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「ブラッシュアップライフ」~たった一人の<ウーマン・リブ>(上)
「ブラッシュアップライフ」で起きた不倫未遂事件のてんまつ
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(「ブラッシュアップライフ」オフィシャルブログより)
ドラマ「ブラッシュアップライフ」の後半に、主人公の近藤麻美(安藤サクラ)が、保育園からの幼なじみ、森山玲奈(黒木華)を守るため、独身を装って近づく薬剤師の男(野間口徹)のもとに単身押しかけ、二人を別れさせることに成功し、「徳を積む」という場面がある。
ほんわかしたドラマのなかで、これは、たった一つ、シリアスなエピソードだった。
麻美は、薬剤師の男に返り討ちにあうかもしれない危険な局面だったのだが、友だちに泣き寝入りはさせないという<正義>と、男の欲望にひそむ<悪魔>がぶつかりあうという構図がここにはあった。
男との対決に勝った麻美の姿を観て、半世紀ほど前の、ニッポンの<ウーマンリブ運動>を思い起こしたのだが、それには少し説明が必要かもしれない。
「やっぱり猫――」と「ブラッシュ――」のドラマ空間の変化
「やっぱり猫が好き」から「ブラッシュアップライフ」までのおよそ35年間で、女性ドラマの描き方も大きく変貌したように思う。
おもに女性だけで演じられるドラマ空間の違いがまずある。
「やっぱり猫が好き」では、バブルの影響で高騰していた千葉県浦安⇒幕張⇒都心・渋谷のマンションへと“成長魚”のごとく引っ越して行ったとはいえ、それらの一室を模したスタジオに閉ざされていた。
「ブラッシュアップライフ」では、神奈川県相模原市や秦野市のロケ現場へとかなりオープンになっている。
もちろん、ドラマ制作上の予算の制約もあっただろうが、「ブラッシュアップライフ」では、ドラマのキャラクターたちが主体的に行動する生き方により踏み込んで、アクティブ性が強調されている。
女性が前面に出てきた製作陣、そしてフェミニズム運動
それに、「やっぱり猫が好き」は、(ヘアメイクや衣裳担当を除き)スタッフがほぼ男性だったのに対して、「ブラッシュアップライフ」のプロデューサー5人のうち4人は女性だった。
でも、もっと大きな変化は、生身の役者とスタッフの意識に影響を与えた、女性たちによる社会的なムーブメントだったように思う。
生半可な知識で恐縮だけれど、女性たちの<自由、公正、平等>を求める社会的な活動は、1800年代後半にイギリスで始まった女性参政権運動から、1900年代後半からアメリカを中心に活発になった女性解放運動、フェミニズム運動、ウーマン・リブ運動、文化・芸術領域を含めた新しいフェミニズム運動へとおよそ100年以上をかけて世界に広がりを見せた。
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女性たちによる運動が急速にギアを上げたのは、2000年以降のことだ。
ブラック・ライブズ・マター運動と歩調を合わせるかのように、男性によるパワハラ・セクハラに対する #MeToo運動 、保守的な男性の根底にあるミソジニー(女性蔑視と嫌悪)弾劾へとトーンを高めていった。
ニッポンの#MeToo運動をつぶした政権とメディアの癒着
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今では忘れかけているかたも多いと思うが、ニッポンにも #MeToo運動 の先駆けと言われる人がいる。
伊藤詩織さん(ジャーナリスト)だ。
2015年、アメリカでジャーナリズムを学んだ伊藤さんは、就職相談のため山口敬之氏(元TBSワシントン支局長、当時の安倍首相を賛美する『総理』の著者)と会った。
その夜、山口氏から酩酊・意識混濁のなかレイプされ、伊藤さんは勇気を奮い起して警察署に訴え出た。
当該の警察署は訴えを受理し、証拠と証言を得て容疑をかため、山口氏に逮捕状を取ったのだが、帰国した成田空港での逮捕寸前に“待った”がかかり、氏は無罪放免となった。
この異例の背景には、警視庁上層部(当時刑事部長、のち警察庁長官に抜擢)の“アベ友”に対する“忖度”が働いたのではないかと言われている。
しかし、民事訴訟では山口氏の性犯罪が認定され、伊藤さんは勝訴した。
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202207200000469.html
それらの経緯は伊藤さんの著作『Black Box』(文藝春秋)に詳しいが、日本の大手メディアは安倍政権への忖度から沈黙し、イギリスのBBCが伊藤さんのドキュメンタリー番組を放送したことにより、ようやく当のTBSも「報道特集」で概要を伝えた。
ちなみに、差別言動で知られる杉田水脈氏(自民党衆院議員)、はすみとしこ氏(漫画家)らは伊藤さんへの誹謗中傷(二次被害)に加担したとして名誉毀損の損害賠償判決を受けている。
こうした経緯はジャニーズ事務所の創設者ジャニー喜多川氏による性加害問題をBBCが放送したことにより、日本の大手メディアが追随報道したのとそっくりの構図だ。
もう一つ、国策だった東京五輪のPRキャラクターが“国民的人気”のSMAPだったことから、当時の大手メディアがジャニー喜多川氏の性加害報道を控えたのではないかという憶測も未だに消えない。
その点、SMAPが解散してしまったことにより、国民から低支持だった東京五輪を盛り上げようとする当時の政権の思惑がはずれてしまったというのは皮肉な話だと思う。
(つづく)