【小説】雪解けの季節~心の和解~2
大澤が手にした社内報には、さとみが社長の相沢、直属の上司である部長の青柳に挟まれ、3人が腕組みをしてフレームに収まっている写真が掲載されていた。
実は、この写真は2つの意味で社内で話題になっていた。3人が腕組みしながらフレームに収まっている、、、
これは、副社長を筆頭に会社の重鎮である役員達の嫉妬と危機感を呼び起こすには十分なインパクトがあった。
なぜなら、堅物の代表のような人物である社長の相沢が、向けられたカメラの前で3人同じ、しかも、真ん中を誰かに譲った状態で、更に、少し笑みを浮かべながら腕組みポーズをしている姿が社員の皆が目にする媒体にあったからだ。
誰もが青柳の立ち位置が急浮上していることを感じずにはいられなかった。
そして、もう一つの話題、、、
相沢社長が笑顔でフレームの中央を譲った女性。そう、さとみのなんとも言えない美しさとなんとも言えない愛くるしさだ。
社内報が配られた日の夜の居酒屋では野沢の男性社員がさとみ談議をあちらこちらで繰り広げていた。
それは、海を渡ったロンドンでも同じだった。仕事を終え、チームのメンバーとバーにいた大澤は、社内報片手に告白宣言をして盛り上がってる若手社員を無表情で眺めながら、もう自分を抑えることは出来ないと、
周囲には密かに覚悟を決めたのだった。
大澤は、悩んでいた。さとみに連絡するべきか否か。
日本に一時帰国することは大澤が決めたというより大澤の魂が固く決めていた。そう、抗うことはもはや出来ない。
電話すべきかどうか、、、
そして、もう一つの悩み?不安?さとみのことを思い、熟慮の上とはいえ突然連絡を断ち姿を消した自分を許してくれるのだろうか。。。。。
あれから何年だ?大澤はあることに気付いた。
なぜか、違う誰かと一緒にいる姿は想像できない。
ふっ、と力無く笑う自分がいた。俺だけ、完全に時間が止まってるんだな。懐かしさが脱力感を伴い、切なさとなり切なさが理性を保つ限界を超えようとしていた。
大澤は不意に立ち上がり部下の一人に用事を思い出した、と言いながら300ポンドを手渡し、一直線に出口へ。危ないところだった。
まだ、少し理性が残っていた。店を出ると同時に大澤は走り出した。溢れ出る涙を誰にも見られたくなかった。
走って
走って
そうしてるうちに理性が戻るはずだっ不覚にも、大澤の心の中はさとみに会いたいが故の自分の病気に対する再認識だった。
会いたい、、、
会いたい、、,
会っていいのか、、、?フィッシャー症候群の診断を受け二度と会わないつもりで 連絡を断ったはず、、、
大澤の涙は頬を濡らし続けていたがいつの間にか大澤はトボトボと歩いていた。不思議なことにいつもは気になる、すれ違う人の視線が今はどうでもよく、全ての思考回路が、
会ってもいいのか?このことだけに集まっている様だった。