【ハゲ杯】もっとも~っと、バケモッノ!化けて出てちょうだ~い
りりかるさんにお薦めしてもらってハゲ杯に参加させてもらいまーす。短編コメディ小説です。
「ち、違うんだ!太く長く生きたい。俺は、そう願っただけなんだ!」
「はぁ~~~~ぁっ!」
俺は集中して気を溜める。
「待ってくれ!流さないでくれー!」
「ヨセツブージョ!!」
俺は呪文を唱え、レバーに手をかけた。
ジャー・・・・ ゴゴゴッ
「一丁上がり。なにも、うんこに化けなくてもな…。」
俺の仕事は、化け者を呪文によって成仏させる、いわゆるゴーストバスターだ。
一人で営む小さい事務所ながらもCMまで作っている。
おなじみの「もっとも~っと、バケモッノ!化けて出てちょうだ~い。」というやつだ。おかげで依頼の電話は毎日ひっきりなしだ。
ただ、CMのポップすぎる印象のせいで、最近は、変な化け者の依頼ばかりが増えている。
今日の一発目なんて、うんこだし…
なぜ俺がゴーストバスターを職業としたのか。
それは、俺には化け者の声を聞くことができるという特殊能力があったからだ。
以前は、「死者は幽霊になって出る。」というのが世間で信じられていた。だが今では「死者は化け者になって出る。」というのが常識になりつつある。
この世に強い思いを残して死んでいった者たちは、物や動物に化けて現実世界に現れる。
誰もいないのに食器が音を立てたりする、ポルターガイスト現象というのがある。
アレは「音」ではなく、本当のところは「声」だ。化け者たちの「話し声」なのだ。
プルルルル…
「はい。バケモノ琵琶野(びわの)です。」
「すみません、多分化け者だと思うんですけど。退治してもらえますか?」
依頼の電話だ。声からすると、高校生くらいだろうか。
「詳しくお話を聞かせてください。どんな化け者でしょうか?」
「えっと、それが…。パンツなんですけど…。」
「パンツというのは、ズボンのことでしょうか?それともパンティーのことですか?」
俺は至って真面目に聞いた。本当にただ確認したかっただけなのに。
「…。」
少しの間があって、
「…パンティーです////」
少女の恥ずかし気に答える声を聞いて、俺は自分の言葉を反省した。
「すみません。なんか、ごめんなさい。えっと、パンティーに化けてる、ということですね。」
「はい。」
「何か被害に遭われたのですか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。今朝起きてみると、私の持ってるパンツじゃない新しいパンツが部屋に落ちていたので、おかしいなと思って。化け者なんじゃないかと思って電話したんです。」
「わかりました。おそらくソイツは化け者だと思います。では今から伺いますのでご住所を教えてください。」
パンティーの化け者というのは、俺が受けてきた依頼の中でもトップ5に入るほどポピュラーな化け者だ。
男ってのは本当に馬鹿な生き物だ。死んでも尚、頭にあるのはエロのことばかりなんだから。
ピンポーン
小さなアパートのドアの前でインターンホンを鳴らす。
「こんにちはー。バケモノ琵琶野です。」
「はーい。どうぞー。」
先ほど電話で話した少女だろう。俺は部屋の中へと促された。
部屋は静まり返っている。少女以外、家族は出払っているようだ。
「あそこにあるのが、お話したパンツです。」
四畳しかない狭い部屋のど真ん中にソイツはドーン!と存在感たっぷりに佇んでいた。
「なんだお前?」
パンティーの化け者がしゃべった。
「お嬢さん、コイツは間違いなく化け者です!」
「やっぱり、そうなんですね。退治してください!お願いします!」
「もちろんです。経験上、パンティーの化け者は変質者である可能性が高い。危険なので部屋の外へ避難しておいて下さい!」
「わかりました!よろしくお願いします!」
少女がドアを閉める音を確認する。
「あ、ちょっと、どこ行く…。おまえっ!余計なことしやがって!」
パンティーの化け者が俺につっかかってきた。
「どうせお前、エロい目的でパンティーに化けたんだろう!あの子に履かれたくてパンティーの化け者になったんだろ!この変態が!」
「はぁ~~~~ぁ」
俺はいつものようにパンティーの化け者を成仏させるべく気を溜め始めた。
「待ってくれ!ち…違うんだ。お、おれがそんな変態野郎に見えるか?これには深いわけがあるんだ!」
「お願いだ。話を聞いてくれ。あれは俺の妹なんだ…!」
いつもならそのまま呪文を唱えて成仏させるところなのだが…。何か訳ありそうな訴えに、話を聞いてみようという気になった。
「あのお嬢さんは、妹さんなのか?」
「そうだ。」
「少し話が長くなるが、なぜ俺がパンティーに化けたのか。聞いてくれるか?」
「分かった。聞こう。」
~~~~~
今から三年前…
俺たち兄弟はホームレス生活をしていた。
幼い頃、両親は事故で亡くなり、親戚の家に引き取られた。それからというものの、俺たちは邪魔者扱いされ、辛く当たられる日々。そんな毎日に嫌気がさして、二人で家を飛び出したんだ。
俺たちの、いや、俺の考えが浅かった。家から逃げ出したい。先のことなんか考えず、何の当てもないまま、ただその気持ちだけで飛び出した。
初めはネットカフェに泊まったりしていたが、すぐに金はなくなり、駅や公園で夜を明かすことになった。
ある時、通りがかったおばさんが「うちの子の古着だけどよかったら」と言って俺たち二人に服をくれた。おばさんの子どもと同い年くらいの俺たちが、毎日同じ服でホームレス暮らしをしている。見るに見兼ねて、服をくれたんだろうな。
それから何人かの人たちが古着を持ってきてくれるようになった。
だが、下着だけは誰もくれなかった。
下着だけは古着ってわけにはいかないからな。
妹はずっと同じパンティーを履き続けていた。俺はいいさ、男だから。だけど妹は、年頃の女の子だ。においだって気になるし、特にパンティーなんて毎日新しいものに替えたいだろう?俺はそんな妹を見ていてずっと心苦しかった。俺は妹に何もしてやれなかった!
程なくしてホームレス生活は終わった。ある支援団体が手を差し伸べてくれたんだ。
今でこそ、家があり、不自由のない生活が送れるようになったが、俺はあの時の心苦しい気持ちを拭いきれないでいた。
そして一ヶ月前、俺は死んだ。妹を一人残して…。
死の間際、俺は妹のパンティーになりたいと願った!!
あの時、履かせてやれなかったピカピカの新しいパンティーに!!
「俺がいなくても頑張って生きろ!」って思いを伝えるために!
~~~~~
パンティーの化け者の、妹への愛情がこれでもかと伝わってきた。
人を、もとい化け者を見た目で判断してはいけないな。だが、どんな事情があれ、俺はゴーストバスターだ。プロとして、仕事をしなければならない…。それに、成仏することは化け者にとっても本来救いとなることなんだ。
「アンタの思いはよく分かった。妹さんには俺からきちんと伝えておく!だから、心置きなく成仏してくれ…!」
「はぁ~~~~ぁっ」
俺は再び集中して気を溜め始める。
「お前、俺の話聞いてただろ?一回でいいから!俺を履かせて…」
「…ヨセツブージョ!!」
「うあぁぁぁぁぁ…!!」
パンティーの化け者は成仏した。俺はゴーストバスターとして間違ったことはしていない。だが、本当にこれで良かったのだろうか。クソ!こんなこと、今まで考えたことなかったのに。
「お嬢さん、きっちり退治しましたよ。」
少女を部屋へと呼び戻す。パンティーの跡形もなくなった四畳半の小さな部屋。
「ありがとうございます!!」
少女が、心底安心した顔でお礼を言う。
「実は、聞いてほしいことがあるんです。あの化け者が現れた理由について。」
俺は一連の話を少女に伝えた。ただの化け者じゃない。そこには兄の愛があったことを。
「え……。」
少女は明らかな戸惑いの表情を見せている。
無理もない。つい先程までは退治してほしいと願っていた存在だったのだから。感情が追い付かないのだろう。
そして少女は言った…。
「私、兄なんていませんけど…。」
「………。」
「やっぱりアイツ、ただの変態じゃねーか!!!」
(完)