物を返してもの交わす
写真は「梱包(パッキング)」
「人間クォーク」こと完璧超人であるにこですが、そんな私でも閏年のように4年に一度ミスることもございます。それは先日のこと。注文したLightning Cable変換アダプターを開封すると、これが見事なオス。挿して挿されての関係でいう凸のそれで、私が求めていたのは凹のそれ。試しに届いた変換アダプターUSB-C凸部と接続したかったUSB-C凸部を接合してみると、これが見事に衝突。その絵面は差し詰め軍略地図の様相。
「物騒な……そんな……そんな時代です……」 ズドンと数発、平和の祭典もなんのそのということでしょうか。嫌な時代です。
そうした現在の世界情勢を映し出し始めた購入物。これを暫く眺め、頭に思うは卵を目論見メスを買ったつもりが見事なオスだったという祭り屋台のカラーヒヨコだった。
現在においてこうしたことを書くと、機能を軸に生命を判別するとんでもねえファンクション野郎として丁重に袋叩きにあう昨今であり、私もそういう奴には二発ほどぶちのめしたい志があり、本領発揮で左ストレートでございますが(筆者はサウスポーという響きに憧れた利き腕右の左構の者でございます)、しばし考え直して頂きたい。USB-Cに機能を軸に役割を求めることは当然ということを。
所有するIT機器に種別も兼ねて名称を付けることはあれど、周囲を憚ることなく耽溺するものならばパブリックの民はそれはそれは不気味を覚え、嫌な汗を掻くものでございます。無機物への過剰な愛は生物として新しさが過ぎるのです。
そうした経緯もあり、私は物に溺れ、溺愛するということはなく、思てたんと違うとんがったUSB-C変換アダプターを所有し続ける謂れを持ち合わせず、これを返品し必要な物を買い直そうと思い至るのであります。そうなると返品対応だということで、インターネットでその方法を調べた。
・判ったこと
「お客様都合の場合、最寄りのコンビニか宅配便会社の営業所に持ち込み、商品が弊社に届けば商品代金の半額を払い戻します」とのこと。
成程。この件については販売会社に落ち度はなく、私がUSB-C変換アダプターは当然の如くメス型になる物だと思い込んだことを原因とする。しかし、一応これには言い分がある。所有しているLightning Cableの端点は既にUSB-C型オスであり、何を好んで間に変換アダプターをかましてUSB-Cの端点オスを推すのか。通常型の靴下上から五本指用の靴下を重ね履く、無意味で蒸れる行為であり、つまり販売されているものは当然の如くUSB-Cのメスであろう。という考えが購入背景にある。
私は検索。発見。今すぐ買う。今すぐ持ってこい。という短絡的視野で選択してはいない。如何せん懐事情が常々火炎地獄車のそれで、ECサイトで一寸した買い物でもレビューによる商品判断。商品名から検索した裏取り。そうしたクロスチェックを過程に組み、購入という行為には常々緊張が伴う。しかし、それでもミスる時はミスるわけだ。
ということでECサイトが告知する最寄りのコンビニに行こう! お返しいたしますその品を紙袋に包み、初めての返品に好奇心も刺激された俺は家を出ると……直ぐだった。
・コンビニ 現着
「ミスったわー」直線上にレジに進む。そこには馴染みの人当たりの良い店員さん。
「あらまあ」という声に合わせ、ECサイト曰く「このQRコードを見せれば万事解決。即決即応」というそれを見せる。それを目にするなり彼女は合点承知という感じで、コンビニ入り口付近の端末に私を案内する。
多機能なそれの前に立つのだが、私は何をどうすればいいのか皆目見当つかず、操作の手筈を手繰り寄せる自信が湧くことはなかった。呆然と立ち尽くし、彼女はトップ画面に表示された「QRコード。これですかね?」と、促し型の提案を試みてきた。
「それだ!」押せ! 押す。俺が。すると「QRコードを読み込めと」端末がいうので「ピッ」とした電子音を立て読み込ませる。
「エラー」と、直ぐに返答する端末。その結果を得て互いに見つめ合う二人。言わずもがな「えっ? 何こいつ」ということだ。
そこでもう一度トップ画面の「QRコード」という「これだ!」押せ! 押す。俺が。すると状況に変化が生じた。まずですね、一つは「しばらくお待ちください」を長いこと表示してきました。
「……長いですね」「そうですね……」端末の前で我々は立ち尽くす。なんともいえない関係性と、間と、時間が過ぎていく。何か気の利いたことでも言えればいいのだが、頭の中に浮かんだのは「好きな子の名前……。いいなよ」そういうエキセントリックな飛び道具で溝を埋めようと仕掛ける、極端なバカが選択候補に急浮上してきた。
アウトボクシングであるがピーカブ。中間距離の取り方が著しく下手くそな、打たれ弱そうなピュアなドランカーがどういう結果になるかは察しつくものだった。演出と現実の区別がつかなくなることとは、極端な耽溺を公的な場で表すと同等の周囲をスリルの渦に叩き込むことである。
次にそうした過程も含めて、この妙な時間の間を埋めるべく丁寧な説明を彼女に伝えようと考え始めていた。その論考の脇を高速で駆け上がってきたこととは、その前に引き続き距離感についてまず着目した方が何かと良いとうことだった。
「成程ね」 心の声に相槌を打つのだが、これは端末の遷移過程を見知った感じで通すことが出来、相手に不要なスリルを感じさせることを回避出来た。
そうしたことを考えていると端末は「QRコードを読み込め。アホ」と、しばらく待った末に人を不愉快にさせる感じを表示する。癪に触れる。しかし怒りを安易に表すことも周囲を緊張させるものだ。私は落ち着いた雰囲気でQRコードを読み込ませる。すると端末は急に無口に傾く。「私は何も見えないし。何も聞こえない」という感じで、うんともすんとも電子音も鳴らさず、再び我々は顔を合わせ失笑を浮かべる。
「このバカがさ……」「ね……」と口にはしないがそれであった。
「……じゃあ。もう一度」「ええ」と、相手の相槌に被せるように俺は画面の「QRコード」というそれを「それだ!」押せ! 押す。俺が。3度目となると「!」は結構無理して自分を騙す感じだ。
「しばらくお待ちください」よ再び。これが期待を裏切らず長いこと表示される。
「……長い……ですね」「そう……ですね……」互いに発する声は、怒りや呆れを微かに感じられるやや芝居がかったもので、端末の前で我々は立ち尽くす。
頭の中にはこれまで書いたきた考えを反芻し、再びこれをここに著述しようかと思ったが、面倒臭いなって思った。また書くのは怠いし「コピペ。かな」という構成を考えていた。
すると端末は「QRコードを読み込め。アホ」と、繰り返す。
「おめえの方がアホだろ。アホ」と、俺は思った。何故なら初手のQRコードを翳しエラーを出すまでは高速だったが、2度目から以降のこの鈍重さよ。眼前の端末に対して「計算が遅いスマートな奴」そういう心象に変わっているのだが、相変わらずてめえは「自分はマルチな機能を搭載です」そういう自惚れが見てとれて、次第に笑えなくなり、憐れみが少し。鬱陶さが過半数。雑に取り扱ってよい対象と至っていた。
そして3度目にもなると、これは予想していたことだがQRコードを翳しても案の定うんともすんともということに、ヘッタクソな奴のいじりに巻き込まれた感じになるんだろうなと思っていたら、やっぱそうだった。
「バカかこいつ。ダメっすね」と溢し「ねえ」という彼女の声に一呼吸置く。
「……じゃあ、営業所行きます」俺は直で持ち込むことに考えを改める。
「申し訳ございません」と、口にする彼女はマニュアルに乗っ取ったそれ以上の感情を乗せるが、行きすぎた詫びではなく、何時ものことだが丁度良いものだった。
ここで無理して面白くするならば、怒髪で暴れという選択もあるが、昨今演出と現実の区別が喪失し「リアル」が最大級の賛辞であり同時に最低限の評価という、蛮行とクソ真面目が乱舞する中に夏の極暑も合わさり面倒臭さくて、停滞することよりも移動することを選択。
みんなも大好きなドライブだ!「羽丸ワゴン丸」に乗り込み、空調を最大風速。俺は要らない物をお返しに、営業所へ向かう。
しかし、このまま営業所へ向かうと直ぐに終わりそうな予兆を感じ、ではまずはドデカいよろず屋さんでお香を買おう。
道中、2000年頃の米国音楽シーンを沸かせたミクスチャーバンドのロゴにかなり似た感じのする飲食店のロゴに想像力を湧き立てられた。世代変わりし、新たな旦那が店を任され、店舗ブラッシュアップ。リーフォームに合わせ高校生の頃繰り返し耳してきたアルバム名が「嗚呼、くそうインターネットの弊害か。記憶するというよりはキーワードを思い出し、検索するということに思考が変わっていった。建築デザイナーにアルバムアートワークを見せ、出来上がってみると」そんなことを想っていると巨大よろず屋駐車場に到着。
すると駐車場を縦横無尽に闊歩する、自動車メーカーデザイナーが心血を削りプロダクト化したサルーンにフルスモーク。鬼キャンパー鬼。怪しいシフトレバー。カテーンを搭載。上品さを道路上の他車への威圧感を高めたることにトレードオフしたチューンドカーとの邂逅。何故もこうした手合いは有限の駐車場敷地面積を忙しく転がしたがるのかね? 図太い道路や高速道路で加速するのならばまだ判るが、こうした場面でも周囲への圧力は殿堂入りだった。
店内に向かう。求めていたお香の売り場はカラコンの脇に変えられていたが「俺はまだ目の玉の色は買えねえぞ。茶色くて悪いか!」と、お香を買い。ではそろそろ宅配会社営業所に向かおう。
・営業所現着
所内に入ると眼前に二つのタブレットが。どうやらこれを使用し送り状を作るらしい。察しよく私は席に着座し早速スマートフォンのQRコードを読み込みこませるのだが、鏡張りの関係で脳が戸惑いやや難儀する。結構斜めな状況で画面が突然固まり「えっ、こんなんでもいいの?」 いいらしい。
タブレットはQRコードを読み込むと送り状をサクサク作り始め、その時間は凡そ1分以内の出来事。こうしたテクノロジーの恩恵は大歓迎だ。またここに直行していたのならば想定どおりこの件は容易に片付いていた。エンタメのための迂遠というのは必要である。
受付に返品する品を手渡し、物が差し戻れば、メールに届いた返金見積額を受理。そして完という手筈だったのだが……。
「こ……これは?」
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