わずか一言、短文の名手か!?
日に日に、そいつの存在が気になりだした。
思い切って、向かい合うことにした。
「こ、これは…!?」
たいそうに構えたけれど、なんということはない。
某日記サイトのページ間にときおりあらわれる一行広告のこと。
前々からぼくは、このわずか一行の言葉が妙に気にかかっていた。それでクリックした。
跳んだ先は、アマゾンのサイト。
つまり一行広告はアマゾンで販売している映画のDVDやビデオの宣伝文だったわけ。
まるで映画のタイトルあてクイズみたいで、面白くなってしまった。
わかりやすいものもあるけれど、
「ん?」
と考えてしまうものもある。
「スターウォーズがベストSF映画かこっちがベストSF映画かで年齢がわかる」
これ、わかります?
答えは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。なるほどー。
「ヴァーチャルな世界でカンフーをする理由は、『だって、カッコいいじゃん』って監督が言ってた」
これは「マトリックス」。まるでタダのオタクの言葉。
写真にあげた「この映画からハリウッドが少し変わった、暖かくなった気がする」が「フォレスト・ガンプ」。わかるわかる、とうなづいてしまう。
気がつくとぼくは、この広告を目当てに画面をひたすらスクロールしている。そして答え合わせをするようにクリック。さらに、文章をコピペまでしてファイルをつくってしまった。
なかでも、いくつかおもしろかったもの。
「これを飛行機の中で観て感動したって言ってる友だちがいてモヤりました」
なんだよ、それってとつっこみ、クリックすると「ゼロ・グラビティ」。笑ってしまった。
コピーを考えたのは、どんな人なんだろう?
相当な映画好きなんだとは思う。プロのコピーライターなんだろうか、それとも映画好きな人がアルバイトでやっているんだろうか? まさかアマゾンの社員なんてことはないだろうけれど、もしそうだとしたら会ってみたい。
一番吹いたのが、
「宇宙ヤバい」
そのひとことだけ!? 宇宙ヤバいって…これが宣伝か!?
でも惹かれてしまう。ポチとしてしまう。
答えは「コンタクト」。
ここまでくるとすごい腕前なのか、適当なのかさえもわからない。
短文はとても難しい。
日本には俳句や短歌と云った短文の王様がある。わずか数十文字で読み手のなかに、情景を浮かばせ、心を揺り動かすチカラを秘めている。長い装飾文をぎりぎりまで削り落とした美学。Twitterが他国より日本での利用者が多いのは、短文に親しんだ文化が底辺にあるからかもしれない。
万葉集を始め、日本には多くの傑作名作の歌集があるが、ぼくの中でいまだに、王座をしめている短文集がある。
ご存じの方も多いはずだ。
「点取占い」
これはすごい。
こどものころから駄菓子屋にあった、いわゆるくじみたいなもんである。
そのくじを開くと、ヘタウマな絵とともに点数が書いてある。問題は、占いと言いながら、まったく占いでもなんでもない意味不明な言葉が書いてあるのだ。
なんだ、これは? 水をかけたって、占いじゃないよ。ただの行為だよ。
こどものころ、このくじをひらくたびに、異次元にでも放り込まれたような不可解な感覚を味わった。
今読んでも、やっぱり意味不明。ところが、大人になって変わったことは、なぜかじわじわくる感覚をおぼえてしまったこと。
ネットでもかなりの方がハマっているらしい。
調べると製造元は東大阪にあるワカエ紙工という会社が作っている。今も作られており、「点取占い」の誕生は昭和10年代なのだそうだ。
めちゃベストセラーじゃないか。
それにしても、子ども相手の駄菓子であるはずなのに、この文章はいったいどんな発想でつくったのか。シチュエーションを無視した思いもよらぬ言葉は衝撃が大きい。
ぼくはこの「点取占い」をデカいポスターフレームにびっちり並べて、トイレの壁にかけておきたいと企んでいる。
アマゾンの一行広告といい、点取占いといい、たった数文字であっても短文の持つインパクトは長編小説に匹敵する。言葉の爆弾といっていい。
長く美しい文章を書けることにも憧れるけれど、読み手をイッキに揺さぶる短文には恋い焦がれる。
最後に、お気に入りのアマゾン一行広告をもうひとつ。
これはうまい!と、ぼくは手を叩いた。
「出演者の中で一番マトモなのはどう考えてもマリリン・マンソン」
これは名コピーですよ。
(2017年4月1日記)
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