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【メディア】どうした!「朝日新聞」ミス・テリー<#3>~韓ドラ「赤い袖先」と朝日のコラムに起きたこと

「赤い袖先」の宮女は誤字を一つも出さなかった

朝鮮国王イ・サン役のジュノ(2PM)と宮女役のイ・セヨンのダブル主演ドラマ「赤い袖先」(全17話、2021年、MBC制作)がおもしろい!

「赤い袖先」のタイトル画面(WOWOWより)

「赤い袖先」のストーリー:
若き日の第22代国王イ・サンと聡明な宮女ドギムの切ない愛の物語を新しい視点で繊細に描き、韓国で大ブームを巻き起こした本格歴史ロマンス。

(WOWOW番組案内より)

この国内の数々の賞に輝いたドラマの前半に、達筆な宮女ドギム(イ・セヨン)が、筆写した文字に誤りがないかを王家の娘たちにチェックされる場面が出てきます。

「赤い袖先」の一場面~中央奥が宮女ドギムに扮したイ・セヨン

宮女ドギムは、『郭張両門録』(クァクチャンヤンムンロク)という本を、10部も筆写する役目を与えられるのですが、6人がかりで3日を要する分量をたった1日でやってのけ、かつ1文字の間違いもなかったため、王家の娘たちに褒められます。☛【トップ画像】
 
ちなみに、ドギムは、イ・サンの側室となる宜嬪・成氏(ウィビン・ソンシ)という実在の人物をモデルにしたようで、(上記の)筆写のエピソードも実際の出来事だったようです。
 
そのあたりを、康熙奉(カン・ヒボン)さんは、WEBの連載ページに、こう綴っています。

『郭張両門録』の作者は未詳で、郭家と張家の両家に起こった出来事を記した小説で、当時とても人気が高かった。この小説を熱心に筆写できるほどだから、宜嬪・成氏も相当に学識が高く当時の教養人であったことが窺える。

(ジュノ(2PM)主演作『赤い袖先』のヒロイン、宜嬪・成氏の本当の人生(中編)【康熙奉のサランヘジョ韓ドラ〈14〉】より)
https://futabanet.jp/kankoku-tvguide/articles/-/85727?page=2

とはいえ、教養人にして達筆なうえ筆写が正確無比だったとしても、ドギムは作者というわけではなく、ただ丸写しにしただけじゃないか、と言われそうです。
 
でも、印刷技術はなく、複製して普及するには筆写という方法しかない時代です。
まして、王家に献上するにあたっては、身命を賭す覚悟で、それこそ細心の注意を払って労作を成し遂げたとも言えます。
 
わたしは、この場面を観ながら、このところ度重なる朝日新聞紙上の誤記(誤字と内容の誤り)に<喝!>(TBS系「サンモニ」のスポーツコーナーで有名)を入れたくなるとともに、背景に何があるのかと、記者たちへの憂いを深めたのです。

連載コラムに起きた重大な“編集ミス”は、なぜ?

さて、本題に入りますと、10月下旬、筆者交代のリレーコラム(文化面)について、「編集時に作業ミスがあった」と朝日新聞が<訂正とおわび>を掲載しました。
 
そのコラムとは、ミュージシャン・後藤正文さんの「朝からロック 丸裸の自分に残るもの」という音楽家として自らを諫める、率直で、心打たれる見事な文章でした。

(2022/10/26付朝日新聞文化面より)

実は、コラム全文をここに掲出すると、【禁無断転載】に該当するおそれがあり、かなり躊躇したのですが、後藤正文さんのコラムをすべて読んでいただかないと、朝日新聞社の<訂正とおわび>の主旨がわかりにくく、また、なぜこのような<編集時のミス>が起きてしまったのか、それを考える手掛かりがなくなると考え、マスキングはしませんでした。
 
次の囲み記事が、<訂正とおわび>の文章(右端)です。

(2022/10/28付朝日新聞社会面より)

朝日はいったい誰に向かって<訂正とおわび>をしたのか

コラム筆者の身になって考えれば、自分の文章が一部であれ勝手に変えられることじたい我慢ならないでしょう。
 
しかも、今回のケースは、名うての文章家でもある後藤正文さんが自らの精神をそれこそ<丸裸>にし、音楽家としての内省的な決意を示した<結語>に込めるものがあったと思われます。
 
それなのに、朝日の<訂正とおわび>を読むと、<筆者の原稿と異なっていた><編集時に作業ミスがあった>と、<訂正>はされているけれども<おわび>の真情は示されない、きわめて素っ気なく、事務的で、冷淡な響きだけが残る、まるで他人事のよう言葉でしかありませんでした。
 
それに、いったい、どこを向いて、誰に<おわび>しているのか――まずもって筆者である後藤正文さんに紙上で謝罪すべきだし、読者に対しても、<編集ミス記事>を読ませてしまったことを率直にあやまるべきなのです。
 
<訂正とおわび>の主体も不明で、これではまるで<ニッポン低国>の無責任体系そのものではありませんか)
 
こう書くと、世に言う“クレームじじい”のようで、ちょっと気が引けるのですが、今回のコラムは重大な<編集ミス>であって、そうかんたんに済まされる問題ではありません。

正文と誤文を比較対照してみる

ここで、後藤正文さんの正しい文章と、朝日が間違って掲載した文章を並べて、検証してみましょう。
 
******************
≪誤った文≫
「それはまた、厳しさでもある。自分ではどうすることもできない人気という要素と音楽的な技術があるのかを、僕に問いかけてくる。」
 
≪正しい文≫
「それはまた、厳しさでもある。いつでも、丸裸で音楽を鳴らす決意と音楽的な技術があるのかを、僕に問いかけてくる。」
******************
 
この正誤文を比較すると、<自分ではどうすることもできない人気という要素><いつでも、丸裸で音楽を鳴らす決意>とでは、<結語>としての重みが異なってくることがわかります。

朝日の<編集ミス>を検証してみる

では、なぜこのような間違いが起きてしまったのか。
 
筆者原稿(テキスト)が読者の手元に届くプロセスは、(おそらく)2つあります。
 
1) 筆者が手書き原稿だった場合
筆者の手書き原稿は、郵送かファクスで東京本社文化部担当宛に送られ、編集担当者が原稿チェック後にパソコンで入力して校閲部に回し、それを最終的にデスクがチェックし(順不同です)、連載の場合は固定スペースであるため、レイアウト・組版担当がテキストを流し込み、印刷に回される。
 
2) 筆者が電子メールで送稿した場合
編集担当者は電子化されたテキストを受け取り、あとは1)と同じ工程をたどる。
 
この2つのルートのいずれにしても、ヒトの手が介在するのは、パソコン入力の際か、テキスト流し込みの際か、のどちらかです。
 
上掲のコラム掲載記事をもう一度見ていただきたいのですが、書きだしの6行目<自分ではどうすることもできない人気という要素>という文章が、かなり離れた最終段の正しい文である<いつでも、丸裸で音楽を鳴らす決意>に入れ替わり、しかも<自分ではどうすることもできない人気という要素>がダブってしまっています。
 
まさか、朝日の編集担当やデスクが、筆者原稿(テキスト)に勝手に手を入れたとは思えません。
 
なぜなら、元の<いつでも、丸裸で音楽を鳴らす決意>という文章のほうが、はるかに<結語>としてはすぐれているからで、そうでないと、新聞社側が付けたと思われる見出しの≪丸裸の自分に残るもの≫が利いてこないからです。
 
――結局、原因がさっぱりわからないままなのですが、こんな<訂正とおわび>が続くようでは、<クウォリテイ・ペーパー>の信頼と権威は失墜するどころか、少子高齢化の今、子どもたちに将来読者になってもらう努力を重ねているにも関わらず、“朝日ばなれ”が雪崩のように起きること必定です。

最後に残る、<中1日の空白>ミステリー

最後に残るミステリーは、コラムが掲載されたのが10月26日、<訂正とおわび>が載ったのが28日……。
この中1日の空白はいったいなんだったのか。
 
朝日新聞社内で、誤りに気づく人間はおらず、筆者ご本人かその関係者か、いずれにしても外部からの指摘で誤りを認め、あわてて<訂正とおわび>を出したようにも受け取れます。
 
そうでなくとも、朝日新聞社は購読料値上げの際に、経営赤字を理由にしたように、“新聞ばなれ”が加速し、台所はますます火の車ではないかと想像され、こんな体たらく(11月に入っても誤字誤記の<訂正とおわび>は続いています)では良質の記事まで信用されなくなるのではないかと危惧します。
 
(次回「朝日新聞~貧すれば鈍す」につづく)

【後記】母は「新聞が読みたい」と言って白内障の手術を

新聞に限らず、メディアにとっていちばん大切なことは、<真実の報道>と<権力監視>にあることは言うまでもありませんが、もう一つ文章(記事)で大切なことがあります。
 
作家・井上ひさしさんの有名な言葉です。
 
『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、
ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと』
 
わたしの母は今年96歳になりますが、80代になって「新聞が読みたいから」と、白内障の両眼手術を受けました。
 
手術を終え、朝日新聞を手にとると、「カラー広告がきれいだねえ」と喜んでいましたが、やがて「朝日はむずかしい」と言い出し、それきり読むのをやめてしまいました。
 
その代わり、同じ朝日でも、テレビ朝日のほうの刑事ドラマ「相棒」ばかり観ていました。
 
井上ひさしさんの『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……』に付け加えさせていただければ、「文字は正しく」が挙げられると思いますが、朝日新聞社の労働者には、経営不振と人手不足のプレッシャー、それに目先の仕事をこなすのに精一杯で、もう余力は残っていないのでしょうか。


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