【ヨコハマ筒香劇場2024】<プロローグ/第1幕>5月6日まさかの逆転3ラン!
金満球団より横浜を選んだ筒香さん、あなたはやっぱり気骨がある!
「おかえりなさい」――横浜ファンの大歓声とともに、筒香嘉智(つつごう・よしとも)選手が5年ぶりの5月6日、横浜スタジアムに帰ってきた。
読売巨人軍から高待遇の条件を提示されながら、それより条件面で劣る横浜ベイスターズを復帰先に選んだとスポーツ紙は報じていた。
人間として気骨のある筒香嘉智さんの真骨頂といえる。
筒香選手が2019年、夢に見た大リーグに渡ったころ、選手としての力量はピーク時よりかなり落ちていた。
不安がられていたように、豪速球の投手が多い大リーグで目立った活躍はできず、球団を渡り歩きながらやがてマイナーリーグに降格され、今年になって、ついに自由契約の身となってしまった。
「日本に早く帰ってこいや」――プロ野球OB評論家は口をそろえて呼びかけていたが、ようやく復帰を決断し、横浜と再契約した。
<225(ツツゴー)デー>の球団の狙い、それに見事に応えた!
しかし、横浜に戻ったものの、2軍の調整期間中、打率1割台と低迷した。
「筒香の1軍昇格はパリーグとの交流戦を待たなければならないだろう」―本人が「まだ体のキレが悪い」と認めたように、プロ野球関係者は誰しもそんな予測をしていた。
ところが、横浜の三浦監督は5月6日の対ヤクルト戦の前夜に、「筒香を先発6番バッター、レフト守備で出場させる」と突然発表した。
これには、横浜ファンがすぐさま反応し、「ワクワクする」とSNSにおおむね好意的に書き込んだのだが、「連休最終日の大入り興行を優先させたのだろう」という冷めた声も少なからずあった。
当日、球場の立見席を225(ツツゴー※筒香選手の背番号は25)の語呂合わせで観戦チケットを225円で販売し、即完売したというから、球団は5月6日のヤクルト戦を<225(筒香)デー>として盛り上げようという経営戦術があったのは間違いない。
筒香よ、やはりあなたは強かった!逆転3ランに感涙ぼろぼろ!
5月6日のヤクルト戦――。
筒香の記念すべき復帰第一打席はフォアボール、第二打席はセンターへの大飛球、第三打席はあと数十センチでホームランという復帰後初ヒットの2塁打、やがて<ヤ5―横2>という配色濃厚な8回裏の攻撃ラウンドがやってくる。
まず、打撃好調の蝦名が速球派のエスパーダ(ヤ)から2塁打、続けて佐野がライト前にクリーンヒットで1点を返し、牧が三振に倒れたあと、選球眼のいい宮崎がフォアボールを選び、筒香に打席をまわした。
宮崎は筒香の<大舞台>のお膳立てをしたのではないか、と中継解説者(緒方耕一さん)は語っていたが、ツーアウト1、2塁という場面で、いよいよ筒香がバッターボックスに立つ。
わたしはこの場面で筒香がホームランを打ったりしたら、球場内はオーバーヒートするのではないか、と夢想したが、そのとおりのことが起きた。
筒香のバットがエスパーダの初球をとらえて一閃するや、白球は夜空に舞い、横浜ファンに埋め尽くされた右中間の外野席に突き刺さっていった。
筒香選手はチームの精神的支柱に、あとはバウアー投手の復帰待ちだ
最終回の9回、抑えの森原投手がいつになく緊張し、珍しくマウンド上で大きく両手を広げて深呼吸し、なんとか三者凡退に打ち取り、筒香が一人お立ち台に立つ<筒香劇場>のフィナーレを迎えた。
スポーツ・シーンに一喜一憂するのは常とはいえ、5月6日のナイターゲームほど、シナリオのないドラマと言われるプロ野球に感動し、涙したことはなかった。
――思えば、筒香選手は大リーグのチームメイトからも「礼儀正しい人格者」との定評があり、大リーグに行く前は、リトルリーグや高校野球の体罰やしごき、根底にあるスポ根体質などを批判して外国特派員協会で記者会見に応じ、出身地の和歌山に私費を投じて少年野球のグラウンドを造った。
そうした筒香嘉智という人間が好きだった。
これからスランプに陥ることがあるかもしれないが、それらを乗り越えてみずからの記録を達成するとともに、度会や石上など若手選手を励ましてほしい。
6月になったらメキシコでプレーするバウアー投手の契約が終了し、かすかな望みで横浜に復帰するかもしれない。
そうなったら、鬼に金棒、筒香の打棒、三浦監督の好采配が必須ではあるけれど、筒香選手がチームの精神的支柱となって、セ・リーグ優勝をよしともぜひとも達成してほしい。