新陰流兵法目録事10
補足説明:九箇之太刀は、上泉伊勢守が神道流・陰流・念流など諸流の形から厳選し9本にまとめたものです。伊勢守の眼鏡にかなった古い形が残っている、貴重なものです。待の位である三学円之太刀とは違って、仕太刀から先に仕掛け、打太刀の動きを誘って勝つという構成になっています。筆者の印象としては、燕飛や三学に比べて体術的要素が少ないという気がしますが、伊勢守というフィルターを介しているので体術的要素が取り込まれている、と思っています。
では、九箇之太刀についても、その技術論に(先生にならって)軽~く触れておきます。
必 勝:重心の意識(どこに置いておくか)と移動・
へその向き(正中線をどこに向けるか)
逆 風:体当たりのやり方
十太刀:肩と体幹の使い方
和 卜:体幹の一体化とその捌き方
捷 径:腕・肩・体幹の一体化とその捌き方
小 詰:腕力を用いない腕の使い方
大 詰:腕・肩・体幹の一体化と体当たりのやり方
八重垣:重心の移動
村 雲:猿廻の捌き
最後に、左太刀について触れておきます。必勝の仕太刀が左太刀の構えをとります。左太刀というのは、通常の執刀法では、柄頭側が左手、鍔側が右手となりますが、これが逆になるのです。そこで(右)太刀から左太刀への持ち替えが必要となります。この持ち替え、稽古の中ではゆっくり使うこともありよく見えますが、天狗抄の乱剣では、動きの中で行われるため、その持ち替えが見えない(相手は気付かない)のです。相手は順勢の太刀筋を予測しているところ、逆勢の太刀筋で斬ってこられ、意表をつかれるのです。厳長先生は「左太刀の妙用を手に入れると、自在に太刀を使える。新陰流杖術の多くはこの左太刀から出ている。」と『柳生流兵法劍道(昭和7年5月発行)』の中で述べています。