毎日、100万円を使うことにする。
毎日100万円、なにを買おうかな。
想像するだけでドキドキする。
スーパーマーケットで、今日は野菜が高いなあと嘆息しなくていい。
納豆も高い方を選べる。バターの値段も気にしなくていい。
天国にいる気分だ。最高だなあ。
そんな妄想しかできない貧乏症のぼくは、ニュースで見た
「東芝の赤字が1兆円」
という数字。
これがよくわからない。
家計簿はつけていないけれど、毎月1万円の赤字のほうが切実に迫ってくる。
1兆円という数字の規模が、ぼくの感覚にはまったくない。
「金額の規模がデカすぎると実感がわかないだろう?」
むかしお世話になった映画監督が教えてくれた。
いいか、こばやしくん、こう考えてごらん。
「毎日100万円を使うことにする」
監督はおっしゃった。
「10日で1000万円。100日で1億円。1年でいくらになる?」
「えーと、3億6500万円ですね」
そう答えたら、監督は真顔になった。
「大化の改新、知ってるだろ?」
「は?」
「日本の歴史で習ったろ?」
「はあ…645年、大化の改新」
2017年の現在から見て、645年は1372年前。
「645年から毎日100万円を使っても、5007億8千万円にしかならない」
日本に元号ができた年からおよそ1400年。
毎日100万円つかっても5000億円強。
「大きなお金の規模がわかるだろう?」
と、監督は笑われた。
では1兆円を使うって、何年間かかるのか。
1兆円 ÷ 3億6500万円(1年間) ≒ 2740年
3000年に近い。
いまから2740年前は、紀元前723年。
年表を引きずり出してみた。
中国は春秋戦国時代の前、「周」の時代。
ギリシアではホメロスが活躍し、ソクラテスやプラトンが生まれる300年以上も前のこと。
もちろん日本のことは、縄文時代としか記載されてない。
東芝の1兆円の赤字の規模が、やっとぼくにもぼんやり伝わってきた。
スケールを置き換えて物事を見ると、視点がかわってびっくりすることが多い。
こどものころ、「地球カレンダー」の話をきいてすごく驚いた。
地球の歴史はおよそ45億年といわれている。
それを1年間のカレンダーに置き換える。
1月1日午前0時0分0秒に地球が生まれたとして、今日までの時間軸を12ヶ月に当てはめてみるというわけだ。
45億年 ÷ 12ヶ月 ≒ 3億7500万年
1ヶ月は3億7500万年に相当する。
ざっくり言うと、地球に海ができたのが41億年前で、換算すると2月9日あたり。
2月25日あたりで、最初の原始生命らしきものが誕生する。
それからずっとぶっ飛んで、9月27日あたりで、やっと多細胞生物が現れる。もう秋も終わりです。
11月20日ごろ、海に魚類がでてくる。
11月29日、魚類が両生類に分かれ陸に上る。
12月13日、やっと恐竜が出てくる。
人類がでてくるのは、いったいいつなんだ?
ホモ・サピエンスが現れ出てきたのは20万年前だそうだ。
換算すると、
12月31日23時37分。
大晦日もいいところ。もう年が明ける直前、23分前。
12月31日23時59分46秒、キリスト生まれる。
紀元後2000年は地球カレンダーでは、15秒間しかない。
逆算すると1秒間は、およそ143年間。地球からみると、ぼくの人生って、わずか半秒しかない。
スケールを変えてしまうと、人生観まで変わってしまいます。
1970年代初頭、少年マガジンで連載されていた松本零士先生の「男おいどん」という漫画があった。
「おいどん」こと大山昇太は、東京の四畳半に一人暮らす浪人生。
受験のために九州から出てきたが、貧乏この上なし。四畳半の押し入れに自生する謎のきのこ「サルマタケ」を食べて生活している。
その「おいどん」が腹痛で寝込んでしまう回があった。
おいどんには病院に行く金も、薬を買う金もない。ただ丸くなって寝て、痛みが去るのを待つ。
その時、おいどんは自分に言い聞かせる。
「大宇宙の広さに比べれば、おいどんの腹の大きさなどないに等しい」
痛みなど幻想だ、とでもいうわけだ。
さすが後年「銀河鉄道999」を描かれた松本先生。視点が宇宙サイズにまで広い。
おいどんの迷言は、いまだにぼくの記憶から消え去らない。
いくら長く生きていても、人生から悩みや不安などなくなりはしない。年齢に応じた苦しみはあるものだ。
日々そうしたものに襲われた時、ぼくはスケールの置き換えを想像する。
地球の歴史、宇宙の大きさ、お金の規模を自分のサイズと比べると、自分が抱えていた悩みや不安がとてもちっぽけなものに思えてくる。
「座って半畳、寝て一畳、飯を食って2合半」
人間はそんな大きさしかない。
まあそんなものだと思えば、見えない明日もなんとかなるか。
ただ毎日100万円を使えるような身分にはなってみたいですけれど。
(2017年4月22日記)