日本の学校の「英語教育」は明治時代から本質は変わっていない
1. はじめに:なぜ日本の英語教育は「話せない英語」に終わるのか?
日本の英語教育が長年の課題として抱える問題、それは「英語を話せない」という点です。英語教育が義務化されてから数十年が経過してもなお、日本人の英語コミュニケーション能力は国際基準に遠く及ばないのが現状です。その背景には、明治時代から根強く残る「文法訳読法」に依存した教育体制や、日本特有の地理的・文化的事情が影響しています。今回は、日本の英語教育の問題点とその解決策を探り、現実的にどう改善していくべきかを考えていきます。
2. 日本の英語教育の歴史と「文法訳読法」が残った背景
日本の英語教育に文法訳読法が採用されたのは明治時代にさかのぼります。当時、日本は西洋の知識を急速に吸収して近代化を図る必要がありました。そのため、英語を「実用的なコミュニケーションツール」として学ぶのではなく、「西洋の文献を翻訳して理解するための手段」として位置付けました。文法訳読法は、もともとラテン語や古代ギリシャ語などの学問に適した教授法であり、話す・聞くといった実用的なスキルよりも、文法の分析と訳読に特化しています。
日本が周囲を海で囲まれ、隣国も英語圏ではないことも、英語を「話すための言語」として使う必要性が低いまま現在に至った原因の一つです。こうした地理的・歴史的背景の中で、文法訳読法に偏った教育体制が長く維持されてしまったのです。
3. 文法訳読法に代わる教育法の変遷と限界
日本の英語教育改革は過去にも試みられてきましたが、どれも「話せる英語」に到達するには不十分でした。1970年代には民間の英会話学校が増え始め、英語を実際に使って会話する機会を増やす流れが起きました。しかし、受験に重きを置く日本では、文法や読解が評価の中心にあり続け、実用的なスピーキングやリスニングのスキルを育てる機会はほとんどありませんでした。
1990年代以降には、留学や短期ホームステイのブームが到来し、現地で英語を使って学ぶ機会も増えましたが、これも個人レベルの取り組みに留まりました。2000年代からは大学受験でリスニングの導入が進んだり、小学校でも英語教育が導入されたりと、改善の兆しが見えていますが、根本的な教育改革には至っていません。
4. 日本の英語教育改革に必要な要素
それでは、英語を「使える」ものにするために、どのような教育改革が必要なのでしょうか?以下の要素が求められます。
4-1. 4技能(読む・書く・聞く・話す)のバランス重視
「聞く」「話す」能力を強化するために、授業ではディスカッションやプレゼンテーション、発音指導を取り入れ、評価基準にもスピーキングを組み込む必要があります。試験制度も、文法や読解のみに偏らない形に見直し、大学入試などでの4技能評価を積極的に導入するべきです。
4-2. コミュニカティブ・アプローチの導入
会話やロールプレイを重視するコミュニカティブ・アプローチを取り入れ、英語を「実際に使う」授業スタイルを増やします。特に「タスクベースの学習」を取り入れ、日常生活や仕事で必要な会話力を身につけられるようにします。
4-3. CLIL(内容言語統合型学習)の導入
英語そのものを学ぶのではなく、英語を使って他の教科(例えば歴史や科学)を学ぶ「CLIL」を導入することで、自然と英語での思考力や表現力を高める環境を整えます。これにより、英語が「使えるスキル」として身近なものになります。
4-4. 教師の再教育とサポート体制
コミュニケーション力を育むには、教師が会話やリスニングを指導できるスキルが必要です。文法訳読法に偏らない指導ができるように、スピーキングや発音指導、コミュニケーション中心の指導法を学ぶための研修が必須です。
5. 教師の再教育にかかる期間とコストの見積もり
教師の再教育を行うためには、全国の英語教師に対して5〜10年の期間と数千億円規模の予算が必要とされます。しかし、現在の教育現場では教員の多忙さが問題となっており、毎月の研修や長時間の研修を行うのは現実的ではありません。以下の対応策が考えられます。
5-1. オンライン研修の活用
業務時間外に視聴可能なオンライン研修や動画教材を活用し、柔軟な学習体制を提供することで、日常業務の負担を軽減しながら必要なスキルを学べる環境を整えます。
5-2. 集中型の研修プログラム
長期休暇を活用して、数日間の集中研修を行い、通常業務への影響を抑えます。短期集中で実践的なスキルを学べるため、教師にとっても研修の効果を実感しやすくなります。
5-3. 実践型・簡易指導法の導入
授業内で簡単に取り入れられる発音練習や会話指導を研修に組み込み、忙しい中でも実践しやすい内容とすることで、継続的に指導力を向上させられます。
6. 現状の研修実施率と改善への道のり
日本の中高において、積極的に実践的な研修を取り入れている学校は、全体の3〜5割程度に留まると推測されます。私立学校では比較的柔軟に実践的な研修が行われている一方で、公立学校では研修の内容や頻度にばらつきがあり、文法訳読法に頼った指導が根強く残っています。今後は、オンライン研修や実践型の研修内容を全国に普及させ、教育全体での改善を目指す必要があります。
7. まとめ:日本の英語教育に必要な意識改革と段階的な改善
日本の英語教育を「使える英語力」に変革するには、地理的・歴史的背景、教育システム、試験制度など、さまざまな要因が絡んでいます。文法訳読法に偏った教育を改善し、コミュニケーション力を育む教育体制へと移行するには、段階的な改革が不可欠です。教師の再教育と現場の負担軽減、そして多様な研修方法の導入を通じて、教育システム全体が「実用的な英語」を重視する形に変わることが期待されます。
日本が本当に英語を使える国となるためには、教育現場だけでなく、社会全体の意識改革が必要です。教育の目的
を「試験で点を取る」から「実際に使えるスキル」に変えることで、未来の子どもたちがグローバルな場面で活躍できる道を切り拓くことができるでしょう。