俺が公園でペリカンにした話という話
大変ご無沙汰しております、みちるです。
未だかつてない程の財政難なんです。
「何にそんなに使うことがあるかね」
わかりません。使途不明です。
毎月毎月、普通に実家で暮らしていればさほど困らないくらいにはアルバイトで稼いでいるはずが、どうしてこのようにかつかつの生活をおくらなければならないんでしょうか。
しかし使途不明と言いつつクレジットカードの月ごとの請求画面を見てみれば
「ああ、こんなこともあったね」
と、何だか卒業アルバムを眺めるときのような言葉が口からこぼれてきます。どうやら毎月定額を支払う用事に加えてそれなりに大きな出費を2,3ずつ繰り返しているせいで一分の隙もみせられない状況が続いているようです。
財布の口周りは厳戒態勢、しかしキャッシュレス社会においては来月の約束が通用するので詮無い。今月は先月分の”約束”を果たし、旅行の予定まで立ててしまいました。これくらいであればぎりぎりなんとかなるかなという感じがするのですが、好きな作家の新著情報(限定版予約受付3/13〆切)が目に入り、熟考の末に購入。今月に入ってから後払いを多用していることもあり、4月の支払いが不安でたまりません。
来月には新学期が始まるので大学と家の往復+アルバイト、それぐらいしか外出の用事はないでしょうし、なんとかやっていける気もしますが。果たして。私ってどうなっちゃうんでしょうか。
(間奏)
先に少し触れたが、敬愛する平山夢明御大の新著が出た。正確にはこれが四月上旬発売となるため、新著が出る、ということになる。先程この情報を目にしたのだが、これは嬉しい。
ウォッカを呷ったように目の覚めてくる嬉しさというか、嬉しさでなくとも眩暈のするような強い刺激を受け取ること自体が私の生活においては稀なことだから、正直今の自分の状態には驚きさえおぼえている。
平山さんの書く小説についても、とりわけ初読の際は大きく文藝筋と情緒とを揺さぶられる。私は毎度疲弊してしまうのだけれど、こういうのも悪くないと思ってしまうから不思議だ。
今回新たに出版されるのは『俺が公園でペリカンにした話』という話で、これが2011年に『小説宝石』で表題作を発表して以来現在に至るまでぽろぽろと産み落としてきた短篇を纏めた冊子になっている。『小説宝石』への作品掲載という事実については何度かネット上で観測したことがあるが、内容についてはどれも未読のはずである。
どうしようもない登場人物たちが酷い目に遭わされたり遭わせたりという物語が目にも耳にも馴染みのないような頓狂な言語表現を以て展開される平山作品は一話読み切るのに莫大な体力を消費するものも多いが、どの作品も一頁読むと次を確認せずにはいられなくなってしまう。毒か薬かといえば毒寄りの猛毒(しかも激臭を放っている)なのだが、こちらは元より毒の幻惑を快として受け取る身体だから有難がってこれを食らってしまう。あなたの身体がどうであるか、パッチテストをやるなら「ミサイルマン―平山夢明短編集(光文社、2007年6月)(※1)がおすすめ。このセレクトに対する賛否は様々あるでしょうが。
平山フリークとしては何を読んだって面白いんだからとにかく全部読め、と「文字禍」よろしく相手が圧死するまで本を押し付け続けることも出来てしまうが、実際のところ平山夢明の名を広く世に知らしめているその由縁ともいえそうな「東京伝説」シリーズ、実話怪談の類から入門するよりは上に示したような短編集から読みはじめる方がはるかにその文章的魅力を受け取りやすいことだろうと思う。後は映像化もされている「DINER」という長編が有名でかつ大変な傑作なのだが、個人的にこちらは平山の書くものの基礎体温めいたものに肌を馴染ませてから見てみるとより退屈せずに読めるのではないかと思っている。しかしまあ、もし興味を持ってくださるのであれば何からでもよろしいので一度眺めてみてほしい、出来れば創作の小説を。
――いけない、気を抜くとすぐシュミを押し付けてしまう。今はそう、ペリカンの話だ(本当はペリカンにした話の話だ)。そのペリカンは常識的なサイズの単行本で出るらしいのだが、それとは別に限定版として物理的に巨大なサイズの書籍となって様々の特典を引っ提げて22,000円で販売されるという(!)
どんなユーモア?
電子書籍で情報が摂取できる現代に芽生えた反骨精神の一番馬鹿馬鹿しい部分だけを抽出してアウトプットしたんだろう。そうじゃなきゃ、こんな企画が通るわけがない。そしてそんな馬鹿馬鹿しさを好んでそこに金を出す方も方。
買いました。
特典のなかには京極夏彦さんを呼びつけて開催するオンラインイベントのチケットも引っ付いており、特大のため息を吐きながらもこんなのはもう見ないほうが馬鹿をみるじゃないかと思ってしまった。嗚呼、かくして巨大な本が届いてしまうことが確定。巨大な、巨大なペリカン。内容についてはまた後日。以上、財政難の解消されないただ一人の人類でした。
またお手紙書きますね、大好きです。 みちる
※1:2010年「ミサイルマン」に改題