女装小説「めざめ」第4話・サトミとしての時間
めくるめく自慰のファンタジーが終わってしまうと、バカなことをしてしまったと後悔の念と虚しさがやってきた。パンティについた精液を洗面台で洗い流しながら、こんなバカげたことはもう止めようと、サトシは思い直していた。
しかし、仕事に忙しい数日を過ごしたのち、週末の夜を迎えると、そんな反省の気持ちはうすれ、サトシは再びサトミに「変態」しようとしている自分を抑えられず、自慰のファンタジーの虜となってしまっていた。クローゼットの中にしまったセーラー服を取り出し、洗って乾かしたパンティを手にする誘惑に負けてしまったのだ。更けていく夜に、サトミはペニクリを膨らまし、そこに大山の手が触れるのを想像しながら、気をやった。
こうして後悔と欲望の間で揺らめく日々を過ごしながら、「サトミとしての時間」が少しずつ増えていくことにサトシは漠然とした不安を感じていた。このままでは、ずっとサトミのままになってしまうのでは?
そう想像してみて、それも楽しいかもしれないと思っている自分がいることにも驚いた。
ずっとサトミでいること、それは何を意味するのだろう?
大山が言っていた「女装娘」という言葉を思い出して、ネットで検索してみた。自分と同じ世代にも、女装を楽しみ趣味としている人間がたくさんいることを初めて知った。ネットの中の「女装娘」たちは、好きなアニメのキャラクターのコスプレをする人もいれば、そこらあたりの女の子よりもお化粧のうまい人もいる。誰もが、屈託なく、思い思いの女装を楽しんでいるように見えた。人前で堂々と女装し、ネットでその姿を発信しているものもいる。大勢の女装娘が集まるイベントもあるらしい。「女装娘」という風に言う場合もあれば、「男の娘」という呼び方もあったりするようで、微妙にアイデンティティも違うように感じる。ややこしいのが、「ニューハーフ」という自分のことを女性だと感じて、乳房を膨らましたり、男性ホルモンの働きを嫌って男性器を部分的に手術したりする人たちもいて、もちろん知ってはいたが、「女装娘」や「男の娘」とは明らかに別物であることは少し調べれば分ってきた。もちろん自分がそういうタイプでないこともはっきりと分かった。また、女装者の中でも、自分が人前に出たり、何かを発信したりするタイプではなさそうなことも何となく分かってきた。
では、自分はどこへ行くのだろうか?どうすれば良いのだろうか?「サトミとしての時間」は徐々に増えて、もはやサトミを抑え込み消してしまえないことだけは、はっきりしていた。
それどころか、サトミは、もはやセーラー服だけでは飽き足らなくなり、「女装娘」検索で見つけた他のコスチュームも試してみたいと思い始めていた。アイドルマスターや放置少女など好きなゲームのコスプレや、シンプルなメイド服に、少しエッチなランジェリー、果ては振袖やウェディングドレスまで、可愛らしく綺麗に、自分をより女性的に見せてくれそうなものに惹かれていることは確かだった。ネットのショップを見繕っていたが、サイズのことに確信がもてない。それでも、世の中は何でもできる便利な世の中になっているようで、なんとメンズ・コスチュームという名前で、男性サイズの女装コスチューム専門ECがあり、BIGサイズというサイズなら問題なく着れそうな気配だった。
そしてついに、サトシ(いやもはやサトミというべきかもしれないが)は、比較的誰が着ても女性っぽく、可愛らしく見えそうなメイド服を見繕って、そのネットショップの購入ボタンを押してしまっていた。
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