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MOROHA

2024年12月21日 恵比寿ガーデンホールで
MOROHAの単独ツアーが開催された。

1ヶ月くらい前にアフロからLINEで
ライブのお誘いが届いた。

直接会っていたら、子供のような笑顔で
「ジュンさん、観に来てよ!」
って言うんだろうけど、
LINEやメールでのお誘いは
親しい間柄の人だけでなく、
お世話になった沢山の人たちに送るから
物凄く丁寧な言い回しだった。

「現時点での我々の集大成となるライブです」

「もし予定と気持ちが噛み合いましたら
是非、招待させて下さい」

アフロらしい言葉のなかに、
「観て欲しい」という思いが溢れていた。

しかし、ライブの当日(12月21日)は
ここ数年欠かさず通っている
ROTTENGRAFFTY主催の「響都超特急」を
観るために京都へ行く予定だった。

それ以外にも、スキマスイッチの武道館、
新しい学校のリーダーズの代々木体育館、
名古屋で開催されている冬のロックの祭典
「MERRY ROCK PARADE」と、
観たいライブやイベントが重なっていた。

そしてアフロに出欠の返事を返せないまま
MOROHAのライブまで2週間を切った頃、
たまたま立ち寄ったヴィレッジヴァンガードで
「ジュンさん!」と声をかけられた。

相手の顔をみたらMOROHAのUKだった。

「今度、恵比寿でライブやるんですよ!」
「あ、アフロからも誘われてるよ!
この日、色々と重なってて…」
「物凄く気合い入ったライブやります!」
「ありがとう!調整してみる」

「観に来て下さい!」とは言わないけれど
「絶対観て欲しい」という思いが伝わってきた。

この偶然に縁を感じ、この瞬間に
MOROHAのライブを観に行くことを決めた。
(響都超特急は2日開催だったので翌日行った)

「返事が遅くなって申し訳ない。
ライブ観に行かせてください」

翌日、アフロにLINEの返信を送ったら、
すぐに「承知しました」と返ってきた。

MOROHAとの付き合いは
そこまで深くないけれど、
そこそこ長い付き合いになってきた。



2010年頃に曽我部恵一さんのレーベル
ROES RECORDSからリリースしていたので
MOROHAの存在は知っていたけれど
ライブは観たことはなく
2012年の「YATSUI FES」で初めて観た。

大袈裟でなく、こんなアーティストがいたのか!
というくらい衝撃を受けたライブだった。

ただ、その頃は音楽番組も担当してなく
ライブハウスにもほぼ通ってなかったので
毎年「YATSUI FES」で観るくらいだった。

2016〜17年くらいになると
MOROHAのライブを年に3〜4回くらい
観に行くくらい好きになっていて…
2018年には初めて立ち上げたイベント
「LOVE MUSIC FES」と「JUNE ROCK FES」
に出てもらった。

もちろん「Love music」のスタジオライブにも
3回出演してもらった。

2018年「革命」
2019年「拝啓、MCアフロ様」
2020年「スコールアンドレスポンス」

どの出演も凝った演出で覚えているけれど
特に2020年の出演は印象深かった。

2020年3月、世の中に新型コロナウイルスが
出回り始め、世界中が混乱していた。

ただ会社にも周囲の知人にも感染者はいなく
いつまで続くのか、どれだけ影響が及ぶのか
正直よくわからない時期だったが、
「緊急事態宣言」という状況下で
学校は休校になり、生活の維持に必要な
「不要不急」以外の外出は自粛となった。

僕らはこれまで毎週、当たり前のように
バラエティ番組や音楽番組を通じて
笑いや感動、興奮を伝えてきたが、
テレビのバラエティ番組も「不要不急」とされ
緊急事態宣言以降、番組収録や生放送が
しばらくできなくなりそうだった。

テレビの収録だけでなく、スポーツ、映画、
ライブ、舞台も「不要不急」となり、
エンタメが一気にストップした。

いつ元の生活が戻るのか、わからないまま
多くの人が家で不安を抱えているなか、
アーティストや芸人、多くの著名人が
自宅から「配信ライブ」というメディアで
少しでもエンタメを発信し続けた。

その頃は、まだ「三密」を避けるという
ふわっとした基準のなかで行動していたため
テレビの収録や生放送は「禁止」ではなく
「自粛」だったが、緊急事態宣言のなか
「万が一、誰か感染者が出たら…」と考えると
誰もが自粛することを選んでいた。

そんななか、テレビでもネット配信に負けない
アクションを起こしたい、という思いから
当時担当していた「Love music」という
音楽番組で(安全を最大限配慮した上で)、
アーティストがLIVEで伝えたい思いを届ける
緊急生放送を3月29日の深夜に決行した。

司会はダイノジ大谷さんと、やついいちろうくん。
出演者は、宮本浩次さん、田島貴男さん、
森高千里さん、眉村ちあきさん、
こぶしファクトリー、Creepy Nuts、
そしてMOROHAだった。

生放送の数日前、MOROHAの所属する
レコード会社から「本人たちがコロナ禍で
急遽作った「COVID-19」という曲を生放送で
披露したいと言っているのですが、結構歌詞が
刺激的なので大丈夫でしょうか?」
と、いうようなメッセージとともに
新曲の音源が送られてきた。

エンタメ業界やミュージシャンに
大きな変革が起き始めた状況や、
彼らの葛藤、実状が生々しく表現された曲で
音源を聴き終わった時、オレはハンカチで
押さえないと、溢れる涙が止まらなかった。

MOROHAの曲は「歌とギター」だけという
シンプルな構成だけど、シンプルが故に、
力強さと表現力がダイレクトに伝わってくる。

これがテレビの生放送で流れたら…
物凄くワクワクしたのも束の間、
メッセージ性の強いこの曲を流すのは
危険ではないか?と危惧する意見もあった。

出口の見えない「コロナ」という巨大な敵に
脅かされている国民に対し、不安を煽るような
刺激的な楽曲を放送するのは危険だ、という
判断のもと、歌唱曲を同日リリースの
「スコール&レスポンス」に変えてもらった。

(実際「スコール&レスポンス」は
所属メジャーレーベルからリリースし、
「COVID-19」はメジャーレーベルからではなく
自主レーベルから販売された)

そんなこともありながら生放送は、
エンタメがなくなった灰色の毎日に
明るい光を照らすかのように
アーティストたちは時には熱く、
時には華やかなステージを披露してくれ、
コロナという見えない敵と闘うすべての人に
力強い言葉と、素敵な音楽を届けてくれた。

アーティストの強い思いが詰まった
素晴らしい放送になったと自負している。
(緊急事態宣言でリモートワークをしている間、
何度も自宅でリピートして観ていた)

ただ、MOROHAに「COVID-19」を
歌わせてあげられなかったことは
ずっと後悔して、心に引っかかっていた。

「MOROHAの良さをもっと伝えないと…
音楽番組プロデューサー失格だよな」
と、SNSで独り言のように呟いたら
「全然、失格じゃないですよ」
と、アフロからメールが届いた。

あの時の生放送と、アフロからもらった
メールをオレは一生忘れられない。



そんなMOROHAとの出会いからの出来事を
思い出しながら迎えたライブ当日。

ガーデンホールの関係者受付で名前を伝えると
スタッフの方が「ちょっとお待ちください」と
紙の束を手に取って、そのなかから1枚を
ピックアップして「こちらもどうぞ」
と、アフロの直筆メッセージが書かれた
メモのような紙を渡された。

「えこひいきしてね!」
いかにもアフロらしいメッセージだ笑

照れ隠しのように、ちょっとふざけた
いつものアフロらしい言葉に
しっかりと「想い」は伝わってきた。

そういえばアフロの送ってきた
ライブのお誘いLINEには
こんな言葉が添えられていた。

「一人一人にそれぞれの想いはあるのですが、
それを綴り始めると数年かかってしまう手前、
定型分での送信となってしまい申し訳ありません」

招待する一人ずつに想いを伝えられない、
と言いながら、「行く」と返事をしたゲストには
一人ずつに感謝を込めたメッセージカードを
用意したのだ。

そんな粋な計らいに驚きつつも、ライブが
始まると、そんなことは忘れてしまった。
MOROHAのライブに、サプライズ演出も
ギミックも一切必要ない。緩いMCを含めて
いつも通りのMOROHAらしいライブだ。

かつて番組で収録をした曲も、ライブで何度も
観た大好きな曲も沢山披露された。
確かに集大成のようなライブだったけれど、
MOROHAのライブは毎回集大成のようだし
よく考えたら毎回が特別なライブでしかない。

いよいよ終盤に差し掛かってきたところで
アフロが「最後の曲」と触れてから
「やめるなら今だ」という曲が始まった。

自分のアーティストとして置かれている
今の立ち位置や、私生活の現状や信念を
吐露しているかのような歌詞に
グッと引き込まれてしまう。

これまでもそんな過去のエピソードや
周囲に対する思い、心の声を吐露した曲を
何度も聴いていたが、どこまでがリアルで、
どこまでがフェイクなの毎回わからない。

最後の曲が終わり、鳴り止まない拍手のなか
いつもだと曲が終わると、BGMが大音量で流れ
ライブ中、胡座をかいて演奏していたUKが
ギターを置いて、立ち上がり、ステージを去る光景を何度も見てきた。

しかし、この日はBGMが流れることなく
UKが胡座をかいたまま立ち上がらない。

そしてマイクを握り、話し始める。
この10年以上の間に、何度も何度も
MOROHAのライブを観てきたけれど
こんなことは初めてだった。

何かざわつく嫌な予感がした。

そしてUKの口から「活動休止」の言葉が
飛び出したことにより、嫌な予感は現実として
受け入れるしかなかった。

「やめるなら今だ」という曲のなかで、
何度も強く自分自身に「やめるなら今だ」
と、言い聞かせるように歌い、
最後の最後に「やめるなよ まだ」と
自分自身に強く鼓舞している歌詞を聴いて、
アフロは辞めることを何度も考えながらも、
まだMOROHAを続けることを決意した曲
なんだと勝手に思っていた。

数日前、たまたまUKに会っていなければ、
この最期になるかもしれないMOROHAの
ライブを見逃すところだった。

「この日のライブは特別だから観に行く」
ではなく、どんなライブだって、
アーティストにとっても、お客さんにとっても
毎回、特別なステージになはず。

コロナが落ち着いてきた時、強く感じたのが
毎日ライブハウスや、ホールでライブが
開催されていること自体が奇跡のようなことだ。

しかし、毎日のようにライブが開催されると
その気持ちもまた薄れてきていた…

ライブを観られること自体に改めて感謝しつつ
これからも沢山のライブを観て、沢山の刺激を
受けながら、人の心に残るようなイベントを
沢山作っていきたい、と改めて強く思った。

アフロ、UK、最高の時間をありがとう。
これからもよろしくね!