【Jドラマ】「スロウトレイン」~<江ノ電>と<家族>への愛(後篇)/【付録】野木ドラマ「フェンス」
※物語のネタバレ、少々あり。
「家族のなかに社会がある」という発見
新春SPドラマ「スロウトレイン」の三姉弟が、韓国・釜山のロケ地として有名な浜辺を歩きながら、次女・都子(多部未華子)の「家族って、なんなんだろう」という問いかけから<家族史>のなかの心情をみなで吐露する場面が出てきます。
都子は、仕事で知り合った韓国人青年(チュ・ジョンヒョク)と釜山で<和だし専門のカフェ>を開くため渡韓しますが、彼のプロポーズにいったんちゅうちょします。
彼の立派な家族に比べ自分は早くに両親を亡くし、親がなければ家族の体裁はなさず、まして独身の姉より先に結婚して<新しい家族>をつくるわけにはいかないというためらいが邪魔しているようです。
その姉の葉子(松たか子)といえば、妹や弟のことが気がかりというより、結婚したいと思った相手(井浦新)との間で仕事に対する考え方が違って別れてしまったと告白します。
弟の潮(松坂桃李)は、売れっ子作家(星野源)のことが好きになり、いっしょに暮そうと約束する仲です。
この浜辺のハイライト・シーンで、脚本の野木亜紀子さんは、そもそも家族のなかにすでに<多様な社会>があるのだということを描きだそうとしたのではないか、という気がしました。
姉の未婚あるいは非婚、次女の韓国人との恋愛、弟のLGBTQ……伝統的・保守的な家族形態や価値観とは相いれない新しく多様な<家族のかたち>を、それぞれがどう周囲との折り合いをつけながら生きていったらよいのか――ドラマでは腑に落ちる、納得できるというところまで話し合わないと、姉のセリフにあるように、鉄道になぞらえた人生の「次の停車駅」が見つからない、ということを示唆しているような。
これって、“家族のなかの民主主義”と言ってもいいのではないでしょうか。
【付録】“社会派ドラマの第一人者” 野木亜紀子さんの問題作「フェンス」
「スロウトレイン」の作者、野木亜紀子さんは“社会派ドラマの第一人者”と言われ、『逃げるは恥だが役に立つ』 『アンナチュラル』 『MIU404』 『海に眠るダイヤモンド』などの民放ヒット作ほか、沖縄の現実をとことんリアルに描いた問題作「フェンス」があります。
ドラマ「フェンス」(2023年、全5話=WOWOWオリジナル)には圧倒されました。
沖縄で頻発する性的暴行事件を東京の週刊誌ライター(松岡茉優)と沖縄在住のブラックミックスの女性(宮本エリアナ)がタッグを組み、犯罪の真相解明に乗り出すというストーリーですが、学校や映画館までアメリカ本国の暮らしをそのまま持ち込んできたような治外法権の米軍基地と沖縄県民の生活圏を隔てる金網の<フェンス>をはじめ、さまざまな<社会の壁>を徹底的に描き出し、ドキュメンタリー・タッチのすごみがあります。
最後に、 野木亜紀子さんが<ドラマのエンタメ性と社会性>について語った貴重なインタビュー記事を一部引用させていただきます。