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沢庵和尚19

沢庵は、白河の関に着くと、筆をとって二首を認めた。
 都へと むかしの人も 今の身も 便あらばの しら川の関
 それとなき 旅だにあれば 黒髪も あかす一夜に しら川の関
 泊まり々の わびしい夜々を過ごし信夫に来ては 乱れるなと人を諫むる
 折からに 我心さへしのぶもじすり  
名だたる忍文字櫂(しのぶもちずり石)も流人の身の上にて見物する気にならなかった。近くの塩釜はそこから1日半で行けると聞いて、
 ゆるされぬ 身はいついきて みちのくの さがの塩竃近きかいなし
から詠み出でたが、さらに
 なかされぬ 身はあやにくに みちのくの 人は名こその 関はすきても
と一首を残した。
初めて、上の山で月明かりの夜を過ごした沢庵
 元是清光私照無(清光はもともと私を照らすことはない)
 巴陸日本洞庭湖(陸を望む、日本の洞庭湖)
 今宵可思十分影(今夜は十分な影ができると思う)
 月亦明天敧器圓(月もまた明日、敧器の円)
  敧器(いき):水を入れる器、空のときは傾き、半分ほど水を入れると
         真っ直ぐたち、満杯にするとひっくり返るという。
の一詩を賦した。それからまた詠む
 最上川 早瀬に月も 流されて しばし浮世に 住むかいもなし
 おもいきや 今宵の月の みちのくの あこやの松の 陰に明んとは

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