川口康平・澤田真行(2024) 『因果推論の計量経済学』日本評論社, 書評(レビュー企画用献本御礼)


はじめに

日本評論社様より、
「川口康平・澤田真行(2024)『因果推論の計量経済学』,日本評論社」
をレビュー企画としてご献本頂きました。本記事では、『因果推論の計量経済学』(恐竜本)を使って勉強した経済学部生が、学部生として感じた事・特に勉強になったことを書きます。 
恐竜本がどんなコンセプトで書かれていて、既存の教科書とどこが異なるのか、を把握するには、日本評論社のホームページで公開されている本書の「はしがき」および「序章」(https://www.nippyo.co.jp/shop/img/content_pdf/09359.pdf)を一読することがおすすめです。

なお、全ての章を勉強することはできておらず、8章(回帰非連続デザインの実践)までの本文の式変形を追うこと、およびRによる実践(https://github.com/keisemi/EconometriciansGuide_CausalInference)を確認しました。

最初に感じたこと

今まで初等的な計量経済学の教科書で勉強した、潜在結果モデルや「パラメータの識別」「処置割り当てメカニズム」などの概念を数学(集合、関数(写像)など)を厳密に使うことでクリアに定式化し、説明されていたことが印象的でした。数学を使って論理的に説明されていることで、正確な理解を得られます。

その分、初学者や数学の概念に慣れていない人が本書を読んでも、ふわっとした理解で終わる(少なくとも自分はそのはず)だろうなと思いましたが、これは、本書の対象読者層が学部上級から大学院レベルの学生であることから当然なので、まず別の教科書を読んで慣れるのがいいと思います。

式展開を追うにあたって

本書の本文中における式展開を追うにあたり、条件付き期待値の概念に慣れておく必要がありそうと思いましたが、逆にそれ以外はシンプルなものが多く、非常にわかりやすかったです。
条件付き期待値の概念は慣れればすぐですが、知らないと全くわからないものだと思うので、

- 末石直也(2015)『計量経済学:ミクロデータ分析へのいざない』日本評論社. 
- Angrist, Joshua D., and Jörn-Steffen Pischke. Mostly harmless econometrics: An empiricist's companion. Princeton university press, 2009.

などを使って勉強すると、計量経済学の文脈での条件付き期待値という概念に慣れることができると思います(自分がそうでした)。
また、本文中では推定量の漸近分布がパッと出てきます。これは、OLS推定量の漸近分布を導出したことがあれば見慣れた形がほとんどで、導出の仕方もOLS推定量と同じなので、これについてもOLS推定量の漸近分布を導出している教科書を参照するのがいいと思います(個人的には末石 (2015)がすごく役に立ちました)。

特に役に立った

  • 文献ガイド

文献ガイドでは、最新の論文がプロ研究者である著者により案内されています。出たての論文の良し悪しは学部生に判断することは難しいし、中身を判断するにはそもそも読まないといけない、時間ない。。みたいな状況の人にとってもすごくありがたい情報だと感じました。

  • 理論の実践としてのRパッケージの内容・使い方およびRコードの書き方

Rでは、簡単に統計分析ができるようにライブラリが整備されています(例えば、estimatr::lm_robustを使えば簡単に誤差項の不均一分散に頑健なOLS推定を行うことができます)。恐竜本では、RDDの理論を説明したあと、今説明したことをやるにはこのパッケージでこうします〜と理論と実践がとても綺麗に接続されていて、こうしたことはありがたいなあと思いました。ある計量分析を勉強したとして、それを実際に使うときにRで適当なパッケージの実装がどうなっているか、までを確実に確かめる作業はとてもdemandingであって、この部分においてプロ研究者による実践的な解説の価値を特に感じました。

また、R codeがGithubで公開されています。コードの書き方で勉強になるのは、ミスを減らすための書き方です。例えば、以下は データを生成する関数です:

https://github.com/keisemi/EconometriciansGuide_CausalInference/blob/main/R/functions_randomization.R よりスクショ

特徴的なのが、関数の引数やmutateで変数を作る際に、1つ1つ改行を入れている点だと思います。僕自身は横に長く書いてしまうことがあるのですが、確かにこうして書くことでミスが減らせることはもちろん、例えば、他人が論文の結果を再現しようと試みる際に、コードを確認するときの視覚的な負担が減るのかなと思いました。Rコードの書き方という点でも勉強になりました。今後、実証分析のためのコードを書くときの参考にします。

最後に

日本語としてもすごく洗練されている印象を受けました。数式による説明はもちろんですが、日本語として論理的に説明されている部分も多くあり、プロ研究者の凄さをここでも感じました。理解が十分でない部分もまだあるので、都度読み返して勉強させていただきたいと思います(本書はこうした方がもっと良くなるのではないか、という鋭い指摘ができず申し訳ないです。。)


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