常芸、動き出すにあたっての所信
えー、ひょんなことから常磐線舞台芸術祭の実行委員になってしまった、いわき市在住の小松理虔です。桜が咲く前のころでしたでしょうか、一番最初の打ち合わせで「せっかくやるなら開催前の準備期間中から情報発信したほうがいい」とnoteの運用を提案したのはなにを隠そうこの私です。
それなのに、初夏に入るまで、ただの一度もこのnoteを更新しておりませんで、柳美里さんはじめ制作メンバーにもご心配をおかけしておりましたが、ようやくですね、初夏の爽やかな高気圧のおかげもあってか心が上向きになってまいりまして、その余勢を駆って、思い切って最初の投稿をしていると、そういうわけでございます。
先日、無事に記者会見も終了いたしました。メインのプログラム、演目に関しましても、すでにウェブサイトなどでお知らせしている段階です。制作チームも双葉郡入りしており、さまざまな調整にあたってもらっている状況でございます。いまのところ、準備は着々と進んでいるようです。どうぞみなさま、本番を楽しみになさってください。
今回の常磐線舞台芸術祭、ぼくも「ツアー企画」と「飲み会企画」、得意な2つの企画を出しまして、すでに公式ウェブサイトにも情報が出てきたところです。さあどんなツアーになるのか、どんな飲み会になるのかなどをここで詳しくご紹介したいところではありますが、自分の企画の宣伝よりも、まずは、この芸術祭の「前身」ともいうべき「浜通り舞台芸術祭」で起きたハラスメントについて言及せねばなるまい、と思ってパソコンを開きました。
昨年の11月になりますけれども、「浜通り舞台芸術祭」で披露されるはずだった作品の劇作家が、劇に出演するはずだった女性に性的なハラスメントを行っていたとする告発があったことが新聞などで報じられました。現在も裁判が続いています。また、直接この件の弁護人を務めていたわけではないものの、広く演劇界のハラスメント問題に取り組んできた弁護士が、こともあろうか依頼者にハラスメントを繰り返していたとして謝罪するということもありました。この弁護士は、原発事故に関する訴訟などにも関わる弁護士としても知られていました。
立て続けに、この福島県浜通りに深く関わる劇作家と弁護士、二人の男性から、女性に対するハラスメントが引き起こされたということを、この常磐線舞台芸術祭に関わる以上、私も考えずにいられません。何事もなかったことにして、この地で舞台芸術のフェスを始めてしまってはいけないなと。やはりここは「自分ごと」として考えることで、実名で被害を訴えた人たちに連帯を表明したいと考えました。
ハラスメントと聞くと、どこかで心がうずくような気持ちになります。どこかで自分も加害行為をしていたのではないか、今思い返せば、あれは加害行為だったのではないかと思い出す場面がいくつかあるからです。
高校や大学の部活動、かつてテレビ局で記者をしているころ。飲み会での振る舞い、後輩たちに対する言動、「女子アナ」に対する目線、部活でのやりとり……無自覚に「男性/強者」として振る舞っていなかったか、たまたま異議申し立てをされなかっただけで、心に傷を負わせるようなことがあったのかもしれない、と思わされます。
被災地の、ジェンダーバランスを欠いた復興のあり方に対しても、この数年さまざまな異議申し立ての声が聞こえるようになってきました。復興の現場を支えていた女性は一顧だにされず、意思決定の場面でだけ男性が権力を行使するというようなことが続いてきたことが、問題視されるようになっています。「地域活動家」などと名乗り、「復興」に関する書籍を出した私も、この問題の「加害的当事者」なのだと思わずにいられません。
もちろん、ここで体よく反省の弁を垂れ流してことを済ませばいいわけではありません。繰り返さないための努力や工夫、仕組みが必要です。常磐線舞台芸術祭でも、法律事務所と協力して「ハラスメント対策チーム」を組織しガイドラインの作成も進めています。もう二度と、演劇や芸術の場面で(もちろんそのほかの場面でも)、だれかの尊厳を傷つけるようなことがあってはならない。そういう気持ちでスタッフの全員がこの芸術祭と向き合っていることを、この場を借りて皆さんにお伝えしたいと思います。
ですが、そのような仕組みがあったとしても、人はだれかを加害してしまうかもしれない、差別的な言葉を投げかけてしまうかもしれない、そのような暴力性が自分の中にもあるのだということを肝に銘じておく必要があります。また、人と人が密接に関わり合い、閉じた上下関係に陥りやすい表現の場にはハラスメントが生み出されやすい構造があるのだとも思います。
一方で、芸術とは、根源的にだれかの心に強いインパクトを与える(それを傷と感じる人もいるかもしれない)ものです。芸術は、人の心に飛び火し、だれかの人生を変えてしまうような力を持っているし、悲しみに寄り添い、共に涙を流したり、共に震えるような場をつくりだすこともできる。
だからこそ余計に細心の注意を払い、しかしおそれることなく、大胆で刺激的な企画を考えられたらと思っています。こんなことは当たり前のことすぎて改めて語らなくてもいいことなのですが、最初の投稿なので、あえてこのような内容に触れておきました。
引き続き、こちら「常芸note」には、もしかしたらぼくしか書く人間がいないかも?しれませんが、企画の進捗だったり、見所だったり、思うところなどをつれづれに書き綴っていく予定です。ぜひまたお立ち寄りくださいね。