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三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第8回「濡れている燃料」

1964年7月2日 午後3時
三河3.2号はRT-10 ハマー固体燃料ブースターを三基抱えマクソー・ブロック社からの要求であった高度、速度これら面倒臭い目標を無事達成。
1964年7月13日 月曜
ラジオ番組『日本こども電話相談室』の放送中、スポンサーである模型メーカー「アオカワ」の宣伝が聞こえてくる。
「カチャカチャ。パチンッ」と音を立て、ラジオを聞きながらスポンサーから提供されたプラモデルを作るフォン博士。打ち上げ事故失敗以降マクソー・ブロック社から販売が控えられていた1/144モデル三河3号のプラモデルが正式に販売された。日本のプラモデルメーカー アオカワからも販売。
参照:三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第5回「これがハマーだ!」
https://note.com/k1093/n/n64924aabb0c3

プラモデルを接着剤ムコダインCの黄色くネチャネチャとした接着剤で接合していく。

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写真:モデルになった三河3号 先端のイカのエンペラ(耳)がかわいいね。でもそいつが空力において悪さをしてたよ。

「こやって手の内に収まる大きさで見ると可愛いが」とフォン博士。
「しかし、大きさに対しての翼が至らないか」とフォン博士はそう言いながらムコダインが凝固し黒ずんだ物質が指先についたモノをティッシュで拭う。すると、そのティッシュがムコダインと接合し、ムコダインC+ティッシュという謎の造詣に指先が変わり、これをまだ粘着していないもう片方の手で取ると、指先にちぎれたティッシュが付着し、やや嫌な気分、広がる。
白を基調とした三河3号では、制作時に汚れが目立ち、「色も考え物だ」とフォン博士はぼやいた。

1964年8月5日 水曜
ー 社長室 -
逆から読んでも新聞紙。宗弐郎は紙面最後のテレビ欄から拝読。夜は何を見ようか考え、そしてひっくり返し新聞紙一面から世の中を読んでいった。
「ベトナムへ米本格介入か? トンキン湾事件」と書かれた見出し。
「これで向こうは天国と地獄か」と宗弐郎。
アポロ宇宙計画。1960年代に人類を月に到達させると宣言したジョン・F・ケネディ大統領。
■アポロ計画 JAXA宇宙情報センター
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/apollo_program.html
■トンキン湾事件 世界史の窓
https://www.y-history.net/appendix/wh1603-065.html

紙面を捲り、県内版。愛知県内の出来事を読む。
「学生。ドミノ倒し。汗も倒して奮闘」という見出し。
学校内で集まった有志が黒い板、ドミノを積み、連続した連なりを連なれるという目的は良く判らないが、そういった行為を取材した記事。建設中にドミノを倒してしまう事故などが牧歌的な文体で書かれていた。

「コンコン」 ノックは二回。ジーン・カーマンがやって来た。
「社長、実は母国経由でこういう話しが持ち上がっております」
ジーン・カーマンの話によると本国ドイツ経由で入った情報によると、アポロ計画のエンジン選定から漏れたメーカーが欧州のロケット研究機構に持ち込んだエンジンがあるらしいが、ヨーロッパはヨーロッパとの連帯を強めるためその提供は破断したらしい。そして、売り先を失ったメーカーは我が社への興味を持っているらしいとのこと。
「だったらうちへ連絡すればいいじゃないか?」と宗弐郎。
「先端技術を含み議会承認に関わるため、売り先は限られるとのことで、承認が降りたイギリスを経由し、そしてドイツへ。全てに断られたという結果ありきの事実の上で、我が社へ持ち運ばれる形となれば・・・」とジーン・カーマン。
うわ、出たよやり手のダークサイド。
「それをうちが買うのか?」と宗弐郎。
「購入し、研究開発という」とジーン・カーマン。
「その場合、幾つかの間が挟まリ、元々幾らで売られているのか知らないが、最終価格は高くなるんだろ? 買って何が手に入る?」
「液体燃料を使用したロケットエンジンです、一度火が点いたら燃え尽きるか、爆散するあの燃えるバケツとは違い、燃焼量を制御・・・」とジーン・カーマンは口にし、RT-5 フリー固体燃料ブースター開発に関わった人物、豊田増史郎へ禁句であるRT-5の通称燃えるバケツと口にしてしまったことを後悔する。
「お前みたいに言いっぱなしの奴ではなく、制御できるってことか」と皮肉への報復を行う宗弐郎。
「ええ・・・」 口をすぐめて答えるジーン・カーマン。
「気に入らんな。かっぱらいは」と宗弐郎。
「・・・」
「こっちに売りたいなら相応の方法で持ってこい。よからん方法で取り込んだ先には向こうの都合、アメリカ議会のゴタゴタに巻き込まれたらうちのような一民間は簡単に吹き飛ぶ。アホの画策には乗らんぞ。君が欧州に行き、そのロケットエンジンについて研究内容かそれ自体を適切な方法で適切な値で購入してこい。それと我が社の名刺をその相手へ渡してこい。行きの旅費は出す。帰りの旅費は成功した場合支払う。判ったか、悪党。選択肢はYESしかないんだよ」と宗弐郎。
急遽ジーン・カーマンはフォン博士を連れ欧州宇宙機構(ESRO)本部、フランス パリへ飛ぶ。

1964年9月16日 水曜
富士山レーダー完成。日本一高い山、富士山に気象レーダー及び運営システムが完成。
■富士山レーダー 大成建設
https://librarytaisei.jp/works/vol001/index_02.html

午後6時45分 電話が三河宇宙造船に届く。
ジーン・カーマンが液体燃料を使用するエンジンを適切な方法で購入出来る見込みとの一報。電話口が変わりフォン博士に。RT-5 RT10固体燃料ブースターのがわを流用すれば液体燃料用のタンクに流用可能であると確信したと興奮気味に伝えてくる。推力方向も最大角100°!と、ガチャガチャとした口調が彼の情動を物語る。
再びジーン・カーマンに電話相手が代わる。このロケットエンジンを購入してよいかどうか決めて欲しいとのこと。
「いいか、適切な方法を取り、適切な価格でしか買わん。密輸のような形では絶対に購入しない。そっちがそっちの議会を説得した商品なら興味があると伝えろ。我が社は議会を説得しない。そっちの責務だ。いいな、ジーン・カーマン、君のズルは無しだ」と宗弐郎はそう伝え、電話を切る。

1964年10月1日 木曜
ー ロケット組立棟 -
LV-T45 スゥイーベル液体燃料エンジン 正式に受領。
エンジンメーカーと握手を結ぶ宗弐郎との写真が撮影される。

1964年10月10日 土曜
ー ロケット組立棟 -
LV-T45 スゥイーベル液体燃料エンジン 点火テストを発表。 
三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第8回「濡れている燃料」
https://www.youtube.com/watch?v=56sKypI4yTw

次回予告『テストフライ』

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市川 にこ
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