映画エブエブを見て
この世は混沌である。
映画が始まって、混沌の渦に飲まれて吐き出されても。
席を立って、暗い廊下を抜けて、重い扉を開いて眩しい蛍光灯に照らされて。ガラス窓から見える歓楽街の景色は、夜の中カラフルに光っている。なんの統一感もない、それぞれが強烈な個性を持ってガチャガチャと。
暖かいビルの中から、エスカレーターで外気に出ていく体感温度。四方八方から聞こえるBGM。酔ってふらつく通行人。日本語、英語、中国語、韓国語。少し耳をすませるだけでいろんな言語が飛び交う。ブロック毎に地面の感触も変わる。コンクリート、レンガ、アスファルト。それにつられて足音も変わる。信号が赤でも歩行者は渡る。車も渡る。真横を乳母車を押す女性が歩く。
この世は、混沌である。
とんでもなくトリッキーで、不可解で、
シンプルな愛。
それを伝えてくる映画。
『エブリシング、エブリウェア、オールアットワンス』
を見た。
都会の混沌から抜け出して家に帰って来たと思っても、空には嘘みたいな見本のような月が輝いていた。冗談のような。
この世には美しさも奇跡もある。残酷さも生も死も、私が一歩踏み出す度に地球上の至る所で奇跡と絶望が起こっている。
それを混沌と呼ばずになんと呼ぶ?
混沌を生きている。混沌という奇跡を生きている。
この映画はぶっ飛んでる訳じゃない。ノンフィクションだとすら思う。
この映画を作るプロジェクトが立ち上がり、日本に居る私が見られるところに配給されたことを嬉しく思う。ラッキーだと。
賛否両論ある映画かも知れないけれど、本当に素晴らしかった。
見て良かったと思う。