三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第15回「より高い空へ」
1965年8月10日 火曜 午後2時 日本時間
向井乃秋はアメリカでの宇宙飛行士研修を終え帰国。
「こちらM01 渥美エアーポート着陸許可を求めます。オーバー」
「こちら渥美エアーポート。着陸前にお客さんが居る。取り次ぎ相手へ変わる。上空待機を求める。オーバー」 管制官は座席へ坐ったまま右隣に立つ男性へ上目遣いで視線を送る。
「乃秋、ジーン・カーマンだ。お帰り」
「ただいま広告マン」 懐かしい声。ドイツ語訛りを残す日本語。コクピット眼下に見える大きな宇宙港。その港からジーン・カーマンは話しかける。
「約一か月ぶりだが、相変わらずだな」と、ジーン・カーマン。
「変わるわけないじゃん。突然『向こうへ行け。帰って来い』で」
「フフフ、そこも含めて確かに変わるわけないか」と言い、コーヒーを啜る音をマイクが拾う。
「乃秋。見せたいものがある。会社の上空、打ち上げ場を北東から進入しろ。ローパス最低地上高200m以上を許可する」
「それって!」と乃秋は声を出し、もう答えは見えているが自らの目でその姿を確認するため操縦桿を動かす。
ロケット打ち上げ場には「今は組み付け調整中。来週中盤には打ち上げる予定だ」と、ジーン・カーマンの言う対象である「5.1号だ」と、ジーン・カーマン。 ロケットが聳え立っていた。
ジェット機の音がどんどんと大きくなりトラッキグステーションの窓から見える機影をを眺めながら、握ったマグカップを口元に近づけるジーン・カーマン
「凄い! 出来てんじゃん!」と乃秋の声をヘッドセットのスピーカから聞くジーン・カーマン。
「君たちが船に乗り進出した大陸に行っている間、完成した。ロケット組立棟。打ち上げ場。滑走路も」
「ほぼ全部じゃん」と乃秋。
「いや、まだ幾つかの施設がそのままだが、宗弐郎がゼネコンと会っているので、また変わっていくんじゃないか。宇宙飛行士センターはがわだけは出来ているが中はまだだ。君たち船乗りは」と、ジーン・カーマン。
「え、事務本館でしょ?」と、向井乃秋。
手空きになった建設会社。そのリソース、時間、人が集中投入され「我々も宇宙へ」 宗弐郎の百式計画へ向け着々と準備、そして経営の道筋、軌道安定化に向け投資が加速していく。
「いや、航空機格納庫の中にプレハブが増設され、その中で」と、ジーン・カーマン。
何があったのか想いを巡らす。
「乃秋?」
「了解」 あっこなら他人の目、違う世界で暮らす人たちの目が気にならないし、まあいいか。
空気を切り裂くジェット機の音。
三河宇宙造船所 宇宙への軌跡 第15回「より高い空へ」
https://www.youtube.com/watch?v=RpSg4Ikblrs
「じゃあ、そろそろこっちに降りて来てくれ。それと、お友達の二人は明日帰国らしい」と、ジーン・カーマン。
「了解。渥美エアーポート着陸許可を求めます。オーバー」
次回予告『アウト・オブ・スペース』