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皆は一人の為に、一人は皆の為に 「話はそれからだ…」と中年男は言った シーズン3 その56

 絆ランドとやらは所沢駅近くにあった。
 某鉄道会社の車両工場跡地に建てられたらしく、東京ドーム何個分かは知らぬが、結構な敷地面積を誇っているようだ。

 霊柩車を所沢駅周辺へ走らせていると、真新しく、それでいて高く白い壁と多くの街路樹が見えた。ここが絆ランドとやらか?
 地上三階ぐらいの真新しい建物と周辺には多くの木、建物の上にまで木を植えてある。
 緑溢れる、自然との調和を〜、みたいなのを売り文句にしているのだろうか。
 こんなものは夕方に椋鳥の大群がやってくるだけだろうよ。
 それよりもだ、霊柩車で白い壁の建物沿いを走っているのだが、どこがメインの出入り口なのかがわからない。
 それだけ広い敷地なのだ。

 しばらく敷地の周りを走らせていると人の列が見えた。
 その異様な光景に俺は思わず息を呑む。
 どいつもこいつも全裸靴下であったのだ。
 キズナ ユキトからの命令だからとは言え、そこまで従うその心が俺には理解出来ない。しかし、それは置いておくとして、わかりやすいから良しとしよう。

「そこか」

 と全裸靴下の人の列を辿ると、やっと絆ランドのメインの出入り口が見えた。
 何機も設置されたガラス張りの自動ドアと、その上には黒地にピンクの絆タウンのロゴマーク。
 悪趣味だ。
 俺は霊柩車の前方を出入り口に向けて停車させると、全裸靴下の集団から声が一斉に上がった。
 この車を見て驚いているのであろう。
 キズナ ユキト曰く、ここは商業と福祉施設があるらしい。
 高齢者の施設があると思われる場に霊柩車で乗り付けるという、罰当たり感この上無い。
 その感覚、俺は好きだ。
 森本に感謝している。猛烈に感謝している。

 俺は車内に設置されていた、マイクを手に取り、スイッチを押す。

「俺だ。シロタンこと、風間詩郎だ」

 この霊柩車には拡声器まで付いていた。

「お前ら全員、そのままゆっくり手を上げろ」

 と指示を出すと、全員が手を上げた。これは圧巻の光景だ。老若男女問わず、全員が全裸靴下…
 思わず笑ってしまう。半分、冗談というか、無理難題を吹っ掛けていたのだが、本気でやってくるとは恐れ入る。

「こいつら本気で全裸靴下かよ」

 思わず本音が口をついて出る。

 俺はマイクのスイッチを切らずにいた。
 奴らにはこれが聞こえていたようだ。全裸靴下集団から怒号があがる。

「何がおかしいのかーっ!
 皆は一人の為に!一人は皆の為に!を知らないのか!
 お前には人の血が通っていないのかー!」

 全裸靴下集団の真ん中に巨大な男がいた。そいつが拡声器を使って叫んでいたのだ
 それはいつかのゴマシオ銀縁、奴もご多分に漏れず全裸靴下であった。
 俺はマイクを掴み、

「そんなことはどうでもいい。キズナを出せ。キズナ ユキトを呼んでこい」

 とその時だ、霊柩車のフロントガラスに炸裂音がした。俺から見て右上辺りに蜘蛛の巣状のひびが入った。
 狙撃か!
 幸いなことにこの霊柩車は防弾ガラスにしてあるらしい。それのお陰で命拾いしたのだ。
 絆タウン正面、右上辺りのバルコニーに人影が見えた。
 その人影は何やら長くて黒い物を持っている。ライフルだ。
 こいつら、狙撃手を配置していたのか!再びどこからか、フロントガラスに着弾した。
 霊柩車を急発進でバックさせ、車のメーター類の横にある液晶パネルに触れると、表示されたものの中に擲弾の文字を見つけ、そこをタッチする。
 頭上で何か作動音が聞こえた。
 霊柩車後部、黄金色に輝く神輿の屋根の下から擲弾発射装置が出てきたのだ。
 俺はステアリングの内側に設置されたスイッチを押す。
 すると発砲音と共に擲弾が発射されバルコニーに炸裂した。
 一発じゃ物足りない。計三回、ステアリング内側のスイッチを押す。
 立て続けの発砲音と共に爆発音が聞こえ、バルコニーはあっという間に崩壊した。
 その威力でバルコニー下にいた奴らは下敷きとなる。
 場は騒然となり、全裸靴下集団の一部に銃器を取り出す者の姿が見えた。

「やっぱり、そう来るよな」

 今度は液晶パネルからガトリング銃を選ぶ。
 車のフロントグリルが開き、内部からガトリング銃の銃身が二門出てくる構造となっているらしい。その作動音が聞こえる。
 擲弾発射と同様に、ステアリング内側に設置されたスイッチを押す。
 すると運転席にまでガトリング銃の銃身の回転音が鳴り響き、とてつもない速さで銃弾が吐き出された。
 これには生身の人間では一溜りも無い。しかも奴らは全裸靴下だからな。
 俺はステアリングを操作し、絆タウンのメインエントランス付近へ、満遍なく銃撃する。
 あっという間にメインエントランスは、死屍累々の荒野と化した。

 しかし、突然の衝撃が走った。
 その突然の衝撃は俺の身体を右側のドアに叩きつけ、わけがわからなくなるほど揺らした。
 左側から自動車が激突していたのだ。

「この糞が!」

 俺はステアリングを左に切り、霊柩車のフロント部分を激突して来た車へ向け、ガトリング銃のスイッチを押す。
 すると今度は後ろからの激しい衝撃でステアリングのエアバッグが開き、視界が遮られる。

「畜生っ!」

 後部用の機関銃が設置されていたはずだが、液晶パネルを操作するにもエアバッグが邪魔だ!
 アクセルを踏み、ステアリングを左右に切りながらガトリング銃を連射する。
 すると、今度は何処からともなく幾つものモーター音が鳴り響いてきた。
 絆タウンの周囲から何台もの電動車椅子が疾走してきたのだ。その速度は速い。モーターを改造してあるのだろう。
 しかし乗っているのは丸腰の全裸靴下の高齢者たちだ。何て事はない。
 近付いてきた改造電動車椅子へ銃撃すると、それは予想外の爆発をした。

「えっ?」

 思わず声が出る。霊柩車車内が揺れる程の衝撃だ。
 まさかこいつら爆装しているのか!
 その爆煙の中から電動車椅子が姿を見せた。
 急発進でバックさせガトリング銃の餌食としたのだが、前方に気を取られているうちに衝撃が走る。右後方を突かれたようだ。

 意識が飛びそうなぐらいの衝撃と同時に、爆音による耳鳴りがする。
 電動車椅子が激突してきたのだ。
 霊柩車の運転席側のドアはなんとか持ち堪えたようだが、窓は割れてしまった。
 その衝撃か、ガラスの破片か何かが俺の額を切り裂き、視界が真紅に染まる。

「自爆式電動車椅子で特攻か。
 中々、鬼畜な事をさせるじゃねえか。面白い。
 こいつら、皆殺しだ」

 サイドブレーキ横に設置されたレバーを引くと、車体側面から巨大なチェーンソーが出てきて耳をつん裂くような回転音を響かせる。
 それを回避し切れなかった電動車椅子が大型チェーンソーの餌食となった。
 その断末魔のような音が鳴り響く中、萎んだエアバッグを力任せに引き抜くと、液晶パネルから車両後方用の装備を確認する。
 火炎放射があった。俺はそれを素早く作動させた。


 数えきれぬ程の激しい衝撃、爆発の後、周辺には破壊された車や、電動車椅子、瓦礫、屍が転がり、燃えた物の臭いなのか血の臭いなのか、周囲には異様な臭気が漂っている。

 敵を殲滅した。
 車外に出る為、ドアを開けようとするのだがドアは開かない。激突によって壊れて開かなくなったのだろう。
 ドアを何度も蹴飛ばす。それでも開かない。
 両足で勢いを付けて蹴飛ばすとドアは吹っ飛んだ。
 やっとの思いで霊柩車から降り、振り返ると霊柩車後部の神輿の部分は分離し、数メートル先に半ば潰れて転がっていた。
 
 キズナの野郎はどこだ。
 屍が無数に転がる絆タウン、メインエントランスに向けて歩き始めたその刹那、風を切る音がした直後に頭頂部へ衝撃と激しい痛みが走る。
 思わず振り返ると、そこにはいつかのゴマシオ銀縁がいた。

「風間っ!お前だけは」

 ゴマシオ銀縁は自動小銃の銃身を両手で持ち振りかぶると、それを振り下ろす。咄嗟に俺は頭を両腕で庇う。
 一回、二回と前腕部に衝撃と激しい痛みが走る。
 三回目の衝撃に備えた時、ゴマシオ銀縁は持っていた自動小銃を不意に投げ捨て、その大きな両手で俺の首を掴んでゆっくりと持ち上げる。
 その両方の親指は俺の喉笛に食い込み、俺は完全に首から吊り上げられてしまった。

「俺のこの手で地獄へ落としてやる」

 苦しいっ、息が出来ない…、
 こんな時こそ、冷静になれ!冷静になるのだっ!
 
 そうだ。俺にはまだ銃がある。
 背中側に装着していたホルスターから拳銃を抜き、ゴマシオ銀縁の脇腹辺りに銃口を当て、撃鉄を起こす。
 その音に眼下のゴマシオ銀縁は何かを感じたのか、喉笛に食い込む指から一瞬、力が抜けた。
 俺は引金を引く。
 ゴマシオ銀縁は呻き声を上げ、俺の喉笛から手を離すと、俺はその勢いで尻から地面へ叩き付けられた。

 臀部の激痛に俺は思わず呻き声を漏らす。
 その最中、ふと正面を見ると、俺の視線の高さにゴマシオ銀縁の男性生殖器が目の前にあった。

「この下衆野郎が」

 俺は容赦なく男性生殖器に向けて拳銃の引き金を引く。
 銃声と共に俺は返り血を浴びた。
 一瞬にして俺は後悔する。一番浴びたくない部位の返り血を浴びてしまったのだ。

 ゴマシオ銀縁は悲鳴をあげつつ、股間を押さえて屈む。
 俺は返り血と臀部の痛みに耐えながら立ち上がると、拳銃の銃口を奴の額に当てた。

「こだわりが命取りとなったな」

 ゴマシオ銀縁が何かを言おうとした刹那、俺は容赦なく引き金を弾く。


 形容のし難い臭気が漂う中、人の声が聞こえてきた。
 何と言っているのかわからないが、何か呼び掛けているような雰囲気だ。

「た…、か……、を」

 何と言っているのか。

「戦いを…」

 その声がどこからか聞こえてくる。

「戦いをやめて…」

 その声が近付いてくる。

「戦いをやめてくださ〜い」

 その声がはっきりと聞こえた。

 キズナだ。
 キズナ ユキトがエントランスに姿を見せた。

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