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♯未来のためにできること~祖父から子どもの100年後へ
私の祖父は、大正9年生まれ。2022年現在102歳だ。祖父は、18歳の時から84年間、文藝春秋を愛読し続けてきた。毎月、文藝春秋が届くと、一冊を丁寧に読み込んでいる。そんな、祖父にとって心の友とも言える文藝春秋が100周年を迎えると聞いて、祖父の人生と共に多くの人に親しまれていることに、言葉に表せないほどの感慨深さを感じた。そして、祖父が好んで愛読してきたように、今後100年も未来の多くの人々に親しまれ続けてほしい、それが私の願い、そして102歳の祖父の願いだ。
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今から100年前といえば、祖父が2歳の頃。祖父は、幼い頃に父親を亡くしたので、年の離れた兄や姉たちが父親代わりとなり、祖父たち兄弟の世話をしてくれていたという。
女手ひとつで7人兄弟を育てあげた祖父の母だったが、子どもたちの助けや周囲の人々の支えで、子どもたちはそれぞれ立派に成長した。
祖父は、父親がいなかったけれど、家族や友人に囲まれて、寂しい思いをすることなく、のびのびと育ったという。
港町で育った祖父は、子ども時代はいつも友達と海で泳いでいたこと。軍隊に入り、戦争を経験したこと。20代で祖母と結婚し、二人の子どもに恵まれたこと。仲間たちと会社を立ち上げたことが人生にとって大きな財産となったこと。
数々の人生のエピソードを聞いてきたが、そのどれもが私の知らない景色や出来事で溢れていて、そこには若かりしころの祖父の姿があって、とても興味深く眩しいものだった。
100歳を過ぎた今、祖父は生まれ育った今の日本をどのように見ているのだろうか。
施設に入るまでは、毎日のように私の身に起きた出来事やニュースについて語り合ってきた。けれど、最近は祖父の話を聞くことができなくなり、寂しさを感じている。
私の子どもを見て、ニコニコしながら可愛がってくれる祖父。祖父の子どものころの子どもとは、また違うタイプの子どものはずだ。子どもが持っているものも、着ている服も、学校生活も、何もかも違うはずだ。
「すごいなぁ、○○ちゃんは。」
と、いつも子どもを褒めてくれる祖父。
「沢山のことに挑戦するのもいい。けれど、一つ・二つのことを大切に、一生続けられる何かを見つけなさい。長く続けたら見えてくることがあるんだよ」
そう祖父は言っていた。祖父が何十年と続けたスイミングのおかげで、ずっと泳ぐという人生の楽しみがあり、スイミングのおかげで健康で長生きしてきたという自負があるのだろう。
84年も購読し続けている文藝春秋からも、祖父にとって大きな人生の財産なのだと思う。昭和から平成へ、平成から令和へ。祖父は、常に時代を感じながら、時代を読み解きながら、生きてきたのだ。
だからこそ、今の時代の子どもを見て、祖父の時代の子どもとは全然違うけれど、「一つ・二つのものを長く続ければ、必ず自分の財産になる」ということは変わらないと教えてくれているのだ。
これから100年後の日本はどうなっているだろうか。その頃、私の子どもは107歳になる。元気な祖父のひ孫だから、107歳の我が子がこの日本に生きていることが想像できる。
100年後は、私たち大人にとっては、生きていない確率のほうが高いだろう。けれど、今の子どもたちは生きているかもしれない、とても近い未来。
107歳になった子どもに聞きたい。
「今の日本をどんな目で見ていますか?」
「あなたは、何を長く続けてきましたか?」
子どもはなんと答えるだろうか。私は直接聞くことができない。けれど、107歳になった我が子の答えが少しでも良いものであってほしいと心から願っている。
そんな未来にするためには、100年後は生きていない私たちが、自分がいなくなったあとの未来に想いを馳せて毎日を生きていくことが大切だと思う。
今の時代を生きる私たち一人一人が、未来に想いを馳せて一生懸命に生きる。一つ・二つ一生続けられる楽しみや仕事など、なんでもいいから何かを見つけて、それに精一杯打ち込む。たったそれだけのことでも、この世界にいる一人一人がそんな行動をすることによって、世界は今より活気づいていくと思うのだ。笑顔が溢れると思うのだ。
そして、私にとって長く続けたい何かは、大好きな文章を書くこと。視覚障がい者当事者として、出来ることは何か、福祉について考え続け行動していくこと。
子どもにとっては何だろうか。まだ6歳の我が子にも、何か「これだ!」と思うものを見つけて、力強く生き生きと100年後に向かって生きていってほしい。
そして、世界中の全ての人たちにも。生き生きと生きていくために、打ち込めるものを見つけて生きていってほしい。
「100年後。どんな未来になっていますか?」
100年後の人々に聞いてみたい。
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