
三河宇宙造船 宇宙への軌跡 第2回「空へ」
轟音と閃光。そして遅れて揺れがやってきた。
「三河一号」打ち上げ後、渥美半島に激しいチッスをした直後から会社の電話は鳴りやむことが無かった。「さっさと出ていけ」 概ねそういった内容の御意見を頂き、当社のこの地での存在意義は渥美半島の端点、伊良湖岬灯台よりさらに端、もうギリギリの立ち位置に。
写真:伊良湖岬灯台
「成功させなければ成らない」 豊田宗弐郎は胸元にぶつけられた完熟トマトによりYシャツが薄い赤に染まったまま部下へ厳命。地元住民による抗議は会社入口を囲み、今迄の無人ロケットの打ち上げの数々と、この度の事故により怒りは頂点に達していた。
弊社の歴史を振り返ると、個人的にも「そりゃそうだろ」
諦めるか次に繫げるか。この何方かが劣っているや勝っているは無い。ただ「諦めるか」「繫げるか」
ロケット開発チーフエンジニア、ヴェルナー・フォン・カーマン博士を吊し上げ「おい、どうにかしろ!」と喝を入れる宗弐郎。カーマンがドイツ語で何か苦しそうに言っているが「判らねえんだよ」と突き倒す。
息も絶え絶え博士がロケット組立棟床に転がった眼鏡を拾い上げ日本語でこう言った。
「打ち上げ方法に問題があった」とカーマン博士。彼は乱れたネクタイを緩め座った目で話を続ける。
「垂直にただ打ち上げ、上昇速度を失い地球重力にただ任せた自由落下速度にパラシュート解放耐えれなかったためだ。あれではただの工作ロケットだ。ここには海があるじゃないか。何故打ち上げ後角度を変えなかったのか」と。
↑↓=爆発
「何故だ!」と、彼の発言へ詰め寄るように怒りとトマトがあればぶつけたい衝動に身を任す宗弐郎。
「それは打ち上げの際、パイロットを人ではなく人形に変更したためだ!」
「どいつが変えやがった」
Yシャツ胸元を薄いトマト色に染めた男へロケット組立棟内の全ての人間、性差なくその眼は彼へ向けられていた。
「屁理屈を言うな。いいか、次を絶対に成功させろ。予算もカットする。時間もない。直ぐに打ち上げろ!」
ロケット組立棟内に大声が反響する。
ロケット「三河1.1号」 改善点
1)Mk1コマンドポッド 一液式推進剤を0へ
2)RT-5 "フリー" 個体燃料ブースター 推力制限を100から80へ
3)空力パーツ、ベーシックフィンの廃止
4)人形を廃止しパイロットの搭乗へ
写真:三河1.1号 改修型とはなっているが、急ごしらえ勢いの鉄塊
1)について
何故今まで搭載していたのか不明。黎明期にある盛り込み過ぎて無駄になる事象「初めての奢り」によるものかと思われるが、写真右下に表示されている「エンジニアレポート」をカーマン博士が見ていなかった可能性が高い。
結果、コストカットにも繋がった。
2)について
推力制限を100から80へ低下させた意図は上昇時の加速度(以降"+G")を抑え、パイロットへの負担を軽減。
最大上昇高度を目的とせず、打ち上げ後の「帰還」を最大目標とし減衰。
3)について
我々は実験を成功させ、近隣住民の不満を解消しなくては。会社の存続がかかっている。時間が掛かるほど住民の不満は固定化し、恰好のスキャンダルに陥っていく。時間がないのだ。
「操縦装置に人を搭載させ、ロケットエンジンにより打ち上げ、帰還する」という目標へ。
空力安部品を取り付け安定させたいが、コストカット及び、予備パーツとして確保できていなかったこともある。上記”2)”の推力制限を下げることで+G下においてもパイロットがコントロール出来ることを願っている。
残念ながら時間制約が。実際にそのような効果があるかは実験を重ねるべきだが、やってみるしかない。
ああ、そうだ。前回伝え忘れていたが打ち上げを我々は道楽では行っておらず、飽く迄も世界中の物好きからの依頼と、打ち上げで得たノウハウや発明を特許化し企業利益を得ております。
やり手のジーン・カーマンが世界中の変わり者から依頼を受けたり、上手く騙したりし当社はここまで食いつないできております。
写真:「フィッシュオン」 ジーン・カーマンの趣味はトローリング
前回「大気圏を脱出せよ」を勢いで受注したが、物理法則と世の中はそれほど甘くないことを知る。
まずは一歩ずつ「最初のロケットを打ち上げろ!」に切り替える。
それにしても世界には色んな物ずきが居ますね。
「嘘八百」という日本語をジーン・カーマンに正しい発音で教え終えたので、早速ロケットの打ち上げに移ろう。
成功すれば資金が手に入る。再び渥美半島に大きな穴を開ければ社長がBBQの具材になるだけだ。世界はシンプル。
写真:三河1.1号打ち上げ前 シェバダイア・カーマン飛行士今回は本人です
「これ飛ぶの?」とシェバダイア・カーマン飛行士。
それが飛んだんです。
三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第二回「空へ」
https://www.youtube.com/watch?v=YV2HoEyCALg
次回予告『科学の戸』
いいなと思ったら応援しよう!
