車を進めていくと……直ぐだった。
「キョウセイ自動車学校 もう直ぐココ!」川向こうに目的地の看板が見える。
「ではよいよ」と、橋を渡ると快適な山道から一転。激烈に狭い道幅に天を仰ぐ急勾配がタッグを組む暗澹たるビジュアル。
「またかよ……」に続けてぼそりとFワードを漏らせば、ぐにゅり衷心ちゅうしんから昨日が蘇る。

 2024/05/04(土) みどりの日
「三河湾スカイライン」の道路事情を知るべく現地実走後、来た道をただ戻るのはつまらない。地図アプリケーションを立ち上げ、付近のキャンプ場を取り敢えずの目的地に設定。すると地図案内アプリケーションは伝説のホテルと、スカイランの狭間に敷設された脇道に「行け行け」と案内を始める。脇道に進むとSF映画のワープ時の映像、あんな感じに視界のコスモが狭まり、伝説が始まる。
「三河湾スカイラン」は人の手から離れ自然に戻り始まっていたように感じたが、奥の脇道に比べればどっこい快適。道幅は軽自動車で一杯一杯の片側崖車線。斜面も谷間も緑に包まれ、至近距離からむせ返る草木の香りが匂い立つ。トイレなし。風呂無し。ガードレールなし。
 山に激突すればファイヤーパターンに車は包まれ。谷に傾けばもんどり打って横転か縦系の死のロール。凡ミスでお盆は前倒し、嫌な予兆を誘発させるビジュアルが前後左右に炸裂。こんな道を車で走れというのは馬鹿の極み。散策や自転車ならば楽しそうではあるが……。道中抜群に不信感を発揮する一人徒歩下山中の女性とすれ違ったが、気を抜けば転落BBQ故、運転に全力傾倒。私には彼女を慮る余裕はなかった。
「きゃあああ。うわ、なにこれ。近い。近い。怖い怖い。怖い怖い」地声は数段オクターブ高まりて、独言は止むことを知らず、額は濡れ、手に汗握り、ハンドルはびちゃびちゃ。願いは一つ「対向車が来ませんように!」を強く思うと、通じた。悪い方に。
 くの字に谷間を曲がると、上り来るミニバンと鉢合わす。出会いのタイミングは最悪。不慣れな道。ノーガードレール。ハードコア。私から余裕というものは欠乏し「譲って欲しい。脇道があるならばそこに留まっていて欲しい」と、睨み合いが勃発。念ずるば通じる。ミニバンは後退し始め、私はそれを見守るのだが……転落を予兆させるお手本のような下手くそのそれ。我がハートに搭載した事故予報衛星「事故ダス」は緊急アラートで真っ赤に輝き出す。胸に手を充て「落ち着け」対向車と我がハートを宥めるが、そんなもんは伝わるわけもなく対向車は出所不明のバックステップを刻み、バックと停車を繰り返す挙動は不審。
「おい、こりゃダメだろ……」 人は自分より駄目そうな相手を見ると冷静になるらしく「ここは一丁やってやろう」ポエトリーリーディング「怖いの怖いのとんでいけ」ハイキー担当を辞め、酒焼けした凄腕のブルースマンに方向性を変える。しかし、急拵えでは顎髭も生え揃わず、声も酒焼けしゃがれず、斜面を滑らかな仕草で駆け上るドライビングテクニックも持ち合わせていない俺だった。つまり、これまでとあんま変わってない。
「いいか、これは仕草祭りだ。飽くまでも下手糞な感じを出すために、俺はなめらかでない仕草を演じているだけなんだ」と、ビープ音を刻む事故ダスを宥めるが、ドクンドクンは止むことはなかった。マジ怖ええええ。
 髭と揉み上げを一体成型化された所謂逆さ絵系の方が世の中には居られますが、道路もそんな感じで、崖なのか地なのか草木ぼうぼう皆目判然つかず、道路と自然の点差は「人1−10自」という配分。人が制御出来る範囲は大変狭く、道幅も相変わらず狭小。
☆人は、人工物チームの略。自は自然チームの略。

「ぐおーん。ぐおーん」と、アクセルと車の動きをちぐとはぐさせる死闘中に、先程すれ違った一人下山中の女性が追いつき、不審者を取り扱い見る立場はここで逆転。
「ドラ0 - 1女性」此方が握っていた優位性は逆さ絵に転じたのだった。
☆ドラは、ドライバーの略。女性は思い悩む女性の略。

「ぐおーん。ぐおーん」 俺のドラテクは事故の予兆に満ち、彼女は露骨に距離を取る。その表情は怯えていたが「俺も怖えんだよ。馬鹿野郎」涙目バック。汗という汗は吹き出し、Tシャツ脇の下は色濃く染まり、もう限界。
「ぐおーん。ぐおーん」と、アンダーウェアーをびしょびょにしつつ、息も絶え絶え100m程後退した先に遊びの土地が! 「ここだ! 止めろ!」と、そこに車を停め、深く息を吸う。静寂。野鳥どもが鳴いていた。
「にしても……一体どんな奴だ。ったく!」正義は我にあり。デスロードを上り来るアホがどんなアホ面かと遊放置にて腕組み待ち構える俺。そろりそろりと登攀し、此方に近づき運転席窓ガラスを全開する対向車。そして深々とこうべを垂れ「あたしのせいで貴方は全て失ってしまった。本当にごめんなさい。本当に……」悲壮の表情で詫びるそのビジュアルは、漬物を作らせたら名人ですという風体のばばあ。
 心臓を取り出し「このビートを聞け! ボケ!」と、真っ赤にグロイ右心房、事故ダスを見せつけてやりたくもあったが、あの顔を目にし、それ以上の責苦を出来ようか……。出来ることといえば、せいぜい男前風手のひらの掲げ。ポーカーフェイスの決め顔くらいである。だもんで、その二つを組み合わせ叩き込むのだが、これが罠。
 アホはすれ違いざまに此方にべったら漬けを投げつけ、我がまつ毛前に付着させる。「塩飴だ。バカ」の捨て台詞を俺にトドメと一撃叩き込み、スキール音を鳴らし煙ゆるタイヤ痕を残し、斜面を駆け上がり消えて行く。
 暫くの間、俺は鶯の囀りに傾聴した。「よし……」と、一声。10代の頃の俺をダウンロード。以降破壊衝動。怖いものなしのドラテクで木々を薙ぎ倒していくと、直ぐだった。

・ザ☆下山
 神社の駐車場に車を駐め、一応の目的地にしていたキャンプ場に折角なので写真を撮りに行く。
「何故?」 自分でもそこは判らないがマジックワード「ご縁」で、衷心の巾着袋を閉じようと思う。まだやれっつうなら、神社の参拝後からカラスのマンマークが入った話を出来るけど、要る?

 2024/05/05(日) こどもの日
「NO!」 眼前には再び険峻よこんにちは。昨日より路面は鋭角だ……。教えて欲しい、何故私は二日続けて狭小急勾配の道路を前にしているのか。ここは出来たら迂回したいが、土地勘は無く、別のルートがあったとしても、はたしてそれは現代っ子向けに整えられたそれなのかは判ったものではない。地図上の道路と実情は全然違うということを前日に体験したばかりだ。更にこの後の別の予定を思うと、私が私を囃し立てる。
「万事目的地一歩手前でこうしたことに直面するとは……」あと少しの所で希望を砕かれることは枚挙に問わず、幾つも経験して来た。
「波状だわ。猿の赤ちゃん」そうした声はまだ聞こえないが、こういう時の神仏頼り。そうだ「南無三」を御言葉に車を進めよう。が、現実は早速難所。坂は見た目を裏切らない急勾配。2速でもニャンスタ丸は加速せず。こんなのは初めてだ。背中に嫌な汗がじっとっとし、服が肌に付着する不快感を伝え始める。
「ぐおおおおおん」と、エンジンは唸るが音と速度は似つかわず。
「昨日の坂は今日も坂。俺とお前でDieゴロゴロゴロ」っと、即興のアカペラで事故ダスを宥めるが、歌詞には死の匂いが混入し、転落大きく死ぬ的未来が頭の中にへばりつく。
「ええい……鬱陶しい」ドクンドクンと脈拍は高まり、ハンドルはウェッティー。「……っ。もう、くそう」と、向ける苛立ちは頭の中。
「対向車が来ませんように!」カラオケ歌手を止め、素直な気持ちを思うのだが、前日から学んだ「念ずるば思いは通じる」を教訓に「真っ向。どんと来い」願いを変える。これで土地に根付いた地回りの嫌がらせの精霊を加護に出来るかと策謀巡らせるが、いや、違う。こうした二者一択の思考に囚われることが負けだ。義理もいわれもない。だいたいこういう場合はなんだかんだで悪い方向に傾くものだと踏み、どちらにもどちらでも無い場に心を置く、衷情ちゅうじょうを無に。すると、崖っぷち思考から脱却。効果は的面。ほらみろ結局対向車がやって来たぞ。じゃあダメじゃんと思う諸君、何故にスピリチュアルの文脈を事実とし、そこに溺れるのですかな?
 現実はこうだ。対向車は「今日はバイクで来た」というそれで、支障は全くない。私の怪しいドラテクを感知したライダーは此方に道を譲り、俺は得意の男前風てのひらを掲げクールなにこ風で事なきを得る。大多数のライダーは辛苦を知っているものだ。他人に優しい割合が高い。
 にしても勾配はキツイ。「進まねえ」と、笑っていると……直ぐだった。

・キョウセイ自動車学校 現着

 時間は丁度昼時、休みどきということで試乗走行は小休止。到着前に既にぐったりとした私も暫し休みを要し、コース脇に腰を降ろす。眼前にDUCATI Diavel V4を右前に、Multistradaを左前に仰ぎ見る位置。跨らなくても判る。あの腰高では俺は地に足着かないことが。その奥ではKAWASAKI Z H2 SEのアクセルを開けたり閉じたりされている方が。排気音は特撮ヒーロー「仮面ライダー」オープニングテーマ曲前のアレの感じで、他車両からもそうした音が聞こえてくる。モーターヘッド愛好家の徒は各々嬉々に破顔し、あたかも昨日免許を取った子供のようだ。勿論彼らの気持ちは俺には強く判る。意外だったのことはDUCATIは見た目と裏腹に紳士的な排気音である。
 そんなことを想像していると、販売店店員さんから声をかけられた。バイク熱を高めるため前日にバイクショップに足を運んだ際に対応された方だ。(その後、私は三河湾スカイラインに向かい、奥の脇道で泣くことに)
「もう、乗られましたか?」に「いや、今日は……」「……何か(あったんでしょうか)?」「だって、(ZX-4RRが)売ってないし」 私の声に店員さんは背をのけぞらせ「なーるほど」を強調。それを受ける私の心は未だ登攀中故、金がないことを伝え忘れる程に疲れ切っていた。
「それよりも、ここに来る道。何んですかあれ。あれ以外ってないんですか?」
「ない……っすねえ……」とのこと。駐車場にはマイクロバスがあったが、ということはあれを運転してここまで来た人が居るのか……。運転する場面を想像すると……。
「ぐったりとする……。帰りのことを思うと」の声に苦笑いを見せる店員。 
「ここまで(バイクを)積載して登るの大変でしょ?」 眼前のDUCATIとKAWASAKIを見ながら口にする。
「1速でも全っく。進まないですね」店員さんは笑いながら答え、私は「(でしょう)ねえ!」と強く相槌を打つ。
「去年は試乗会前日に雨が降って」という声に「……ああ」と、私は背を仰け反らせる。どれ程のことかがありありと想像出来、それ以上の言葉は必要なかった。
 そこからは二、三世間話を交わし、その後コース側に縦一列に並ぶは、そう、KAWASAKIだ。「前が、25R?」「ええ」「後ろが、4R?」「ですね」 コンポーネントを共通化した両車両は側から見ても違いは判らないが、真後ろに回るとリアタイヤの太さから判別出来る。
 まじまじと観察し、両車の違いを吟味。至る所に試乗会主催のトリックスター製品が取り付けられ、今年のモーターサイクルショー以来の再開だ。
 会場参加者各々、自動二輪車を床間の掛け軸のように鑑賞。鯱張った名刺交換や挨拶などなくとも自然とバイク談義が始まり、こうした媒介を通じると人見知りでも安心。然程苦もなく話が弾む。
 やいのやいのと自動二輪ファンとのやり取り。我がボナンザブラザーズ「25R」「4RR」に跨り破顔する人々を目にし「本当はそれ、俺のなんだけどね」と、空想上のマウントを思えば心穏やか。嫉妬ばかりでは心を焦がす。それと……既に名前は決めてあるんだ。「甘露駄々茶丸(かんろだだちゃまる)」 だだちゃは「おやじ」を意味する方言とのことで、どこのだだちゃが開発設計生産試験をしたかは知らないが、小粒で色濃く旨い車両にピッタリな名だ。 
 そんなこと(空想)をしていると(かなり得意)午後の試乗会が始まり、ここにやって来た主目的に腰を据え、耳を欹てた。
 ライブとアルバムでは同じ楽曲でも違うように、写真で見る美術作品と実物が違うように、これまでトリックスター社の動画チャンネルを拝聴し排気音を見てきたが、自らの目と耳、肌で排気音を感じたい。俺はNINJA ZX-25RRとNINJA ZX-4RRの排気音を捉えやすいように、やや斜め後方に着座位置を変え傾聴する。
 まず「アイドリング音」 全く問題ない。エンジンに火を入れた直後から煩くてはご近所が気になり、やおら早朝深夜に随に跨り写真撮影へというわけにはいかないが、この音なら問題ないだろう。
 次に「エンジン常用回転数での音」 前走車に追随し試走する姿から、実際の道路上で交通の流れに即した場合を想像出来た。常用域でのこの排気音は周囲を不快な思いにさせることはないだろう。至って大人しく、これでいちゃもんつけてくる者は難癖つける切っ掛けか、自動二輪車に憎しみを抱いている者であろう。
 次に「ピーク音」を聞きたいのだが……。紳士的ライダーの試乗が続き、中々そうした機会に恵まれることはなかったが……「おっ」 何やら活きのいい生意気香るライダーが現れた。名も知らぬそいつはスタート前からやる気を示す挙動を取り、俺はそいつに着目を置く。あたかも新人スカウトマンのような気分だ。
 彼は期待通りの動きを見せる。一時減速。前走者と距離を置き、アクセル全開! するとこれまでの音から表情を変え、排気エンドからは稲光が迸り、地上から空へ逆上するストリーマーらしい排気音。
「ふふ、らしくなって来たな」 ロベルト・にこは顎手を摩り「あれ、前走る人、嫌だろうな」と思うのだが、にまにまと笑みを溢し拝聴。
 ではここでフルエキゾーストの総評。良い。人里離れた魔殿に住むならばバットモービルだろうが、地鳴りのような排気音でも誰も気にしないであろう。しかし、そんな環境はまずない。その点これはアイドリングから常用回転まで紳士的な音。アクセルをガヴァっと開ければ音を変え、所有欲を満たす。また素材置換による重量軽減効果もあり、私の理想的な物だ。モーターサイクルショーで関係者に要望を直接伝えたが、イカヅチのショートタイプフルエキゾーストの製品化を引き続き期待している。
 にしてもバイクメーカーや販売店主催の試乗会はあるが、アフターパーツメーカ主催というのは珍しい。今後アフターパーツ共同主催、試乗会というのも面白そうだ。そうした総感を思っていると時間はよいところに突入。ではそろそろということで、私は次なる目的地に向け腰を上げたその去り際、コース前に張られたテントの光景に腰を抜かす。
 そこには車両毎に各々のヘルメットを置くことで試乗待ちの順番を示し、今までこのような光景は見たことがない。頭に首塚を思うのだが縁起が悪いので想像先を変えよう。
「これはアイドルのコンサートだ。推しの排気音ライブを耳にしに来た」 握手券ならぬ乗車券。会えるアイドルならぬ跨がれるアイドル。そう思うなり卑猥な感じが拡がったが、私の頭は帰路のあの坂。デスロード二日目、下りを思うと沈んでいた。

・ザ☆下山
 降りてしまえばこっちのもの。素敵な舗装道を設計開発施工しただだちゃんに感謝を思い、にこにこ笑顔でニャンスタ丸は快走。次なる目的地へ向かったのだった。
「うわー楽し〜♪」

バイクを買うぞ!