大東流合気柔術-攻撃太刀之事(中)
卜伝の高上(こうじょう)「一つの太刀」とは、どのようなものであったのか。『甲陽軍艦』『関八州古戦録』『武芸小伝』等の記事によれば、「一つの太刀」には三段の見切りがあって、一つの位、一つの太刀、一つ太刀、このように区分する。第一は天の時、第二は地の利で天地を合わせる太刀であり、第三の奥秘の一つ太刀は人の和と工夫ということを説いている。とあるが、それなら『孫子』の説から一歩も出ていると思えない。抽象的に過ぎて的確な推量はくだしがたいが、太刀を振りおろす瞬間に天の利・地の利・人の技術的工夫の三段の判断を見きわめ、その一太刀で敵の死命を制して二の太刀を使わないという特殊な精神集中力を説いたものかも知れない。
と説いているが、文筆者の見方で実技を知らないから予測もつかない。この項に口伝のことを述べているが、これも当を得ていない。大東流合気柔術の教外別伝に剣対剣の相対動作(杖対太刀の組形の一部)があり「一つの太刀の大事」がある。形稽古は新当流時代からあったもので、太刀対太刀の形の中に「一つの太刀」のことを伝えている。綿谷氏は更にいう、
おもうに武術の極意・奥伝は、技術の解明よりは、微妙な心意のはたらきをさとらせるのが中心である。具体的に説明するのがむつかしいから、書冊や伝書に書きあらわさずに、口伝と称して、以心伝心に理解せしめようとする。
と述べているが、これも実技を習得したことがない、頭での理解の仕方である。