大東流の口伝11
尾張系の新陰流兵法では、その教習課程の中に不安定を覚えさせる勢法が用意されています。内伝の天狗抄です。
ここで仕太刀は打太刀の柄中に乗りピョンピョンしたり(花車)、
打太刀の柄中に向かってお辞儀をするように倒れ込んでみたり(善待)、
と恐怖を払拭し、本能に逆らうという稽古をするのです。打太刀は仕太刀が倒れないようにしっかり支えるお約束ですから、仕太刀は安心して不安定をコントロールすることを学ぶ、というわけです。
ところで、尾張柳生家の教習課程は優れものです、こういった極意を知らぬ間にマスター出来るよう工夫されているからです。
具体的には、ヒトは不安定な状態である、ことを前提に、まず絶対的安定を教えます。ただの不安定はコントロールできる不安定ではないからです。安定とはどういう状態かが分からなくては不安定とは何か? が分からないと教えています。
そこで、入門編、無形の位(絶対的安定)を教えます。無形で安定してしまうと動けませんというか、動く気がしません。動けなくては困りますから、次に歩法の教えになります。重心の移動で進むか、股関節回りの筋肉等を用いるか、いずれにせよ足で蹴って歩かない歩法を学ぶのです。
次に、この安定化(一体化)した体を使う勢法(相雷刀八勢の「疾雷刀」など)を学びます。こうやって安定とはどういう状態かを覚えて初めて、不安定を教えるのです。先ほどの天狗抄です。
そして、不安定と安定を自在にコントロールできるようになるのです。
凡人であっても、この教習課程をこなすことで、達人の域を垣間見ることができるところまで、達することができる、すばらしいメソッドだと思います。