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30年目の「SHAKE THE FAKE TOUR 1994」

【長年の勘違い】

今から30年前、1994年9月26日に氷室京介5thアルバム「SHAKE THE FAKE」が発売された。
同年10月12日からは、同アルバムを受けたツアー「SHAKE THE FAKE TOUR 1994」も始まった。このツアーはその年のクリスマスまで続き、ラストの東京ドーム2daysでは、「ファンへのクリスマス・プレゼント」として、BOOWYの楽曲3曲が贈られている。
そうしてこのツアーを最後に、氷室氏はBOOWY時代からお世話になっていたレコード会社東芝EMIから移籍した。

そういう意味では、氷室京介というミュージシャンにとって「SHAKE THE FAKE TOUR 1994」は、ある種エポックメーキング的な位置づけにあるツアーといえるかもしれない。
だが、私はこのツアーのライブビデオをそこまで見倒してはいない。多分、氷室氏のソロライブビデオ中、2番目に少ない視聴回数だと思う。
なぜそんなに見ていないかというと、単純に、ライブビデオの構成が好みではないから。それに尽きる。

このライブビデオをお持ちの方は御存知だろうが、曲が始まる前に、いちいち曲のタイトルの画(アニメーション)が挿入される。ついでに途中で氷室氏のプロモ映像的な映像が唐突に挿入される曲もあったりして。その演出が私は苦手でして。
私としては、同一ライブであるなら映像は勢いのまま一気に視聴したいのですよ…。いちいちタイトル画を挿入されると、1曲ごとに気持ちがリセットされて現実に引き戻されるというか、せっかくの勢いが削がれてしまうというか。
それにライブとは全然関係ない氷室氏の映像も、入れるなら曲途中ではなく、特典映像としてライブ映像とは別に入れてほしかった。氷室氏の映像自体は嬉しいのだけれども、突然挿入されると、ライブへの没入感が薄れてしまうので。

そんなわけで、それほどじっくり見たとは言い難いライブビデオだけれども、「Q.E.D」で使われていた映像を久々に見たらギラギラ感がとても新鮮で。いくらライブビデオの構成が`個人的な好みから外れているからといって、なんとなく避けていたのはもったいなかったかな~とちょっと後悔。
そんなわけで、2024年はアルバム発売&ツアーから丁度30年の節目の年でもあることから、アルバム発売日の9月26日に今一度気持ちを新たに真剣に視聴してみよう!と決意した。……ものの、何かと忙しくて延期と相成った。そこで、日を改めて、ツアーが始まったのと同じ10月中旬に視聴してみたのだが……。今更ながらに自分のとんでもない勘違いに気づいた。

このツアーのライブビデオ「LIVE AT THE TOKYO DOME SHAKE THE FAKE TOUR」は、ツアー最後の東京ドーム公演を映像化したもの。それは当然知っていた。タイトルにも「LIVE AT THE TOKYO DOME」とあるし、映像を見れば会場が東京ドームなのは一目瞭然。
では何を勘違いしていたかというと、収録日。てっきり12月24日だけの映像かと思っていた。
だって氷室京介やBOOWYと言われれば12月24日でしょ!(すごい偏見)
「あの日から7年目のクリスマス」なんていう謳い文句がついていたら、解散宣言の「1224」から7年目の1994年12月24日を連想するじゃない!!(責任転嫁甚だしい)
……まぁ、12月24日はクリスマス・イブであって、クリスマスは12月25日ではありますがね。
商品説明にも「1994.12.24,25 東京ドームのライブを収録」と書いてあったのに。げに恐ろしきは思い込み。BOOWYの噂を調べる中で、人の思い込みや勘違いで事実が捻じ曲げられていく過程を散々目の当たりにしていたのに、自分もやらかすとは……本当に恥ずかしい。
実は、東京ドーム2日間の混合映像でした、と。
1曲ごとにタイトル画が挿入されるせいで、そちらに意識が持っていかれて、映像の違和感に気づいていませんでしたとさ。
そういう意味ではライブの流れをぶった切るあのタイトル画も、つなぎの不自然さから目をそらせるいい仕事をしていたと言えるかもしれない。(それでも私は無いほうがいいけど。)

で、なんで今更ながら気付いたのかというと、「WILD AT NIGHT」冒頭でギターをかき鳴らす友森氏を見て。
「あれ、今、一瞬で衣装が変わった?変わったよね?!」と、思わず映像を一時停止。もう一度再生して確認したところ、冒頭のほんの一瞬だけ黒い衣装の友森氏の映像が挿入されていた(何故!!)。

こちらのライブビデオは、まず「KISS ME」で氷室氏も友森氏も衣装が変わっている。(西山氏はジャケットを脱いだだけ?)
とはいえ、ライブ途中での衣装チェンジは普通にあることなので、それほど違和感を持たずにそれまで視聴してきていた。だがしかし、よく考えたら、メインの氷室氏はともかくとして、サポートメンバーはアンコールでもない限り、大幅な衣装チェンジはしませんよね……?なのに友森氏は「KISS ME」で当初の黒い衣装から白い衣装へと大胆チェンジ。で、「WILD AT NIGHT」で一瞬だけ最初着用の黒い衣装に戻り、次の瞬間、白い衣装へと再び変わるという。
曲冒頭のタイトル画で一旦気持ちがリセットされてしまって不思議に思っていなかったけれど、明らかに変。

それに氷室氏も、よくよく見ると「KISS ME」から、ジャケットのみならず、ストライプの黒いボンテージパンツから黒の革パンに変わっている。
ライブ途中の衣装チェンジは通常曲間の非常に短い時間内に行われるので、変わるのは大抵上着のみ。だけど、下も変わっている。しかも体にぴったりの、汗をかいてようものなら大変履きにくい革パンに。さらに履くのに非常に時間のかかりそうなブーツ(?)になっている。
うん。どこからどう見ても混合映像ですね。
”音”であればブラインドテストをしてもいつのライブ音源か大体聞き分けられるのに、衣装はそこまで関心を持って見ていなかったのだなぁと反省しきり。

では、どれが12月24日の映像で、どれが12月25日の映像なのか。
私が思うに、1曲目の「LOST IN THE DARKNESS」から9曲目の「 BLOW」までが12月24日、10曲目の「KISS ME」から14曲目の「ANGEL」までが12月25日、15曲目の「ALISON」からラスト17曲目の「SHAKE THE FAKE」までが再び12月24日ではないかと。
そう考える根拠は氷室氏の衣装。
1曲目から9曲目までは、クロムハーツの革ジャンとボンテージパンツ。
10曲目から14曲目までは、1224及び「OVER SOUL MATRIX」など他のソロツアーで何度か着用したジャケットと革パン。
15曲目からは、チェックのロングジャケットと9曲目までと同じボンテージパンツ。
上着だけ変えることが多いライブ衣装の特性からいって、9曲目までと15曲目以降は同じライブの日の映像と推定。

で、何故、1曲目から9曲目と15曲目以降が24日で、10曲目から14曲目までが25日だと考えるかというと、1曲目から9曲目で氷室氏が着用しているのが、クロムハーツの革ジャンだから。

【切断されたジャケット】

氷室氏のクロムハーツ好きは有名だ。日本でクロムハーツの名が広く知られる前から愛用し、後にはクロムハーツとコラボしたツアーグッズを出すくらい、関係も深い。ライブや撮影用衣装としてクロムハーツを採用するのもしばしば。
そんな氷室氏とクロムハーツのエピソードでファンにも大変よく知られているのが、クロムハーツのジャケットの袖切断事件。
ライブ中に着用していたクロムハーツのジャケットを脱ごうとしたが、袖が引っかかって脱げなくて、やむを得ず袖をハサミで切断して脱いだというもの。
そんな”事件”が起きたのが、この「SHAKE THE FAKE TOUR 1994」においてであった。

- さっきクロムハーツのリチャードのことをおっしゃってましたが。今回、アルバムジャケットの内側のスリーブでもクロムハーツのアクセサリーをつけてらっしゃって。そもそも、氷室さんがクロムハーツの存在を知ったのは?
「7年くらい前の誕生日に、レコード会社のオシャレにうるさい人がクロムハーツの革ジャンを。すげぇ高いヤツなんだけどプレゼントしてくれたんですよ。それが最初。で、(ロスの)マックスフィールドにしか置いてないっていうんで、そこに行ってアクセサリーから何から、そこに置いてあるものほとんどを買っちゃうぐらいファンになって。やっぱ、インパクトがあるんだよね。デザインは究極のところをいってると思う。カッコいいもん。最近、日本でもロック系のミュージシャンでクロムハーツつけてる奴、増えてるよね。だから、帰ったらリチャードに伝えてやろうと思って」
- 日本のミュージシャンで、クロムハーツを身につけたのは氷室さんが最初なのでは?
「俺は、俺より先につけてた奴は知らないですね。その、さっきいってた革ジャンもいわくがあってさ。”SHAKE THE FAKE”ツアーの時に使ってて、ある曲の時、それを脱がなきゃいけなかったのにブレスレッドにひっかかって脱げなくて、スタッフに”脱がしてくれ”っていったんですよ。そしたら、はさみでソデを切られちゃってさ。リチャードのところに持ってって、直してもらったけど”クロムハーツのジャンパー切ったのはオマエが初めてだ”って彼にいわれたよ(笑)」(※1)

氷室京介(以下氷室) もう、ずいぶん前のツアーの時に、クロムハーツのレザージャケットを着てステージに上がったんだ。で、ライブ中盤になって脱ごうとしたんだけど、アクセサリーが引っかかって脱げなくて。時間もなかったから、ハサミで腕のところをバッサリ切っちゃったんだよね。
リチャード・スターク(以下リチャード) それを見せてもらった時は驚いたよ。でも、嬉しくなったんだ。だって、オレの服をハサミで切っちまうヤツなんて京介が初めてだったからね(笑)。それで敬意を表して、その腕の部分に新しい革をあてて、作り直してプレゼントしたんだよ。(※2)

袖をリペアされた革ジャンを拝見したことがあるが、ライブビデオで最初着用されていたものと同じものであった。

ビデオに記録されている革ジャンの袖は切断前のもの。
従って、クロムハーツのジャケット袖切断事件が起きたのは、「SHAKE THE FAKE TOUR 1994」のファイルを飾る東京ドーム2公演うちのいずれかということになる。

【”事件”が起きた日】

どちらがその”事件”が起きた日なのか。
それを判断するヒントは、当時の音楽雑誌の記事の中にある。

12月24、25日、東京ドームで行われたツアーファイナルの模様は、当時、多くの音楽雑誌でこぞって特集が組まれ、描写されていた。
初日の横浜アリーナから氷室氏を追い続けてきた「R&R NEWSMAKER」も、東條祥恵氏と田家秀樹氏の2人のライターを起用し、6ページにわたって詳細なリポートを掲載していた。
そのうち東條氏が、ステージ上で起きた”アクシデント”を書き記していたのだ。

氷室京介・クリスマス・東京ドーム
94年12月24日、ついに、その日がやってきてしまった。
(中略)
曲が「WILD AT NIGHT」に変わってからだ。氷室は着ている皮ジャンを脱ごうとしたのだが、右手がどうしても抜けない。その状態のまま「TASTE OF MONEY」が始まり、間奏に入ったじてんで、やっと右手が皮ジャンから解放されるというエピソードもあった。そのあと、フッきれたように氷室は自らコブシを振り上げていた。(※3)

12月24日、25日の東京ドームのツアーファイナルのレポートとされてはいるものの、リポートの文脈的に、東條氏がご覧になったライブは12月24日の方であると思われる。
「着ている皮ジャンを脱ごうとしたのだが、右手がどうしても抜けない」
その描写は、後に氷室氏が「クロムハーツのジャケット袖切断事件」を語ったときの様子と一致する。「新しい革をあてて作り直された袖」も「ひっかかった袖」も同じ右だ。

ならば24日の「WILD AT NIGHT」の途中で件のクロムハーツのジャケットの右袖がアクセサリーに引っかかり、どうにも脱げないから、「TASTE OF MONEY」の曲途中でやむなく袖を切断したということではなかろうか。

そう考えると、ジャケットが引っかかってしまっている「WILD AT NIGHT」と「TASTE OF MONEY」で、意味不明のプロモ映像(?)が挿入されている意味もいろいろと妄想してしまう。「引っかかった日」は使えないとしても、別のジャケットを着用していた日にも何かトラブルが生じていたのかな?とか。DVDに封入されていたペーパーに「13曲目の「TASTE OF MONEY」の曲中にノイズが聴こえる箇所がありますが、これは当日のライヴ収録の際に生じたものです。あらかじめご了承下さい」という「おことわり」もあったことだし。もしかして使えるライブ映像が少なかったのかも?とか。
まあ、私自身はその日のライブを実際に観たわけではないので、ただの邪推だ!と言われればそれまでだけど。

切断したジャケットを修理にだした、という話を耳にした時、ステージ衣装を、それもツアーファイナルで切断したものを、どうしてわざわざ修理に出したのだろう?と疑問に思っていた。クロムハーツ製だなんて、お直し代だって大層お高いのでは?ツアーも終わってるのだから、別にそのままでもいいじゃない?と。
でもこれ、氷室氏の私物だったんですね。しかも他人様からいただいた誕生日プレゼント。私物なのにステージで着用するなんて、随分と気に入っていたのだろうし、それなら修繕しようとするのも納得。
”1224”のジャケットは以前のソロツアーでも、このツアーでも何度か着用されていたので、こちらも”お気に入り”だったのだろう。

ところで、切断されてしまったジャケットは「レコード会社のオシャレにうるさい人」からもらったとのことだが、一体誰からのプレゼントだったのだろう?子安氏とかからなら名前を出しそうだから、別の人かな?超お高いクロムハーツのジャケットをプレゼントするとは、なんて剛毅な。音楽業界が勢いづいていた、華やかなりし頃ならではのエピソードですね。
今とは隔世の感があります。

【出典・参考資料】

※1 POP BEAT  1998年2月号 P139-140
※2 relax 1998年7月号 P72
※3 R&R NEWSMAKER 1995年3月号 P32-33


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