韓ドラ「アルゴン」に見る――「ひるおび!」弁護士のデマ騒動(下/最終回)
★見出し画像★
「アルゴン~隠された真実」のもう一人の主演者、チョン・ウヒは番組スタッフから“傭兵”と蔑まれながら、地道な取材と帰宅後もプロファイリング(犯人像のデータ分析)を駆使し、ついに政官財ぐるみの告発スクープをものにする契約社員を見事に演じている。その成長ぶりを<シーズン2>で見届けたかったのだが、W主演のキム・ジュヒョクさんの不慮の死で叶わなかったのが、ほんとうに惜しまれる。
「アルゴン」に何が起きていたのか
ここで、韓国ドラマ「アルゴン」をもう一度観てみましょう。
「アルゴン」のニュースキャスターは、2度目の<謝罪>に追い込まれてしまうのですが、初回の<謝罪>時と違って、今度の告発相手は、国家権力の中枢と自局の社長を含むものだったため、報道局幹部は放送にストップをかけようとします。
また、もし報道すれば、番組に信頼を失いかけている“番組スポンサーがすべて降りて、番組じたいが潰されるぞ”と、出世しか頭にない報道局長からキャスターは警告を受けます。
実際、<誤報>に怒った視聴者=消費者からの不買運動を恐れた番組スポンサーの中には番組提供から降りる社が出たため、局の幹部による緊急会議が開かれ、同席したキャスター(下画面右奥)は番組の存続を願うあまり、告発報道の意欲をそがれてしまう、という弱い姿勢を見せてしまいます。
スポンサーは鬼より怖い!
テレビ、新聞、雑誌、インターネットなど、NHKを除いた民間のどのメディアも、ご存じのように収入のほとんどを広告に頼っています。(新聞・雑誌も購読料は収入の一部にすぎず、広告を載せない隔月刊の総合生活誌「暮しの手帖」は驚異的です)
つまり、テレビ局の経営とその社員たちの生活は(電通など広告代理店を含め)、番組スポンサーが握っているわけです。
☞☞☞余談ながら、電通―TBSで2年間、学生バイトをしていた経験から、番組スポンサー(当時は1社提供が多かった)の権勢は骨身に沁みています。
今回の「ひるおび!」の一件でも、「アルゴン」と同様の局面がくると予見した人がいました。
≪沙和(大阪府・市に情報開示請求をかける府民)≫さんは、「ひるおび!」弁護士デマ発言の放送直後に、次のようなツイートをしています。
某大手広告代理店の人から聞いたけど、 ひるおびの件、 SNSで騒がれたり局に抗議のメールが来るだけならまだ何とかなるけど、 スポンサーに対してメールや電話の抗議が沢山いっちゃうとマズいんだって。 P&Gやキユーピーは、エシカル(註)に長けてるから、特に大変なことになりそうって。(2021/09/13発信)
(註)エシカルとは、「倫理的」「道徳上」という意味の形容詞である。つまり、「法律などの縛りがなくても、みんなが正しい、公平だ、と思っていること」を示す。近年は、英語圏を中心に倫理的活動を「エシカル○○○○」と表現し、エシカル「倫理的=環境保全や社会貢献」という意味合いが強くなっている。(WEB百科「ウィキペディア」より)
≪沙和≫さんの予見が見事に的中してしまったのです。
「デマ発言」の翌日、十数社ある「ひるおび!」スポンサーのなかでもトップクラスのキューピーが、番組提供から降りてしまい、(のちにキューピーは番組に復帰しましたが)、あわてたTBSは、八代弁護士の再謝罪と社長自らの謝罪言及会見に追い込まれたというのが<真相>ではないかと推測します。
大手メディアは、いっけん華やかな世界ですが、しょせん情報を売るサービス業にすぎません。
SNS時代ならなおさらのこと、視聴者=消費者の動向に敏感な広告主から不興をかうことが経営陣と制作スタッフにはいちばんこたえるのです。
「閣議決定」という苦しい弁明
(↑)安倍政権は前代未聞の“幼稚”な閣議決定を連発した(写真は2019年10月の閣議前)。
八代弁護士の初回の謝罪が「苦しい弁明」にしかすぎないと前に書いたのは、日本共産党が「暴力革命」を今もなお志向している政党である――などと、安倍=菅政権による「閣議決定」(*)に「基づいた」と、それじたい卑怯な言い訳をし、責任を他に転嫁しているからです。
(*)「八代氏の言っていた閣議決定とは、16年3月22日に当時の安倍政権が日本共産党について、 《現在においても破壊活動防止法(破防法)に基づく調査対象団体である》 《『暴力革命の方針』に変更はない》 との答弁書を閣議決定したことを指している。(中略)しかし、この閣議決定にも《共産党の綱領に『暴力革命』が記されている》とはない。」
(2021/09/21週刊「FRIDAY」デジタル発信より)
安倍=菅政権が連発した「閣議決定」なるものは、“首相夫人(安倍昭恵氏)は公人ではなく私人”(税金でまかなわれる公設秘書が複数いたにもかかわらず)であるとか、真っ当な議論の回避や追及逃れのいい加減なものが多く、国際弁護士ともあろう人物が、それを鵜呑み(なぜ鵜呑みにしたのかは明らか。自民党麻生派を率いる差別主義者の領袖が「立憲共産党」と公然と罵り、野党共闘の分断をはかったのと同一線上にあった)にしたという深層は黙秘しているためいまだにわかっていません。
また、政党の憲法にあたる「綱領」を自分の目で確認もせずに攻撃したのだとしたら、弁護士失格ではないかと思うのです。
ゲッベルスの「プロパガンダ」
また、八代弁護士が「テレビで発言する者」として謝ったというのは、酒席での与太話とは違って、テレビという「公器」で発言する重みを本人が自覚していた、ということの証左です。
つまり、事実無根の「デマ」を公然と言ったと認めたわけで、わずかな時間とはいえ“TVジャック”もしくは“放送電波の私物化”に相当する言動だったのではないでしょうか。
それにしては<モリカケサクラ>という政治の私物化と腐敗の膿には“寛容”なコメントを続けてきながら、今さら「(与野党の)バランスに配慮」と言うのは、自身の政権寄りの「偏向」をいみじくも認めたことになり、たんなる言い間違いではなく、「確信的」な発言だったということがよくわかります。
まして、番組降板という責任もとらず、それを小さな事として済ませようという世間の「空気」「風潮」にも危うさを感じます。
このままでは、TV界も、政財界と同じ、“今だけ自分だけ”よければいい、という刹那的で無責任な考え方に支配されていってしまい、いつしかヒトラーの最側近だったヨーゼフ・ゲッベルス宣伝相の「プロパガンダ」(特定の主義や思想に導く宣伝戦略)という“真綿”に首を絞められかねません。
――ゲッベルスは肉声でこう語っています。
「プロパガンダには秘訣がある。何より人々にプロパガンダと気づかれてはならない。相手の知らぬ間にたっぷり思想を染み込ませるのだ」
(NHKBSプレミアム<ザ・プロファイラー「ヒトラーの広告塔 ゲッベルス」>より)
その思想とは、ラジオ・新聞・映画といった当時の全メディアを駆使した「反共産主義」「反ユダヤ主義」を煽動するもので、ナチスは同時に、「反同性愛者」「反心身障がい者」をスローガンに掲げて「政敵」をつくりだし、彼らの<絶滅>を実行しようとしたのです。
(おわり――最後までお読みいただき、ありがとうございました)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?