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ラオール・ウォルシュ 大雷雨 1941
マレーネ・ディートリヒが、黒の衣装に黒のベレー帽で、薬局の簡易ハシゴ段にその美脚の片足をかけあげるシーンのスタイリッシュできまっていることと言ったら。これぞマレーネ・ディートリヒという撮り方を、さすがにウォルシュは心得ている。
全編、ディートリヒがこれだけ魅力的に撮れているのも珍しいのでは。
刑務所から出てきた直後の今書いた黒の衣装、ボッタクリバーで働く妖艶で気品のある姿(そんな店にはこんな人がいるわけないよ)、エドワード・G・ロビンソンとの結婚式で一人浮かない顔をする姿。
結婚後に家庭向きの地味な衣装をまとう姿もかえって珍しくて印象的だった。ディートリヒ168cmでロビンソンより背が高いので、そのすらりとしたスタイルが一層引き立つ。ジョージ・ラフトや野球少年たちとのコミカルなシーンも楽しい。
ラフトが家庭に療養中に、ディートリヒが彼を見つめる目つき、表情。どんな男も逆らうのは不可能でしょうよ。
激しい豪雨の中、櫓を雨に濡れた顔で見上げるところもきわめて美しい。
映画自体は、エドワード・G・ロビンソンとジョージ・ラフトの男の友情や、派手なアクションシーンが中心なのだが。特に、ラスト近くの電柱上のシーンには誰でもハラハラドキせずにはいられないだろう。ウォルシュらしい文句のない名シーンだろう。
初登場と同じ黒の衣装と黒のベレー帽で、マレーネ・ディートリヒがバックに夕空が広々と拡がる中、バス停に一人立つショットが息をのむような美しさである。
続いてラフトが同じ構図のシーンに現れてディートリヒと何か話しているが、絵だけで話の内容は聞こえない。
カメラが俯瞰になりバスが前方から走ってやってきて、バス停で停車して二人の姿を隠してしまう。
どうなるんだ、その場に残るのは一人なのか、二人なのか。
間を持たしてバスが、やはり見事な夕空の中を走り去ってゆく。
結末は見てのお楽しみ。なんという美しい見事なショット、シーンなのだろう。バスという小道具の洒落た使い方も含めて。この映画はこのシーンを観るだけでも十二分に価値がある。
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