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韓ドラ「最期の食事を作る女」~(Ⅰ)知られざる死刑囚の「ラストオーダー」
「パラサイト」「愛の不時着」、そして――
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「最期の食事を作る女」(2018年)は、「パラサイト 半地下の家族」(2019年)でセレブな妻を演じ、いちやく国際的なスターとなったチョ・ヨジョン主演の単発ドラマです。
「愛の不時着」(2019年)ほか大ヒットを連発する韓国ケーブルテレビ局の「tvN」が制作したオムニバスドラマ全10話(☛)のうちの1話で、日本ではCS局「アジドラ」(アジアドラマチックTV)で、2021年12月に放送されました。
(☛)この<ドラマステージtvN>というシリーズは、tvN局が公募した脚本を実力派監督×人気俳優で手がけた一話完結の作品集。ほかに、ビリヤードの才能に目覚めた中年主婦が自立する物語「時間切れ」、性サイトの被害に遭った女性たちが連帯して主犯に復讐を遂げる「ファイター チェ・ガンスン」など、女性を主人公にした佳作ながら見ごたえのある作品が目立ちました。
この「最期の食事を作る女」は、韓国内の<優秀放送映像コンテンツ>に選定され、シリアスなテーマでありながら、Xmasの雪の情景など抒情的な場面を盛り込み、説明を極力排したミステリアスな心理劇に仕立てています。
死刑囚の「最期」の食事メニューは?
では、いったい、どんなドラマなのか、番組ガイドを見ておきましょう。
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【「最期の食事を作る女」:ストーリー】
刑務所に勤めるスア(チョ・ヨジョン)は、死刑囚が最期にとる食事を作っていた。ある日、妄想性障害を患っているミンジュン(ハジュン)が収監されてくる。彼は自分が死刑囚であることを認識できておらず、刑務所を出所した後の未来についていつも考えていた。スアは、そんなミンジュンのこと気にかけていたが…。
このあらすじで、だいたいどんなドラマか、お分かりいただけたと思いますが、邦題について、ちょっと言い添えておきたいことがあります。
「最期」と「最後」は、どちらも「さいご」と読みますが、意味を取り違えて使われることが多く、「最期」とは、《命の終わるとき。死にぎわ。臨終。末期 (まつご) 。「―をみとる」》(goo辞書サイトより)という意味で、もしも、「最後の食事を作る女」というタイトルだったら、ドラマチックな展開は期待できなかったでしょう。
(それに、「女」というのは昭和の言い方で、せめて「女(ひと)」と漢字にルビを振るとか、工夫があってもよかったような気がするのですが)
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死刑囚の最期の食事オーダーは、さまざまです。
ある人は月見ラーメン(上掲画像)、またある人は愛妻弁当、なかには刑務所の塀外から出前を取った大量のハンバーガー……、そして自身を死刑囚とは思っていないミンジュンは……と、十人十色なのです。
そうしたオーダーに、各人のそれまでの人生や個性が垣間見えて、もしもあなただったら末期に何を注文しますか? と聞かれているようで、ちょっと考え込んでしまいます。
死刑囚に対する見方が変わるドラマ
さて、本題に入ります。
罪を憎んで人を憎まず――とはよく使われるフレーズですが、被害者とその家族からすれば、罪人を憎んでも憎み切れない、というのが当然の感情ではないかと思います。
ところが、「最期の食事を作る女」を観ると、死刑囚に対する見方が少し変わってきます。
このドラマは、ソウル刑務所の厨房係スア(チョ・ヨジョン)が、服役中の囚人の食事を賄うルーティンのほか、死刑囚の注文に応じて最期の朝食を作り、そばに座って食べ終わるのを見届け、食事を済ませたばかりの人間が最期を迎えるときまで、廊下から木製のドア1枚で隔てただけの絞死刑場の外で待機するという、ドラマや映画の題材としてはおそらく初めての、それだけにショッキングな内容です。
スアは、刑務官から「刑務所のルールを守れ」との厳命により、死刑囚を目の前にしても、同情したり泣いたり言葉をかけたりせず、自分の心を殺し、つとめて無機的な表情で5年もの間、淡々と<仕事>をこなしてきました。
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あと数か月、順調に<仕事>をこなせば公務員に昇格できるという時機を目前にしたスアが、青年死刑囚(囚人番号486)のミンジュン(ハジュン)が収監されてきたところから、心の激しい揺れが始まります。
そして、死刑囚486の刑執行の朝、ある計画を実行しようとしますが……。
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ミステリータッチの要素もあるので、結末は明かせませんが、いつも冷徹な厨房係スア役のチョ・ヨジョンをはじめ、正体がつかめない青年死刑囚役のハジュン(叙情的なミステリードラマ「ミッシング」ほか)、渋い中年刑務官役を好演するハン・ジェヨン(連続ドラマ「風と雲と雨」ほか)、それに刑務所長役のパク・スヨン(痛快な復讐劇の連続ドラマ「逆賊」ほか)、新米の厨房補助役のイ・ユミ(未見の大ヒット作「イカゲーム」ほか)……いずれも、役柄ぴったりの巧みな演技を見せ濃密な作品に仕上げています。
「後悔する時は、みんな老けてるのよ」
とくに、チョ・ヨジョンの演技は必見です。
「パラサイト~半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)がパルムドール(最高賞)を獲得したカンヌ国際映画祭の会場でも、そのゴージャスな美しさは注目を浴びました。
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また、その冷徹な演技は、大金を拾ったばかりに金欲にとりつかれる主人公を演じた連続ドラマ「99億の女」(2019年、全22話)に通じるものがあって、魅入ってしまいました。
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「最期の食事を作る女」ではそれまでの作品の役柄から一転して、主人公のスアは死刑囚や服役囚を相手にする厨房係ですから、時には悪夢にうなされ、薬に依存する慢性的な睡眠障害に悩まされような女性です。
そして、刑務所の敷地内の宿舎に暮らすため外界との接触はできず、親からのカネの無心の電話に悩まされ、恋人の影は見当たらず、所内の写真を撮るのが唯一の趣味で、公務員になることだけを希望にして生きています。
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でも、よくよく考えてみれば、仕事の特殊性をいったん脇に置けば、一般の会社勤めの人だって、主人公のスアと大差ないかもしれません。
わたしも現役のころ、目の前の山積みになった仕事をこなすのが精いっぱいで、あとは家と勤め先(ときどき飲み屋)の往復だけの毎日、祝休日といえばただひたすら眠るのが幸せといったあんばい。
世界を知ろうとする気力なんて失われた<仕事人間>、あるいは会社に囲われた<社畜>とまではいかないにしても、どこかで自分を殺して生きていたのではないかと思います。
ドラマのなかで、印象的なセリフがあります。
スアの先輩が突然退職して刑務所の外へ去ろうとするとき、そしてスア自身がのちに後輩にバトンリレーをする際、静かにこう言います。
「後悔する時は、みんな老けてるんですよ」
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そう、後悔先に立たず、まして、中高年はまだしも、老年となってからでは、いくら過去を悔いても取り返しがつきません。
だから、スアは後悔しないため、おそらく20代のまだ若いとき、観ている者に、あれっ!?と思わせるような、意表をついた大胆な行動に出たのでしょう。
この90分のドラマ、さまざまな人生の喜怒哀楽が凝縮されているようで、“スア=チョ・ヨジョン沼”をもう3周してしまいました。
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【付記】
チョ・ヨジョンさんはモデルから転身し、映画「後宮の秘密」「情愛中毒」などの体当たりの演技で評価されましたが、今やすっかり中堅の演技派女優の地位を固めました。
その最新作は、連続ドラマ「浮気したら死ぬ」(2020年、全16話)。
人気ミステリー作家と弁護士のカップルによるブラック・ラブコメディだそうですが、CS局(女性チャンネル/LaLa TV)で2月6日から放送されるので、今から楽しみです。
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<次号予告>
★韓ドラ「最期の食事を作る女」~(Ⅱ)知られざる死刑囚の「日常と恐怖」★