BOOWYにまつわる噂のエトセトラ Vol.2 ~ LAST GIGS のチケット発売で都内の電話回線がパンク!? ~

Vol.2 ~ LAST GIGS のチケット発売で都内の電話回線がパンク!? ~

これも有名な『噂』
噂というか、BOOWYの人気が社会現象だったと語られる時に根拠として挙げられる話の一つ。
そう言われましてもピンとこないというのが初めてその話を聞いた時の私の感想。
だって人気公演の一般発売日の受付開始直後にプレイガイドに電話したら、(最近はネットの先行抽選予約がほとんどで電話をかけることはあまりなくなったけれど)「ただいま電話が大変混み合っております。暫く待ってからお掛け直しください」とお決まりの録音が流れるじゃないの。電話回線パンクなんて別に珍しいことではないのでは?と。
しかし、どうやら私の思っていた電話回線パンクとこの噂で言っている電話回線パンクは違うらしい。

この噂で言っている『電話回線パンク』

①BOOWYのLAST GIGSのチケット発売に多数の予約申し込み電話が殺到した。
②その結果、都内で通常の電話さえもかかりにくい状態が生じた。

…どうゆうこと?
①はわかる。②がわからない。
当時はネットの先行発売などなかったから、チケットを手に入れるとしたら、店頭か電話の2択のみ。特定の電話番号に電話が殺到すれば当然その番号には繋がりにくくなる。
だけどそれがどうして他の番号に掛けた電話まで掛かりにくくなるのか、その仕組みがよくわからない。
そもそもどのくらい電話が殺到すれば回線がパンクするのだろう?
なので調べてみた。

【当該事実の検証】

実際に都内の電話回線がパンクしたという事象が生じたのであれば、当然新聞には(少なくとも東京版には)掲載されるよね?ということで、まずは当時の新聞を探してみた。
LAST GIGS のチケット発売日は、1988年3月5日(土)。
となれば、掲載されるとしたら3月5日の夕刊3月6日の朝刊
調べたのは朝日、毎日、読売の3紙。いわゆる3大紙ですな。(過去の記事のデータベースを公開してくれているので調べやすい、ともいう)
3月5日の夕刊には、朝日(※1)、毎日(※2)、読売(※3)のいずれも掲載があり、3月6日の朝刊にも朝日(※4)、読売(※5)は電話回線パンクが復旧したことを掲載していた。
ついでに当時の週刊誌も調べてみたところ、週刊新潮(※6)、週刊明星(※7)、FRIDAY(※8)も同様にチケット発売に関わる混乱ぶりを記事にしていた。
これらの記事をまとめると、当時の状況は以下の通り。

○ BOOWYのLAST GIGSのチケットは、2公演約10万枚が1988年3月5日午前10時から一斉発売開始。
○ 店頭発売は主催の読売新聞社と東京ドームの2カ所のみ。
電話予約受付は、チケットセゾン、チケットぴあなど、都内4カ所のプレイガイド。
○ 受付開始後の午前10時頃からプレイガイドのある新宿・池袋・神田・九段に入電が殺到
○ そのため、新宿・池袋・九段電報電話局(加入合計11万8千回線)で交換機能がパンク
○ NTTが発信の半分をカットする50%規制を発動し、都内全域で電話がかかりにくくなる。
○ その後、埼玉、千葉などの一部地域から東京へかける電話も一時かかりにくくなった。
○ 当日はチケット発売に加えて、公立高校の合格発表が重なり、通話量が激増
○ 池袋電報電話局には抗議の人40~50人が集まる騒ぎに。
○ NTTは都内の電報電話局124局を通じて「ただいま回線が込み合っています」というメッセージを流す。
○ さらに混乱防止のため、NTTがNHKに要請して回線パンクを昼のニュースで流してもらう。
○ プレイガイドのチケットはそれぞれ1~3時間ほどで完売
○ 電話攻勢が収まった午後2時頃にNTTが規制を解除し、全面復旧
○ 同様の電話パンク騒ぎは過去にアイドル歌手・アニメ声優の「声サービス」の際にも起きているが、都心の広範囲に影響が及ぶことは珍しい
(なお、同年6月のサザンオールスターズのコンサート受付でも都内を中心に電話がかかりにくくなったとのこと。(※9))

記事によって微妙な違いはあるが、概ねこんな感じ。
…なんというか、うん。すごいね。
電話回線パンクにまつわる騒動もすごいが、店頭発売の方もすさまじい。
東京ドームの行列の1番乗りは1週間前で、読売新聞社前は半月前。前日夜から徹夜組が集まり始めて警察が出動する騒ぎに。
ピーク時1500人(富坂署調べ(朝日新聞)。週刊明星の記事では3000人)が集まり、東京ドームでは発売時間を繰り上げて午前8時から発売したそう。
公立高校の合格発表日という偶然もあったし、決してBOOWYのチケット発売の時だけに発生した現象ではなかったけれども、こんな騒動があれば世間が『BOOWYに気付く』

今回の記事を色々探していて気付いたのだけれども、1224の解散宣言の時は実はそれほどマスコミは騒いでいない。
一般紙(朝日・毎日・読売)で翌日の新聞にBOOWYの解散記事を掲載したところはない。(例の解散広告は除く)
スポーツ紙こそ芸能面に掲載していたけれど扱いはとても小さい。紅白歌合戦の曲順決定記事の方が10倍くらい大きい。

で、ここでふと思ったこと
1224のBOOWYにまつわる噂の中に、"解散の噂を聞きつけたファンが押し寄せて渋谷公会堂の正面玄関のガラス扉が割れた"と"解散宣言はNHKのニュース速報で流れた"というものがある。
渋谷公会堂にファンが押し寄せてガラス扉が割れたというのは、1224のDVDの最後に収録されているので事実とわかる。しかし、NHKのニュースで流れたというのはソースがはっきりしない。事実なら電話回線パンクの時のように何らかの記事にされていてもいいはずなのに。
もしかしたら、この電話回線パンクのNHKニュースが解散宣言の時と混同されてるのではないのかな?と。そうでないと、解散宣言に対する一般紙のスルーっぷりが説明つかない。LAST GIGSの方は一般紙も紙面を取っているから余計にそう感じた。

BOOWYは社会現象だとよく言われるが、1224時点ではまだ中高生など特定の世代における現象であって、世間一般の社会現象まではなっていなかったのではないのかな?と思ってしまったわけで。
電話回線パンクという現象が起こって初めて世間の"オトナ"達が『なんだこのバンドは!?』となってしまったのではないかと思う。
とはいってもあくまでも私の想像にすぎず、"解散宣言のニュースはNHKで流れていない"という確たる証拠があるわけではない。
渋谷公会堂とNHK渋谷放送センターはご近所なので、もしかしたら「すわ、暴動か?!」みたいな感じで報道されたのかもしれないし。
なので結論は保留。
もし本当に解散がNHKのニュースで流れたのであれば、誰かそのニュースの映像を録画してないかしら?

そして電話回線パンクに関して、最初の私の疑問『何故他の番号に掛けた電話まで掛かりにくくなるのか』に対する答えは、記事にあっさり書いてあった。
一部抜粋してみる。

「朝日新聞」1988年3月5日夕刊(※1)
< この日、東京都内で電話がかかりにくくなった騒ぎは「企画型輻輳と呼ばれる現象。
電話局にある交換機は、一定以上の通話申し込みがあると、自動的にその一部を話し中として接続しない仕組みになっている。これは、大量の通話申し込みが殺到した場合に交換機が処理しきれなくなって機能そのものを停止してしまう、いわゆる、パンク状態になるのを防ぐためだ。
今回のようにチケットの売り出しなど催し事に対して大量の電話が集中して起きるのを「企画型」と呼んでいる。
「企画型」の場合、事前に予測がつくため、NTT側ではその電話に対する通話だけを自動的に何割かカットする予防策をとって対応しているが、その見込みが大きくずれた場合や、チケット販売業者などからの連絡が正確にNTT側に伝わらなかった場合などに、今回のような混乱が起きる。その電話局管内の電話が規制を受けるだけでなく、都道府県単位のより広い範囲にまで影響が広がることがある。しかし、今回のように都心の広範囲に影響が及んだのは珍しい、といっている。> 
「毎日新聞」1988年3月5日夕刊(※2)
< 電話回線が特定地域でかかりにくくなると、周辺の回線を使って交信するため、電話の不通地域は正午過ぎには都内全域にわたった。> 
「朝日新聞」1990年9月23日朝刊(※10)
< 88年3月の、ロックグループ「BOOWY」の解散コンサートの受付の時は、1時間に73万コールが殺到。1秒に200コール以上という電話の集中豪雨を浴びだ九段の交換機がダウンし、都内で電話が掛かりにくくなった。
NTTは、大きな予約の際には、「ぴあ」めがけて掛かる電話の25%から95%を、地域を決めて自動的に止める「発信規制」を敷いているが、「BOOWY」の時は、「解散」という特殊な要因を読み違えた。> 

つまり、特定の番号に電話が殺到してそこの電話局の交換機の処理機能を超えると交換機が停止してしまう。
そうならないよう予め発信規制をかけるが、想定以上の入電があったため、プレイガイドのある管内の交換機がパンク状態になってしまった。
そのため管内に発信規制がかかったが、それでもあぶれた電話が周辺地域の回線を次々圧迫していき、最終的には都内全域でかかりにくくなった、ってことなんでしょうね。
それにしても、1時間に73万コール、1秒に200コール以上ってどんだけ(呆)F5アタックかーい!
あー、いや、でも天空の城ラピュタTV放映時のパルス祭りよりはマシなのかも(比較対象が間違ってる)。
ところで、この電話回線パンクによる混乱の記事、読売新聞の記事だけ他の2紙に比べて明らかに扱いが小さいのだけど、これはLAST GIGSの主催の一つが読売新聞社だからなのでしょうか。笑。
朝日新聞もオンワード樫山にだけ取材するのではなく、読売新聞社にも取材しましょうよ。


【調べてみての雑感など】

BOOWYのLAST GIGSのチケット発売によって都内の電話回線パンクという事象が生じたのは事実。
しかしそれは、人気が急上昇していたBOOWYの最後のライブであること、BOOWYの人気を読み違えていたことによる発信規制の緩さ、公立高校の合格発表日と同日だったため、受験生の結果連絡の電話も増加してより回線を圧迫したこと等の特殊要因が重なり、生じたものである。
当時の報道によると、広範囲に影響が及ぶのは非常に珍しいとあるが、決してBOOWYだけに発生した現象ではないことがわかる。
例えば同じようなことが起きたとされるサザンは、電話回線パンクが伝説として語られてはいない。(私が知らないだけならゴメンナサイ)
BOOWYとサザンの差は何か、と考えると、それはサザンが今でも絶賛活躍中であることと、サザンが当時もみんながよく知る大人気バンドであった(よね?)ことが大きいと思う。

BOOWYは人気の頂点若しくは頂点に至る少し前に解散を選んだ。
故に当時のファン層以外には認知度が低かった(ように感じる)。
そんなよく知らないバンドが突然電話回線をさせたら世間のインパクトは強い。
みんながよく知っている人気バンドなら、同じ事が起きても、人気があるからねと納得してしまうから印象に残りにくい。
それに今も活躍しているバンドなら、伝説は常に塗り替えられ、バンドもファンの興味も未来にあるけど、BOOWYはこれが最後だった。だからこそ、余計にこのことが最後の輝きとして鮮烈に印象に残ったのではないのかと思っている。
チケットの申し込み方法が多様化して、回線の種類も増え続けている現在では、こんなことはもう起こらないんだろうなあ。起こらない方が良いけど。

なお、BOOWYのLAST GIGSのチケットは僅か10分で完売したという噂もあるらしい(Wikipediaに書いてあった)が、残念ながらこの噂については、今回調べた範囲では、確実な裏付けとなるような記事は見つからなかった。朝日新聞の記事(※1)に、「約10分間で2万枚分の予約が売り切れた」という記述があるので、もしかするとこの「10分間で2万枚売り切れ」を「10分間で全てのチケット(約10万枚)完売」と混同して伝わっているのかも。

そしてこの回線パンクの件を調べていて心の底から思ったこと。 
氷室京介氏のLAST GIGSのチケット、取れて良かった(涙)
…席はステージのほぼ真横のスタンドだったけど!! 丁度バズーカの射程範囲外で私のいたブロックだけ銀テープ飛んでこなかったけど! FCチケットなのに(泣)。いや、でもあの瞬間に生で立ち会えたのだから文句を言ってはいけない。(と自分を慰める。)
こちらも東京最終公演の先行予約抽選の申込数が結構とんでもない数になったという報道があったし、一般発売は文字通り「秒殺」だった。これがもしBOOWYのLAST GIGSと同じ状況だったら絶対取れる気がしない
大好きなミュージシャンの最後の姿を見届けられないなんて哀しすぎる。
今は各プレイガイドのネットの先行発売やファンクラブ先行発売があって良かったなーとしみじみ思った。

ただ、何が何でも観たいというファンの気持ちにつけこんで、チケット販売会社が年々手数料を吊り上げていっている気がしないでもない。
申込手数料にシステム利用料に発券手数料って、一体どれだけ種類があるのか…。
それでも昨今のコロナ禍でライブの開催すら危うい、先行き不透明感に比べたら、手数料が高すぎたとしても無事にライブが開催できる状況の方が断然良いのでしょうね。
またみんなが心置きなくライブを楽しめる状況が来ることを祈ってます。

【出典・参考資料】

※1 朝日新聞 1988年3月5日夕刊「ロック加熱で電話がパンク 人気公演、予約殺到」
※2 毎日新聞 1988年3月5日夕刊「東京の電話パンク コンサートの予約殺到」
※3 読売新聞 1988年3月5日夕刊「話の港」より
※4 朝日新聞 1988年3月6日朝刊「電話がパンクは回復 ボウイのチケット予約」
※5 読売新聞 1988年3月6日朝刊「電話"予約パンク" 復旧」
※6 週刊新潮 1988年3月17日号「電話をパンクさせたロック『BOOWY』」
※7 週刊明星 1988年3月24日号「BOOWY異常人気の『LAST GIGS』ファンの電話が60万回!チケット売り出しで前代未聞の大パニック」
※8 FRIDAY 1988年3月25日号「『BOOWY』へ「10万人が4億円」異常列島 解散コンサートでメイワクする「オトナ」」
※9 朝日新聞 1989年11月10日朝刊「チケット争奪戦 "秘策"こらし先陣争い(金曜ひろば)」
※10 朝日新聞 1990年9月23日朝刊「裏技 伝説生む電話の豪雨(ラインダンス 「回線社会」事情:5)」

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