実録 博徒にこ ボートレースガイド列伝
写真は「レース結果集計中」
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2024/11/03 初稿
2024/11/04 追記修正
2024/11/06 追記修正
2024/11/07 更新
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日本にて第50回衆議院総選挙が行われた。政策の違いを盾に候補者同士で鎬を削り、それを目にする有権者は「誰に何故票を投じるか」を決めていった。つまり、行われる選挙にテーマがあれば有権者にもテーマがあるのだ。
選挙とは謂わば参加型の祭りである。そう、祭りとなれば俺であり、俺といえば祭りだ。また、選挙に「出馬する」と言い表すことからも判ることだが、選挙とは謂わばレースである。レースといえば俺の趣味でもあり、そうなると選挙とは祭りでレースであり、俺といえば俺であり、そんな俺は厄介なことにややせっかちであり、鈍重と木偶の坊をやや苦手とし、投票日まで待つことが出来ず、そうなると自ずと期日前投票ということになる。
つまりこうだ。選挙 → 祭り → 俺 → わっしょい♪ → レース わっしょい♪ → 俺 わっしょい♪
過程がクリアーになったところで、レースといえばタイムアタックだ。そういうわけでルールは簡単。投票所の玄関扉を抜け、投票を済ませ。再び玄関扉を越えるまでかかった時間を計測。一番早かった俺が勝つという、シンプル明瞭なタイムアタックを今回も完走したのだったが……。
「こ……これは……」
・計測結果
Niko Ichikaw ゼッケン#25
“03:16.56”
走行の妨げになる者は居らず、期日前トラックは恵まれた環境だったのだが、過去最悪のタイム……。コースイン前にマーシャルから呼び止められ、期日前投票用紙に必要事項を書き忘れた痛恨のミスが発覚。記載するまで走行禁止を命じられるが、その間も時間計測は進むのだった。
口惜しさであるが、選挙の公平さを保つため、安全のためにレギュレーションを破ることは出来ないのだ。
私は当時複数のレースを抱え、普段では信じられないこうしたミスが出たのだろう。プライベートチーム故、雑多なことからプレイヤーまでを行う必要があるのだ。幸も不幸もどちらもあるのが自由であり、何方の結果も受け入れるのが自由である。ワークスと違い個人で出来ることは限られるが、それでも最善を尽くすしかないのだ。
投票を終えた数日後開票日を迎えた。まず全ての候補者を労い、そして当落した結果を受け入れ、粛々と国政は続けられていく。そしてそれから数日後……。
選挙とはレースだ。ということでここで論理を飛躍させてみるが、レースといえばモータースポーツであり、モータースポーツといえば「先輩も後輩もない」ことで有名な水上であり、水の上とは全てのものを等しく浮かべ、無理が祟れば沈み行く。ということで。
・場外舟券売り場 現着
以前からその存在は気にかかり、社会勉強のため足を運んでみた。会場入り口前は一寸したサロンと化し「アルコール禁止」「のみ行為禁止」「暴力団反対」の3枚の立て看板、社会的許容を保つディフェンダーが軒を連ね、巨大画面にはボートレス中継を映し、石で出来た机と椅子が並ぶ。
場の空気感というのは判り易いもので、スモーキーな芳醇と、芳醇なアルコール臭。酒飲んじゃダメだつってんのに、出来上がってから来てる奴が居る。西日暮里から西成にかけて、あとは、ええっと日本の西南端を結んだ所謂「バミューダトライアングル」に昭和のおやじどもは吸い込まれ、魔界に転生したという通説が跋扈するようだが、ところがどっこいSTILL ALIVEだ。
「ふふ、らしくなってきたな」 街から撃滅された喫煙者と、酒飲みが石の椅子から机に駐屯。勝負師特有の座った目で皆が皆、同じ方向を向く。そこにはボートレース中継が映る。彼らは欲求に忠実でもあるともいえ、現在社会から疎んじられる存在であるのだが、私はどことなく彼らに暗愁を思う。
雅あれば世俗もあり。これぞ社会見学。とてもいい絵だ。とてもいい。モノクロームでコントラストをソリッドにさせられる、良い顔になる昭和面よ。
後から訪れる者たちは瓦版のような、その日のレースの打順が網羅されている「出走表」というものを手にし、屋内へ向かっていく。私も幾つか手に取り、彼らの後をついていった。
中に入ると差し詰め市況。天井から複数の液晶モニターが吊り下げされ、煙草とアルコール。オヤジどもの万能香水は鳴りをひそめ、リノリウムと真新しい建材の香り。唐突に現在に戻される。
「素晴らしい!」 数々の画面には日本全国津々浦々ボートレース24会場の情報をリアルタイムで映し出す。それを上目遣いに己が資本を張ったオヤジどもの顔。いい! いいのだ! 是非写真に撮りたいが、これをインターネットにアップするやいなや、真面目一辺倒から、揶揄することを我が心情とする両サイドは徒跣に文言のライフルを脇に抱え、殺しの文句「ファイヤー・フリー」 十字砲火開始の声の下、充足感ある私的処刑が行われることは火を見るよりも明らか。
私は壁沿いのベンチに徒座し、ここまでのこと、そしてこれから何が出来るのかと経緯をメモる。
「館内はテトリスだと嫌煙される⚡︎に似たブロック状のようだ。売り場にはギャンブル依存症防止のキャンペーン告知ポスター。デザインはライオンを軸としたもの」などなど、メモっていく。
ある集団の中、一人異なる目的で過ごすというのは孤高の自尊心を満足させられる。ナルシズムを撫でられ、同時に異世界を描写していくのは書き手として、楽しい♫
館内を見渡し、コラテラルダメージを軽減しつつ被写体を探す。試しに天井から吊るされた画面と天井の空調を撮ってみた。ボートレース。そして空調。直喩と換喩というものを画角に収めるのだが、おっさん達が映り込まないように気を使い、画角はガタガタ。前衛にも収まらない、一般的な合格基準から全て外したただの下手くそのそれ。唯一の救いは中継画面に映ったゆるいキャラの可愛さだ。
「トコタン」というそれは見た目も語尾もゆるふわ。
『国内最大級の生産を誇る特産物、招き猫をモチーフにしているニャン♪」とのこと。名の由来は常滑市の「トコ」ボートレースのターンマーク。モンキーターン。3連単の三つの「タン」』 招き猫以降、私には何をいっているのかさっぱりだが、そういうことらしい。どて丼が好き。焼き物の器で地酒を飲むことを好むそうで、酒の肴に海鼠腸。賭場独特の雄邁な塩気という内張におっさんの香りを俺は嗅ぎ取っていた。
「おい、どけ。おっさん」納得いかない写真。背姿ならばいけるかなと思うのだが、ところがどっこい。四方に針巡ったモニターは外と違い様々な方向にあり、人々は様々な方向を向く。それらは「カッコつける。カッコつけない」といった10代中期から打ち上がる自意識から脱し、自身がルッキズムの干渉に置かれることを、着目されることを好まないというような「我々は見る側である」とでもいったことだろうか、着衣に際立った主張はなく、圧倒的多数は概ねモノトーンだ。
「冷たい奴は、いつだって傍観者だ」 自分の恥としくじり、心のぶれに敏感故か。などとベンチに腰掛け、メモる私の横に着座してきた男もそうだった。柄シャツに柄のベスト。しかしモノトーンという無意識の重ね着を決める初老は、着座するなり俺に視線を置き続ける。
「なんでオメエ。さっきから」などの掛けられる声を想定し、こうしたこともメモる。
だが違った。旧軍で例えるなばら工兵。一兵ならば迫撃砲が似合うその男は俺なんかに興味はなく、俺を挟んだ奥のボートレース中継を座して鑑賞していたのだ。誘われるように俺もそれを見る。
・三国ボートレース場
スニーカー履きのカニをマスコットとするここでは『GIIIオールレディース 三国レディースカップ』が開催されていた。中継画面はピンピンどピンクを貴重色にした特別UIデザイン。
「カップ名だが、これはレディースの二重説明じゃないのか」と、ハラハラさせられるが、そんなものは知らぬよ、どこ吹く風にファンファーレが鳴り渡り、ボートは水面を疾走していく。
あまっ子故ゆるふわだろうと高を括るが、コーナーでイン側からアウト側の舟を弾き飛ばすアグレシッブな操舵。それは差し詰め水上のダートトラックレースといったもので、スライドターンするのは楽しそうだ。転んでも水ならある程度は大丈夫なのだろうか?
レース後、勝利者インタービューを受ける女性は意外や意外、道の駅に居るバイク好きそうな子。バイク女子という感じのそれで、レースとインタビューのギャップがぱない。
「ペラを叩き変えて乗りやすくなった」彼女が受けごたえに含まれた独特の文言に「うお! 知らない音楽のジャンルのパーティーに来た!」と、好奇心が満たされる。
気づけば前のめりにレースを鑑賞。俺越しにどピンクレースを眺めるおっさんに別れを告げ、被写体とモータースポーツ鑑賞の探訪に出る。
・ボートレース多摩川
ここにも二次元の「パワー」が木霊する。「静波まつり」という美少女キャラクター。変形型セーター服姿で無論スカート丈は極限までショートカット。静波の名の由来は「日本一の静水面」と呼ばれるボートレース場を由来とするそうだ。設定上彼女はアイドルレーサーということだが、この服装なら些かパンツが丸見えではないかと老婆心を抱く。
この日は『ウェイキーカップ開設70周年』が開催。画面には美少女キャラ静波と、レース会場の情報が表示されている。
「水面気象」
天候:晴れ 風向き:北東 風速:6m
波高:4cm 気温:21℃ 水温:19℃
ここから画面が切り替わると、よいよ何のことかさっぱり判らない情報の数々が表示される。
「前日予想」
ボートレーサー名の横に◎などの記号表記。
スタート展示 0.9 これは何?
X号艇 F0.3 これは何?
X展示タイム 6.78 これは何?
更に画面が切り替わると「まくり」と、相撲の決まり手のようなものが表示される。どうやら前レースの決まり技のようだ。画面を見ながら周囲の勝負師は出走表に何かを書き始める。俺も見よう見まねで出走表に何かを書くのだが、書くべきものが判らないため「まくり」と、記載。本人はまずまずの満足感を不思議と得る。会場に置かれた樹脂と芯を合わせた鉛筆は投票場でも見かけるやつだった。
レースを見ていて思うのは、前走者が圧倒的有利だということ。これはバイクの雨の日のレースだと置き換えると容易に想像出来る。撒き散らされる水飛沫は視界を奪い、舟の後に残る引き波は後者の操舵を乱すようだ。バイクの減速時に現れる不快な振動を「チャタリング」と呼ぶのだが、ボートレースでは前走者の航跡波により、舟は跳ね水切りのように進む。その間にトラクションはかからず、前に進もうとするエネルギーは空回りし、引き波と直角に接触すれば壁となり、速度を失いコーナー脱出がもたつくように見受けられる。
三国では女性限定のレースだったが、多摩川では男女混合レースもあり、出走表のボートレーサー横に❤︎が着く。
ところで『ウェイキーカップ開設70周年』の『ウェイキー』って何だけ? ということで『ウェイキー 意味』で検索。"Wakey Wakey"という言葉が候補の最初に現れる。意味は親しい相手に「起きて 起きて」とかける言葉だそうだ。今の時代、大変燃えやすく色々気を遣うのだが、この「ゆるく押す」ってのは時代が求めることなのかと。オノマトペでもあり、意味もいい。他では"Wake"とは「航跡」も意味するそうだ。
被写体選びに難儀していたが、二次元ならば要らぬ角も立たないだろう。ということで、申し訳ないがやや卑下していた美少女キャラクターにここで救われた。
結果、静波まつりである。
「以上、ボートレスガイド(を)終わります」
☆参考資料
・究極のボートレースガイドブック
著:永島 知洋
ISBN: 978-4537221374
・ボートレース24場完全攻略ガイド 改訂版
著:桧村 賢一
ISBN: 978-4782904107
・競艇検証.com : 全国競艇場のマスコットキャラクター達を徹底検証
https://freeboatrace.com/content/81/
・常滑市キャラクター「トコタン」
https://www.city.tokoname.aichi.jp/shisei/guide/1001275/1002295.html