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6AS7G:忘れ去られる功労者

一生懸命に働いて来て、それなりに社会の役にも立ったのに、時代の変化で見捨てられ、忘れ去られて行く人が居ます。

6AS7Gは1950年代に米RCA社で開発された真空管。デジタル時代はもとよりアナログ時代もトランジスタが当たり前になる頃には、真空管は過去の遺物的に扱われるようになり、昨今では一部の「真空管アンプ・マニア」にしか顧みられないものとなりました。

そのマニアにしても、オーディオ用として著名な真空管(300B、2A3、KT-66/6L6GC、KT-88/6550、EL34/6CA7、EL84/6BQ5・・・)等々にしか興味を示さない方が多いと思います。むろん有名処にはそうなった理由があり、それらを使うのが悪い筈もありません。

そんな方には全く興味のない真空管と思われる6AS7Gですが、定電圧電源用レギュレータ管として開発された大型の低増幅率の双三極管で、その独特の性能からトランジスタ普及前の数々の電子機器の定電圧電源用として盛んに用いられ、陰ながら社会に貢献していた功労者なのです。

内部抵抗がかなり低い事から一時は真空管式OTLアンプ用に一部の方に使われていましたが、ヒーターだけで1本6.3Vx2.5A=15.75Wも消費し、プレートは低電圧・大電流で電源部が大変で、増幅率が極端に低い事から前段設計が難しく、更にアンプ用としては安定動作させるのが難しい球であったので、オーデイオ趣味の方々からも見捨てられつつある真空管です。

でも僕は思うのです。

今どき真空管式アンプを使うと言うのは、全くエコではないし(電力効率・消費電力・物理的サイズ・重さ・低価格なら半導体アンプ、特にD級アンプが断然優れています)、物理特性的にも良く出来たトランジスタ式アンプには全く敵わない訳です。

それでも敢えて真空管アンプを使うのは、良く出来た真空管アンプの特色ある音質や、真空管に火が灯る温かみのあるデザインが好きだからかと思います。効率や性能では無いものに価値を置く生き方、そうプライスレスの価値を信じる人の「大人の遊び」なのでしょう。

そう言う目で6AS7Gを観てみると別の魅力が見えて来ます。先ずはその「見た目」、中古管で1本数十万円で取引されるWE300Bや、数万円のRCA2A3と同じ大型ST管で、純粋な三極管(多極管3結や内部多極管構造の高効率三極管ではない)。タイトル写真のようにヒーターが柔らかく灯って良い感じ。それでいて電子機器のレギュレータ用に沢山使われて来て不人気なので、1本1000円程度で中古管が買え、品数も多いのです。

要するに「かなり気難しくて扱いは大変そうだけど、なかなかの美人/美男子で根の性格も良さそう、しかも身近にいる人」みたいな球なんです。こんな人とならじっくりお付き合いしてみたくなりませんか?

と言う事で、これからこの6AS7Gを使った真空管アンプについて書いて行こうと思います。そんな方は居ないと思うけど、もしご興味があるならお付き合いをお願い致します。

因みにタイトル写真の6AS7Gのブランドは、左から東芝・NEC・マツダ(2本)です。同じ型式の6AS7Gでもメーカーと年代によって肩の張り方に違いがありますね。また特性は同じで形状を小型化したメタルベースGT管の6080や、そのヒーター電圧を6.3Vから26.5V±10%に変更した6082も在ります。6082ならヒーターを4本直列にすればAC100Vから灯せますね。

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