一筆啓上、終わりが見えた 「話はそれからだ…」と中年男は言った シーズン3 その52
時刻通りに特急りょうもう1号が到着した。
二号車の乗車扉が開くと、降りる客はいない。俺たちは足早に車内へ乗り込む。
二号車の乗車扉は進行方向前方にあり、乗車するとそこはデッキ部分であった。
デッキ部分には多目的トイレが設置された広めのスペースとなっており、そこに堀込はいた。
「よお」
そう言いながら、堀込は若干緊張した面持ちで右手を挙げた。
「おう」
と返事をすると、堀込は進行方向側を指差す。
「キズナは一号車の1のA席、進行方向左側の最前席にいる」
「わかった」
そう返事をすると、多目的トイレの周囲を周り込み一号車側へ行く。
多目的トイレの先には通路の両側にトイレが有り、その真ん中に一号車客席へと繋がる扉があった。
扉のガラス窓から車内を見る。
やはり満席のようだ。キズナの座る1A席はこの位置からすると、1番奥ってことだ。ここからだとキズナの姿は見えない。
多目的トイレ周囲のスペースへ戻ると、森本は既に持参していたコントラバスのケースを開けて準備に取り掛かっていた。
「お前はこれを使え」
と森本はコントラバスのケースから自動小銃を取り出し、それを堀込へ手渡す。
「使い方は昨日の晩、教えた通りだ。覚えているよな?」
「おう」
堀込は返事をした後、森本から受け取った自動小銃に弾倉を挿入し、レバーを引く。
俺とパリスもチェロのケースを開け、自動小銃を取り出し準備に取り掛かる。
列車が動き出した後、二号車側の扉が開く音が聞こえた。
森本が言葉にならない呻きをあげ、ニ発の発砲音が鳴り響く。
「奴らだ!」
森本のその声で二号車側を見ると、客室への扉付近に人が頭から血を流し倒れていた。その屍は拳銃を手にしている。
森本が瞬間的に拳銃で抜き撃ちにしたのだ。その森本の発砲音が号令かの如く、二号車から怒号が聞こえてきた。
「自警団の奴らだ!俺たちはハメられたのかもしれねぇぞ!」
森本のその一言で、背中から嫌な汗が一筋流れる。
「堀込!お前まさか!」
俺は思わず、自動小銃の銃口を堀込へ向ける。
「俺は何もしていない!信じてくれ!」
堀込は両手を上げた。
森本はコントラバスのケースからデカい重機関銃を取り出し、二号車側の扉付近へ向けて構える。
「怪しい動きをしたら撃てばいい!シロタン、それよりも一号車の方はどうだ?」
森本の指示を受け、俺は一号車側の扉付近へ行くと、ガラス窓から男の姿が見えた。男はこっちを覗き見るような仕草で、俺を見て何かを言った。
俺は反射的に自動小銃の引き金を引き銃撃する。
「一号車にもいる!」
「挟み討ちか!だがな、こっちにはこれがある!」
森本がデカい重機関銃のレバーを引いたその際、不意に多目的トイレの戸が開き、中から車椅子の女が出てきた。
「中に入ってろ!」
と森本は振り向きざまに、車椅子の女へ向かって叫ぶ。
その直後、三発の発砲音が鳴り響く。
森本は一瞬、仰け反り、獣のような咆哮を上げる。
発砲音は車椅子の女からであった。
「この阿婆擦れが!」
森本はそう声上げると同時に腰の拳銃を抜き二連射すると、女の頭が弾け散った。
「畜生!畜生!この畜生めがっ!」
「森本さん!大丈夫か⁉︎」
森本は首の左側と左肩から出血している。
「急所はそれているし、防弾チョッキのお陰で大丈夫だ!」
と森本は言うが、その首と肩からの出血は夥しい。
「お前らは一号車に行け!俺はここで二号車からの敵を食い止める」
「森本さん!」
「俺はお前らよりこういうことには慣れているからよ。任せろ」
森本は不敵に微笑むと、重機関銃を構え、二号車の客室扉越しに重機関銃を乱射し始めた。
一号車側からも断続的な銃撃が始まった。
「まずは俺が行く!」
堀込は俺を押しのけ、銃弾が飛び交う一号車客室扉前へと躍り出た。
一号車客室扉横にはトイレがあり、堀込は素早くトイレへとその身を滑り込ませる。堀込はトイレから身を隠しつつ、自動小銃を客室へ向かって乱射した。
堀込が身を潜めているトイレの向かい側にもトイレがある。
客室からの銃撃が止んだ隙に俺はそこへ滑り込む。
パリスは多目的トイレの陰から一号車客室へ向かって銃撃する。
「撃たないでくれー!」
そんな中、男の声がした。
客室、真ん中辺りの席、ヘッドレスト上から掌が四つ見えた。
「頼む!孫と一緒なんだ!逃してくれ!」
すると客室側の方から銃撃が止まり、席と席の間の通路に人の姿が見えた。
孫らしき男児を抱えた老人の姿だ。
「さっさと出ろ!」
と言い、俺たちは銃口を上に向けると、老人は孫を抱き通路を小走りにやって来る。
老人は俺たちの前に差し掛かった時、何かを口走った。
「え?」
と思われず聞き返す。
「流血の罪をもつ者たちは、神の裁きを免れることは出来ない」
老人はそう口走った刹那、孫を突き離し、背中に隠していた銃を抜く。
連続した数発の銃声が鳴り響く。
「この爺い!」
咄嗟に俺は自動小銃を爺いに向けて放つ。
爺いはまるで物のように崩れ落ちたのだが、その直後に唸り声が上がる。
堀込だ。
爺いの孫らしき子供が堀込の足にしがみついていた。
「どうした⁉︎」
堀込は子供を突き飛ばすと、その太腿にはデカいナイフが突き刺さっていた。
「このクソがっ!」
俺は自動小銃を倒れた子供に向けて放つ。
堀込は突き刺さったナイフを抜くと尋常じゃない量の血が吹き出す。
堀込はその傷口付近を手で押さえる。
「堀込!」
「風間。俺よりもパリスが…」
堀込のその一言に振り返ると、パリスは倒れていた。
「おい、パリス!
パリーースっ!」
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