ワタシノ足跡第一三章〜開拓者になっちまったよ!〜
牡蠣騒動から1ヶ月後
博多にて月1の定例会議終了後の懇親会
乾杯後、程なく
アサヒビール九州地区本部長(九州のBIG BOSS)が
じぶんのグラスを持って私の隣りに座った
私の席周辺は鹿児島の同僚が3人 宮崎の同僚が5人
本部長が
【南九州では麦焼酎かのかは売れないのかなあ?】
研修で自社全商品の勉強を受け商品名は知っていたが
ノーマークな意識していない商品でした
「 宮崎・鹿児島は芋焼酎王国ですから 」
ひとりの鹿児島の先輩が返答して
周囲の同僚は本部長からの視線を逸らせて
質問が来ないようにしていました
【鹿児島・宮崎の『かのか』の売上が
すこしでも上がればいいんだけどなあ‼︎】
麦焼酎かのかは
福岡・長崎では普通にポピュラーな商品でした
イオンなどの大手スーパーはもちろんですが
地元のスーパーでも売れる商品でした
鹿児島では見掛けたことの無い程の商品でした
【そうかあ、南九州では『かのか』は難しいかあ】
すこし肩を落としたような本部長
その瞬間、横にいた自分と眼が合った
「 本部長、売れるか売れないか
全くわかりませんけど
自分は芋焼酎が苦手なので焼酎自体を
呑まないのですがその商品は他県では
普通に売れてるんですよね‼︎
先ず自分や自分の周辺のひとと呑んでみて
そこから戦略を考えていいですか?
ちょっと一回チャレンジさせて下さい。」
驚いた表情の本部長が一瞬で嬉しそうな顔に変わった
【 武器はあるのか? 】
武器とは、
スーパー等のバイヤーさんに試飲してもらう為に
サンプルや商品に添付する景品や※条件金といって
例えば1ケース仕入れもらうと1本無償提供する
10ケースだと1ケースがタダで店舗に提供する事で
1本売価1,000円の物を売価900円で販売したり
もしくは店舗のイベントなどの抽選会景品に
使ったりしています。
今はどうかわかりませんが
条件は10対1など隠語でしたが
10ケースに1ケース付けますという戦略が
ありました。
「 武器は無いと思います。
武器どころか『かのか』自体を鹿児島で
見たこと無いです。 」
【そりゃ、そうだな!】と本部長は
携帯を取り出しどこかに電話をかけられました
【 鹿児島には『かのか』の武器は無いのか!
福岡の分の武器数を削ってでも
鹿児島に回せ‼︎
巨大な敵と戦うという兵士に
武器も持たさず戦場に送るのか!
俺の指示だと経理に伝えろ‼︎ 】
電話の内容はダダ漏れしていました
【 武器は必ず用意する。
明日取り敢えず10ケース(60本)
君の自宅に送るから「かのか」を
呑みまくって友達とかにも配りまくって
店舗バイヤーや店長や酒担当者にも
配りまくってもいいぞ‼︎
兎に角、好きに活かせ‼︎
例えダメな結果でも口に合わないでも
教えてくれ、結果は気にせず
トコトン攻めてみてくれ!
追加の武器も用意させるから
勝負してくれ‼︎
芋焼酎王国 鹿児島で「麦焼酎かのか」が
動き出したら全社的にいい情報になる。
俺が責任持つから暴れてくれ‼︎ 】
一気に強い口調で言われ力強い握手を受けた
私は驚きました
これがBIGBOSSか!
九州のアサヒビールのTOPか‼︎
私の一言が偉いこっちゃになった
翌日、
かのか20ケース(120本)が自宅に届いた
そして、本部長からの直電
(本来はこのような直電はあり得ない)
【 鹿児島支店長にはこの前の懇親会での話は
伝えてあるから特命として頑張ってくれ‼︎
また、武器が必要な時は俺に電話くれ‼︎ 】
一気にプレッシャーがのしかかってきました。
それから1ヶ月間
「かのか」を呑みまくり、配りまくった
店舗との交渉も店舗側は、ほぼ麦焼酎に
無関心でしたので麦焼酎売上首位の商品の横に
「かのか」を並べて販売するという戦略と
出張や転勤者の多いエリアを主に販売展開しました
「かのか」の仕入れ条件は10対1
麦焼酎に関心の無い鹿児島の店舗なので
品揃えのためだけの販売でしたので
条件の魅力も重なり比較的スムーズに
仕入れをしてもらい、販売売価を売上首位の
商品よりかなり売価を安くして「かのか」の
販売が始まりました
月間の売り上げも多少あった
自分の担当店全店で販売して頂きました
全国系のコンビニ等にまぐれのように
多少販売展開はあったらしいが
鹿児島支店「かのか」月間販売実績
前年比1,200%という恐ろしい数字が出ました
裏を返せば
それだけ「かのか」が売れていなかった
そういう事なのだが今まで
ひと月に1本売れていた物が月に100本売れたら
様々な条件さえ合えば元に売り上げ1本に戻る事は
ほとんどありません
翌月の鹿児島支店定例会議
「芋焼酎王国での
麦焼酎かのか販売前略成功事例発表会」
と題させた時間を設けられました
偶然だったのか、
わざわざ来られたのか分かりませんが
BIG BOSSも出席されて成功事例を
聴いて頂き発表後に総括の挨拶で
【 彼は呑んだ席の口約束とは言え
見事に約束を守り、そして
全国のアサヒビール営業マンに
環境を理由にあきらないという
事例を構築して良き結果を
出してくれました。】
と誉れ高きキレの良い言葉を頂きました
後日、鹿児島に『変わった奴が入って来たぞ‼︎』
と全国の支店長会議で言われたと
鹿児島支店長から呑んだ席で言われました
BIG BOSSは数年後
東京本社の酒類本部長になりました
1年後にプライベートで東京に行く際に
こっそり本社見学に行きました
(末端の派遣社員では
まず本社に行く機会はありません)
勝負服のスーツを着て自分のご褒美に
アサヒビール本社に最上会にある
展望ラウンジで御天道様の下
ビールを呑みたい‼︎
それが本社に行く最大の目的でした
大きな本社ビルの最上階で平日のビルの中には
社長はじめ大幹部や大勢の働く
その上で祝杯をあげる
今振り返れば笑えますが…。
一杯だけの祝杯、
帰りのエレベーターで
バッタリBIG BOSSに遭遇しました
【 ちょっと、付き合え‼︎ 】と強引に
専務、常務、役員方々
(社長不在でBIG BOSSは残念がっていましたが)
各部署の超役員室に連れ回され
【 この男が例の鹿児島の男ですよ‼︎ 】と紹介され
その夜は浅草のアサヒビール贔屓の店で
歓迎会を急遽設けて頂きました
自分が働き携わりながらも派遣社員という立場もあり
どっか他人事のような感覚でしたが
このアサヒビールという会社やBOSS達の豪腕さに
驚きと誇りの連続でした。
あの博多での歓迎会から約15年後
BIG BOSSはアサヒビールの社長に就任されました。
今年から芋焼酎王国鹿児島でも
「麦焼酎かのか」のCMが流れ出した。
今でも何か勝負時期は『かのか』を愛飲してます。
つづく