ダンサー・イン・ザ・サウナ
お世話になっております。サウナ愛好家でありアマチュア熱波師のじゃがです。突然ですが、熱波してますか?
私は10年以上前からサウナにハマっていますが、ここ2年ほどでサウナの先にある熱波(アウフグース)の世界にハマってしまいました。さらに熱波を受ける側だけでなく扇ぐ側の世界を見てみたいと熱波師検定Bを取得、挙句の果てにアマチュア熱波師の聖地たる新宿区役所前カプセルホテルで2021年4月にデビュー、秋頃から大体月1のペースで熱波の舞台に立たせてもらっております。
一方、私は学生時代から長らく社交ダンスをしており、今も競技会に出場する現役の競技ダンサーでもあります。平日の仕事が終わった後や週末を利用して踊っており、レッスン後に教室がある神田セントラルホテルのサウナで汗を流すことを何よりの喜びとしています。
というわけで、サウナーであり熱波師であり社交ダンサーでたる私。サウナー目線でサウナについても語っても一つも面白くないけど、ぼちぼち知見のある社交ダンサーの目線でサウナ、とりわけ熱波やアウフグースについて掘り下げたら面白いかな〜と思いついてこの記事を書きます。
社交ダンスについて
社交ダンスの歴史的なことを深く説明すると死ぬほど退屈なので、ざっくり現在の社交ダンスについて概略説明します。割と長いけどついてきて!
種類
まず大きく分けると「スタンダード」と「ラテンアメリカン」の2つの部門(専攻)があります。
こちらがスタンダード。燕尾服を着た男性がふわふわしたドレスの女性と組んで優雅にクルクル回転して踊ります。いわゆる「社交ダンス」というとみなさんコレをイメージするんじゃないですかね。見かけどおりヨーロッパ上流階級の高貴なお遊びがルーツ。スタンダードダンサーの特徴としては、欧米発祥な競技だけあって平均身長が高くスラっとした体型、また男性は七三分け+刈り上げ+ハードスプレーで髪をビシッと決めています。街中で異常に姿勢が良い刈り上げの高身長男性がいたら大体スタンダードダンサーなので声をかけてみましょう。
こちらがラテンアメリカン(以下「ラテン」)。おはだけした男性とこれまたおはだけした女性が情熱的に踊ります。その名のとおりアメリカ圏発祥で、ウリナリや金スマで芸能人が挑戦してるのはこちらです。身体を目一杯パワフルに使って踊るので、ガタイ良いガチムチマッチョな選手が多いです。典型的なラテンダンサー像は映画「Shall We Dance」の竹中直人を想像していただければOK。また、アジア圏の選手はセルフタンニングローションを塗ったり日焼けしたりして身体を浅黒くします。気合い入りすぎて黒光りしてるヤツもいます。
次に部門ごとの種目。スタンダードとラテンアメリカンそれぞれ5種目ずつあります。スタンダードはワルツ、タンゴ、ヴェニーズワルツ、スローフォックストロット、クイックステップ。ラテンはチャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソドブレ、ジャイブ。それぞれテンポや曲調が種目ごとに異なり、例えばワルツは三拍子で28~30BPM(※)と深みあるゆっくりした曲調であるのに対し、クイックステップは四拍子で50~52BPM(※)で軽やかな速いテンポの曲調です。日本人になじみ深い曲でいえば、ワルツは「朧月夜」、クイックステップは「Sing,Sing,Sing」でしょうか。
※社交ダンスのBMPは小節/分を指します。いわゆるBPMに換算するとワルツは三拍子なので84–90 BPM、クイックステップは150–156BPMです。
競技団体と方向性
ここから社交ダンスを掘り下げて競技ダンスの話をします。言葉の定義としては競技会のような競技における社交ダンスが「競技ダンス」です。
まず競技団体。これが少しややこしいです。大体のスポーツってすべての組織を統一する団体があるところ、社交ダンスの場合は大きく分けてWDCとWDSFの2つの団体があります。やってることは同じ社交ダンスなのですが、同じお笑いでも漫才とコントくらい違います。ざっくりいうとダンスの方向性が違う。スタンダードの競技会でその違いを見ていきましょう。
こっちがWDCの競技会のシーン。クラシカルな曲でゆったり優雅に踊っています。ダンスの方向性も男性のリードと、そのリードを受けた女性のフォローといった二人の調和を見せるものを良しとしていて、WDC系のダンスはエレガントで多幸感のある世界観が特徴かなと思います。WDSFと比べるとクラシックで渋いダンスを踊るダンサーが多いですね。
こっちはWDSFの競技会。どちらも種目はワルツですが、違いわかりますかね?WDSF系は競技・スポーツとしてのダンスに舵を切っており、身体能力をフルに使ったダイナミックで見栄えするダンスです。競技会で使われる曲は流行りのポップスのアレンジもあります。ダンスに対する知見の無い観客としては良し悪しはともかくWDSF系のダンスの方がわかりやすく観てていて楽しいので、社交ダンスの魅力を伝えるならWDC系よりWDSF系のダンスを見せると伝わりやすいと思っています。ウリナリや金スマみたいなTVでやっている競技会の競技団体は全てWDSF系です。
日本の競技団体と方向性
その日本にもそれぞれ下部組織としての競技団体がありますが、WDSF傘下にはJDSFがあるのに対し、WDC傘下ではJBDF、JDC、JCFという3つがあります(※)。本当は3つ以外にもWDC系の小さな団体があるのですが、存在意義が私にはわからないのでカウントしません。(下は@tanaken95さんより。)
※最近になってWDCが分裂してWDOという新競技団体が誕生しました。日本の競技団体はJDCがWDO傘下になりました。今回では論点にする必要がないのでは以降は触れません。
JBDF、JDC、JCFとでダンスの方向性は特に変わらないのですが、所属している選手や競技会の観客へのアプローチが違うかなと思います。
3つで一番大きな団体はJBDFで、所属する選手のレベルの高さは他の2つが束になっても敵わないほど高く、年に一度開催される、3団体でプロ社交ダンスの日本一を決める大会でも決勝のメンツはほぼJBDF勢です。ただ、運営は目に余るほどグダグダで、選手層と選手に集まるファンで持っているような団体です。他方でJDCやJCFは所属選手は少なく、正直私でもプロで通用するレベルな気もするのですが、お客さんを楽しませることを運営としても考えている印象です。例えば、JDCで一番大きな大会ではミュージカルをなぜかやるなど、競技会以外のところでもお客さんを楽しませる新しく面白い取り組みを沢山やっています。
評価方法と評価基準
競技会では複数(大体7〜11名)の審査員が選手を審査します。予選の審査員の選択肢は超シンプル。選手を次のラウンドに上げるor上げないの2択でチェックするチェック方式で、審査員の過半数のチェックを集めた選手が次の予選に通過します。最後まで勝ち上がると決勝戦。決勝は予選と異なり一度に踊る選手全員に順位をつけるスケーティング方式で審査します。全審査員の順位を集計して、良い順位が最もたくさん入っている選手が優勝です。
↓わかる人皆無だと思いますが、採点結果はこんな感じ。
http://jbdf-ejd.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2018/02/210306AprS.pdf
ダンスの審査には明快な評価基準があるわけでなく、審判は選手のダンスを自分の主観というか好みでジャッジします。なので審判が変われば選手への評価も変わるもので、前の競技会では勝ち上がったけど次はボロカスに予選で散るということが往々にあります。変な話、好みの世界なので「この選手は知り合いだからな。チェック。」「おっ、イケメン。チェック。」という肝心のダンス以外で、贔屓や政治でジャッジをされる場合も往々にしてあります。上のレベルほどこの問題は顕著で、選手的にはなんでこいつが俺より良い評価されるの!?的なジャッジがかなりあります。クソッ!
この「主観で決まる審査方式」の欠陥は採点競技の宿命であり、競技ダンスは評価が難しいと言えばそれまでなのですが、競技団体が頑なに変えてきませんでした。ただ、WDSFが競技ダンスの五輪加入を目指すようになり、大きな競技会では準決勝から数値的な評価基準で結果を示す絶対評価方式を導入し始めました。選手には公平に、観客にはわかりやすく点数で順位が示されるので、なんとなく納得した感はありますね。
↓さらにわかる人皆無だと思いますが、こんな感じ
https://adm.jdsf.jp/result/211115/Result_01_400.html
選手
大抵の選手はスタンダードかラテンもどちらも踊れるのですか、競技をする上ではどちらかの部門を選び、選んだ方だけを練習をして競技会に出ます。野球選手に投手野手があるように、この選択は競技ダンサーにとって一つの運命の分かれ道です。稀に、スタンダードとラテンアメリカンを両方やる「10ダンサー」と呼ばれる二刀流な人種がいますが、大抵中途半端なことになっており、各部門のチャンピオンに本当の意味での10ダンサーが立ったことはありません。
また、どのスポーツにも言えることですが、選手は大きく分けてプロとアマチュアの2つがあります。プロは自分の所属している競技団体の競技会しか出られません。また、日本ではほぼ全てのダンス教室のがWDC傘下の競技団体に所属しているので、日本ではプロになるイコールWDC系のクラシックなダンスを踊ることを指します。一方、アマチュアは基本的に全競技団体の競技会に出ることができ、WDC系のダンスをしているけどWDSF系の競技会に出るということが往々にしてあります。ダンスの方向性の違いで審査員の評価はかなり変わるので、器用な選手は団体に応じて自分の踊り方を変えたりします。
あと、社交ダンスはというか全てのダンサーに言えることですが、人前に立つ類いのダンサーは全員ナルシストです。醜聞本能がある限り、踊っている自分を恥ずかしく思っている限りは良い表現はできません。逆にいうと、自分をカッコいいと思えることがダンサーとしてのスタートであり、鏡や動画に映る自分を「あらやだ…カッコイイ…」と思えるようになって一人前といえるでしょう。ダンスの練習場ではあらゆるところに鏡が置いてあり鏡大好きダンサーが前へ前へと好ポジションを争う光景を見られます。
プロアマとモチベーション
選手が上を目指して踊る理由、ダンスを踊るモチベーションについて。
まず、プロ選手は言うまでもありませんが、ダンスで飯を食っている人たちです。ほぼ全てがダンス教室に所属している「ダンスの先生」で、教室に通う生徒に社交ダンスを教えたり、発表会的なパーティーでお客さんと踊ったり、イベントにゲストで呼ばれたりして収入を得ています。
ダンスにおける「上手い」の客観的指標としてピラミッドのような持ち級制度があります。お客さんも先生に習うなら上手い先生がいいわけで、先生は競技会で勝ち、級を上げることで自分の価値を高めます。お客さんも自分の推し先生が競技会に出るときは頑張ってほしいわけで、応援用のうちわや横断幕つくったりして、そんな先生が100人とか出る競技会はアイドルのコンサートみたいな熱気になります。また、団体によっては競技会である程度の成績をおさめ続けていないと降級します。競技会に出て踊る=生きるために必要なことなわけで、みんな必死です。
2020・2021年度は全競技団体がコロナで競技会が軒並み中止になり、特別に降級無しとなりました。その結果、競技会に出場するプロ選手がグッと減りました。その中でも競技会に出場するプロ選手は、自分を応援してくれる固定ファンが離れないために踊っている印象でした。大半のプロダンサーは、自分の名誉とか競技会で踊るのが楽しいとかいう、エンジョイなモチベーションで舞台に立っていないのかなと思っています。
次にアマチュア選手。競技人口の大半が学生だったり社会人で、ダンス以外の本業を持っています。ただ、ごく一部のトップアマはプロのように教室で教えたりしています。(これがまかり通る理由は私もよくわからない)
周りを見る限り大抵のアマ選手が踊る理由は「楽しいから」だと思います。競技会で勝つことが楽しいから辛い練習も頑張れる。ダンス仲間とワイワイするのも楽しい。音楽に合わせて身体を動かすことが楽しい。私もアマ選手の端くれで今も競技会に出ているわけですが、価値を見出して取り組むライフワークがあり、切磋琢磨する仲間との居場所があることが、人生を豊かにさせている気がします。あと、運動する習慣にもなるしね。
ダンスに目的を見出し踊る(ことが許される)のがアマ、ダンスを手段を見出し踊るのがプロなんだと私は結論づけています。
まとめ
長くなってしまいました。。
社交ダンスの要素を説明し、「方向性の違い」「評価の難しさ」「選手が踊るモチベーション」という論点に触れ、それぞれの構造を因数分解してみたつもりです。
論点ごとにポイントをまとめると
●方向性の違い
・同じ社交ダンスでも地味系と派手系というように方向性の違いがある
・競技団体が分かれていてそれぞれに所属選手と観客がいる
●評価の難しさ
・採点競技である限り主観で良し悪しが評価される。
・ダンスが競技として社会的地位を得るには統一の評価基準が必要
●選手のモチベーション
・プロとアマで舞台に立つモチベーションの根源が違う
・プロはお客さんに支えられて生きている
というところですかね。
社交ダンスを熱波に置き換えてみる
ようやく今回の目的です。ここまでついてきたキミ、今度サウナ室で抱きしめてやる!
私は異分野融合について考えるのが好きで、構造が似ている2つの分野は親和性があり、手法を応用できることが多いと思っています。例えばスポーツで言えばトラック競技である陸上と球技である野球は全然別物ですが、身体を使うという点では同じなので、陸上のコーチが野球選手を指導したりしますよね。
そんな感じで、社交ダンスとサウナ、とりわけ熱波を取り巻く構造って似ているなと思っています。具体的には、お客さんに対する色々な意味でのパフォーマンスをサービスにしているという一連の構造です。そこで、ケーススタディ形式で社交ダンスを媒介に熱波のことを考えてみます。
ケーススタディ:素面サウナシアター事件
先日、横浜SKYSPAのサウナシアターで大阪のアウフグースチーム「素面」がアウフグースショーをしたのはご存知でしょうか。日本のサウナ&熱波シーンの主流は関東(数的な意味で)ですが、素面はそれに抗うように関西で腕を磨き続け、SNSで自分達のパフォーマンスを発信し続けてきました。
そんな素面がチームで関東に来てサウナシアターに来る!西の風が東に吹くぞ!ということで、有料のプレミアムチケットはSOLD OUT。迎えた当日、素面は期待に120%応える圧巻のパフォーマンスを披露してサウナシアターの観客は大盛況!かくいう私も後日にTwitterに上げられた動画でサウナ室の異様な熱気を画面越しに感じ、素面すげー!って興奮しました。
他方で、拡散された動画を観た旧来からのサウナファンはショックが大きかったようで、「こんなの俺の知るサウナじゃない」「サウナ室の外でやれ」「SKYSPAにはがっかりした」と非難轟々。まさかの炎上に弁明が入って、さらに火に油が注がれて…という感じ。
もはやこれはサウナ界における事件と言っていいと思うのでケーススタディとして取り上げ、各論点を社交ダンスを媒介にして考えたいと思います。
構成要素
考えるにあたって、社交ダンスの構成要素をサウナ界で置き換えてみます。こうすると構造が結構似てるでしょ。
●競技団体→サウナ施設
競技団体が競技会という舞台を運営、選手の踊りを観にお客さんが集まる。
↓
サウナ施設がサウナ室を管理、熱波師の熱波やパフォーマンスを求めてお客さんが集まる。
●選手→熱波師
競技ダンスでは地味系と派手系の2つの方向性がある。また教室に所属してダンスで飯を食ってるプロや、本業が別にありダンスを楽しむアマチュアがいる。
↓
従来のうちわやタオルでお客さんに向けて風を送ってお客さんを満足させるスタイル、タオルまわしなどのパフォーマンスでお客さんを満足させスタイルがある。プロはサウナ施設に所属するスタッフで仕事として熱波をする。アマは本業が別にあり仕事でなく趣味として熱波を楽しんでいる。
●お客さん→お客さん
競技会で選手を見たりや教室で先生と踊ることで満足を得る。
↓
サウナ室で熱波師に扇がれたりタオルまわしを観ることで満足を得る。
ここで違和感を気づいた方もいると思いますが次行きます!
経済の流れ
上記を踏まえ、社交ダンスとサウナという似た世界観の経済構造をそれぞれ図にしてみるとこんな感じでしょうか。(図が下手でスイマセン。。)
社交ダンスの世界では、競技団体が競技会を運営してお客さんは選手のダンスを観るために会場に行き観客として入場料を支払う。お客さんは気に入った選手がいたら生徒としてレッスンを受けに行ったりする。
サウナの世界では、サウナ施設がサウナ室を管理してお客さんは熱波を受けにサウナ施設に行き入場料を支払う。お気に入りの熱波師が扇ぐときは、お客さんは有料のプレミアムアウフを受けたりプライベートなイベントに呼んだりする。
ここまで来ると気づいた方もいるでしょう。このサウナの世界はお客さんが熱波師に価値を見出し、熱波師を目的にサウナ施設に行く世界なのです。
サウナブームと共に日本のサウナシーンは急速かつ着実に変化しています。特にトップランナーたるサウナ施設には熱波師がいたり、イベントで熱波師を呼んだりしており、人気施設の陰に熱波師ありといえます。また、熱波師もクラシックスタイルよりパフォーマンス重視が増えたり、人気熱波師の熱波は有料となることも増え、お客さんが熱波師目当てにお金を払う構図が増えています。結果的に、熱波師と共にサウナを盛り上げるサウナ施設が目指す経済の方向は社交ダンスのようなショーの世界を目指しているのかなと思います。
ただ、従来のサウナ界はこんな感じで、お客さんはととのい体験に価値を見出し、サウナ室を目的にサウナ施設へ来ています。仮にこの楽しみ方をクラシックスタイルとしましょう。クラシックスタイルのサウナーは喧騒を忘れてサウナ室でじっくりあたたまりたい。熱波もあれば受けるけどあくまでも自分の身体に熱を気持ちよく効果的に入れるための手段であり脇役。なので熱波は風が来てナンボであり、タオルまわし重視の熱波師をみると、タオル回すより風送ってくれ…というのがクラシックスタイルのサウナーが思う事でしょう。
施設や熱波師が新しい方向性に舵をきるのはいい。ただ、「舵をきってるぞー!」「クラシックスタイルの人ついてきてよー!」という姿勢を旧来のファンに伝えられていない。正直、最近のサウナ界で起こる小競り合いの原因のほぼ全てがニーズとサービスのミスマッチにあると思っています。「サウナ」という1つの言葉でくくれないほどにサウナに対するニーズとサービスは分岐するほどの転換期が、サウナ界に到来しているのだと思います。
スカイスパの功罪
そのミスマッチの顕在化がサウナ界のトップリーダーたるスカイスパで今回起きたということは注目すべきでしょう。
スカイスパの動向を見ているサウナファンであれば、スカイスパという施設の方向性の変化はきづいていたはずです。
スカイスパ所属の熱波師である箸休めサトシさんは、かねてよりアウフグースの国際化を見据えて活動していました。昨年3月7日にAufguss Professional Team(APT)の設立と、スカイスパ所属の熱波師達でアウフグースチーム「Sylph」の結成を表明。9月にはSylphのメンバーである五塔熱子さんとポーランドで開催されたアウフグースの世界大会に赴き、エキシビジョンで日本の熱波師としてパフォーマンスを披露しました。
帰国後は国際サウナシーンと日本サウナとのギャップ、特に国際大会が開催できるサイズのサウナが無い問題を提起し、世界大会に同行していたスカイスパの金社長もこれに賛同する形か、スカイスパは一大リニューアルを決行。約70人が収容できるバケモノ級キャパのサウナ「サウナシアター」をオープンし、本格的なショーができる世界基準サウナが日本に誕生しました。
私は以前にドイツのサウナでアウフグースを受けたことがあります。ドデカサウナで蒸されに来てるお客さんは50人はゆうに超え満員。アウフギーサーが登場すると、サウナ室は待ってましたー!みたいな空気感。お客さんは熱波を受けにも来てるけど、タオルパフォーマンスも楽しみたくて、その両方をハイレベルに満足させられるアウフギーサーを目当てにこの満員のお客さんはサウナに足を運んでいるのだなと思わせる、日本では感じられない熱量が当たり前にありました。スカイスパと箸休めサトシさんが目指しているのはそういった世界基準のサウナ文化であり、日本のサウナ界の国際化のために、トップランナーとしてあるべき行動をしてきたのだと思います。
ただ、スカイスパは長年老若男女あらゆるサウナーをととのえてきた実績がありすぎました。ここまでの伏線を張ってきても、クラシックスタイルのサウナーにとってスカイスパはととのわせてくれる場所として認知されすぎていて、ショーパフォーマンス方向に舵を切ったことが十分に伝わっていなかったのだと思います。特にコロナ禍もあって沈黙を是とし美とする熟練サウナー多きSNS界にとっては、サウナの脇役であるべき熱波師が主役としてタオルパフォーマンスをサウナ室で縦横無尽に繰り広げる様、さらにお客さんもそれを120%受け入れ、サウナ室がさながらフェスのような熱気に包まれている光景は、自分の知っているスカイスパと別世界すぎて、拒絶反応が起きたのだと思います。
方向性と転換期
話をダンスに戻しましょう。同じダンスでもさまざまなジャンルがありますが、さらに同じジャンルでもパフォーマンスが一定の限界レベルまで成熟すると、方向性の違いが生まれるわけです。社交ダンスでいえばクラシカルな世界観を是とするWDC系とド派手でスポーティな方向性を是とするWDSF系。この方向性の違いダンス界はどう向き合っているのか?
ダンスの世界では方向性の良し悪しを判断するのはお客さんです。良いものは評価され悪いものは淘汰されるだけです。だから、ダンサーはお客さんに対しなぜこの魅力がわからないのか?と理解を求めるような真似はしません。自分の魅力を発信することはあっても、こんなに頑張ってるんだから評価してよと、同情を求めるようなダサい真似もしません。自分の方向性を信じ、ついてくるお客さんに応えるべく黙々と努力を続けるのみです。
お客さんのとるべき選択肢はもっとシンプルで、見たいダンスを見て金を落とす。それだけ。社交ダンスでいえば競技団体ごとに方向性が明らかなので、WDC系のダンスを観に来たのにWDSF系のダンスだったという現象は存在しません。あらかじめ方向性を明らかにしておくことで、ミスマッチは防げるってわけ。
ただ、どの分野にもアンチはいます。特に主観で評価される世界には、どう頑張っても方向性が合わない人というのが必ずいます。私のダンスの話になりますが、競技会では自分のことを全く評価しない審査員というのが大体存在します。そういう場合はムキになってアプローチしても絶対に振り向いてくれないので、「わかってくれない人」と割り切るに限ります。(そういう審査員ほど、決勝戦で私に順位をつけざるを得ない場面では意外と良い順位入れます)
だから、サウナ施設や熱波師もとるべき選択肢はシンプルで、方向性をお客さんにわかりやすく提示し、外野に変に媚びることなく、自分の方向性を信じて突っ走ればいいと思うのです。そうすればそのうち自然とファンだけでなく時代もついてきて批判する人も方向性が違っていただけだと気付けるのだと思います。今は分かり合えないアンチも考えが変わってファンになる可能性があります。
2020年のM-1でマヂカルラブリーが優勝した時にあれは漫才なのか!?と当人そっちのけで漫才論争が起きました。今回の素面サウナシアター事件はそれと全く同じ現象が起こったのだと思います。サウナブーム、熱波ブームも論争が起こるまで盛り上がってきたかと、文化の進化を目の当たりにしているんだなという気持ちです。あとしばらくしたら今のマヂカルラブリーのように、論争を起こした素面の衝撃パフォーマンスは伝説的に評価されている流れに落ち着くんじゃないかな。もしかしたら見えないところでまだ漫才論争している人がいるかもしれないけど、そうこうしているうちにランジャタイみたいなさらに評価に困るのが出てきましたね。どうするのかな。
唯一無二の例外
ここまで、日本のサウナ界の一部施設が海外のようなショーアウフグースの世界へシフトしようとしていることと、それに対するお客さんがついていけてない問題、その解決策として自らの方向性をわかりやすく明示して、自分を信じて突っ走るべきであるということを話しました。
また、お客さんがついていけてない問題の原因として、熱波師を目当てにサウナに足を運ぶ文化が日本にはなかなかに根付いていないことを挙げ、日本のサウナーの大半はクラシックスタイルであり、パフォーマンス的な熱波は受け入れられづらいようなことを言いました。
ただ、例外があります。
そう、熱波道です。
おあとがよろしいようで。
これからサウナ界で起きると思うこと
最後に、サウナブームによって日々着々と成熟するサウナ界で、社交ダンサー視点でこれから起こると思う論点を挙げたいと思います。ここまでで1万字を超えさすがにどうかしていると思うので、あっさりいきます。「アウフグースの競技化」です。
箸休めサトシさん率いるSylphをはじめ、世界を目指すことを表明したアウフグースチーム・アウフギーサーが着々と増えています。また、かねてからの課題だった国際基準のサウナ室もサウナシアターの完成によりクリアされたので、早ければ2022年にはアウフグース世界大会に出場するための日本代表を決める競技会が開催されるのではないかと思います。
ここで、審査員の議論が絶対に起こります。まず採点基準がどれだけ公平なものになっているか。特に「芸術点」のような主観で決める項目があった場合に、それを誰が審査するのか。スカイスパ関係者が審査員となりSylphのパフォーマンスに良い点数を付けようものなら波風が立つでしょう。日本にアウフグース日本代表を決められる資格がある審査員がどれくらいいるのか。海外から利害関係のない審査員を招聘できるならこの課題は解決します。
また、勝敗の議論もあります。パフォーマンスに勝敗がついた時に敗者やそのファンは納得ができる審査基準があるのか。国際的な審査基準で決した勝敗や、そもそもアウフグースの競技化に日本のサウナーは何を思うのか。出場資格やプロアマの議論も出てくるでしょうか。ただ、議論が深まるほどに、その先に良い世界が待っているものだと思います。
最後までついてきたキミ、今度サウナ室でギュッと抱きしめてやる!
ではでは。
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