「命は何のためにあるのか」~上橋菜穂子『夢の守り人』を読んで~
本書は、上橋菜穂子先生の『守り人シリーズ』第三作目である。
【あらすじ】
あらゆる理由から、自分の人生に嫌気がさした人々が、〈花〉と呼ばれる夢の世界へ誘われて行って、そのまま夢から醒めなくなってしまう。主人公であるバルサの幼馴染であるタンダの姪カヤも、夢から醒めない一人であった。
心優しいタンダは、呪術の師匠であるトロガイの忠告を無視して、カヤを救うために、たった一人で〈花〉の世界へ行ってしまう。そして、突然目覚めたタンダは、人間には到底太刀打ちできない凶暴な化け物に変わっていたのだ。
【考察】
本書のキーパーソンは、タンダの師匠であるトロガイである。
トロガイは、推定70歳以上の老婆で、時にしたたかで、鋼のメンタルを持つ人物である。そんなトロガイもまだ若い娘だった頃、大事な自分の子を亡くしてしまい、自らも命を投げ出しそうになったことがある。そしてトロガイ自身も、一度〈花〉の世界に囚われた。
そしてトロガイは、後の呪術師匠となるノロガイに〈花〉の世界から救い出してもらい、九死に一生を得た。そんな死ぬほどつらい思いをした経験を持ち、生還後はしぶとく歳を重ねてきたトロガイの言葉は、重みがあって心に響く。ここで、トロガイ語録を少し紹介させていただく。
「人ってのは、自分が思っているよりずっと、したたかな生き物なんだろうよ」(298頁)
「さあ、そろそろ目をさまそうや。いつか、いやでも目ざめられない日がくるんだから」(300頁)
トロガイは、自分の人生は一度きりなんだから、もっと自分のために生きなさい。そして、人間は、逆境からも立ち直れるしたたかさを持っている。そんな様な事を、言いたいのだろうなと思った。
【まとめ】
私はこの本を読んで、自分の命は自分のもので、粗末にしてはいけないと思った。そして、決して他人の命を奪ったり、引きずり下ろすようなことはしてはならないと思った。